私のウェルネスを探して/佐藤ブゾン貴子さんインタビュー後編
【佐藤ブゾン貴子さん】衣装デザイナーとして更なる高みを目指し渡ったパリで挫折、「相貌心理学」「夫」との運命的な出会い
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LEE編集部
2024.11.10
引き続き、相貌心理学士の佐藤ブゾン貴子さんに話をお聞きします。ブゾンさんの取材は、ブゾンさんと夫が営む東京・八王子のガレット店『cafe de la poste』(カフェ ドゥ ラ ポスト)で行いました。八王子駅から少し離れた住宅街にあるガレット店は、家庭的な雰囲気がただよう居心地のいいお店。「地元の方もよく来てくださるのでついおしゃべりしちゃうんです。ガレットを食べたい、ちょっとお話をしたい、気軽に足を運んでくれるといいですね」。取材後にはガレット店のある「みずき通り商店街」で撮影をしました。どの店を訪れても「撮影いいよ!」「どうぞ」と快諾、地元でのブゾンさんの人望の厚さを感じた瞬間でした。
後半では、ブゾンさんが相貌心理学に出会い、ガレット店をオープンするまでをたどります。ファッション業界に身を置きさらなる高みを目指しフランスへ留学、そこで感じた挫折、夫・エリックさんとの出会い。どんなことがあっても常に前へと突き進む力強い生き方には元気がもらえるはずです。(この記事は全2回の第2回目です。第1回目を読む)
両親の離婚に伴う引っ越し・転校がきっかけで、人の「顔」を見るように
ブゾンさんは埼玉県生まれ、父親の仕事で3歳の時に茨城県に引っ越しをします。一人っ子で自由奔放、自分の意見はしっかり伝える子だったため、「口も悪かったしわがまま放題だった」と振り返ります。当時好きだったのは、沢田研二さんとゴム段遊び。沢田研二さんの真似をして幼稚園バスの中では麦わら帽子を斜めにかぶって真似するのがブームでした。当時からおしゃれが好きで、手を動かして遊ぶのも好きだったそうです。
しかし、小学1年生の時に両親が離婚。3年生の時に復縁し再婚しますが、その間に学校でいじめや嫌がらせを受けました。離婚中に母と過ごした先では大人に嫌われないよう常に周りに気を遣っていたことを明かします。
「当時はまだ離婚が一般的じゃなかったんです。いじめられたり、私もそれに負けないように対抗したり。母親と一緒に家を出たのですが、居候先が祖母や叔母の家だったので大人に嫌われないように、自分の居場所を作るのに必死でした。転校先の学校でも、嫌われない・いじめられないようにいつも気遣っていました。その頃から人の顔を見るようになり“この人はこういう人だな”と分かるようになっていたと思います」
当時好きだったのが、人に洋服をおすすめすること。お小遣いで母親に洋服をプレゼントしたり、友人の洋服をスタイリングしたり。高校時代もファッションが好きで、愛読書は雑誌『CUTiE』『流行通信』『high fashion』。発売日には書店に行き、どのファッションが好きかを友人同士で言い合っていたそうです。そんな時に雑誌で見たファッションショーに応募、当選し招待されました。そこで見たショーに感銘を受け、服飾関係の大学へ進学することを決意。東京へ行きます。
衣装デザイナーとしてキャリアを積み、ファッションの本場・パリへ留学するも予想外の展開に
大学卒業後は下着メーカーに就職しますが1年ほどで退職。その後、アパレルメーカー、テレビ向けの貸衣装会社勤務、ストリップの衣装制作などを経て、ショーパブを経営する会社のデザイン部門に就職。ニューハーフの衣装を作りながらフリーランスになり、個人で衣装のデザインを手がけるようになります。
29歳の時、ファッションをさらに深く学ぶためパリへの留学を決意。しかし現地に着いて、入学予定だった学校に行くと年齢制限があることが判明。さらには渡仏した時に換金したユーロ札を間違えて捨ててしまう大事件が起こり、とりあえず生計を立てるために日本食レストランでアルバイトを始めます。その頃出会ったのが、夫・エリックさんでした。
「フランス語を学ぼうとインターネットの掲示板で募集をしました。“日本語を教えますからフランス語を教えてください”と。恋人探しで声をかけてくる人もいましたが、日本語をローマ字で書いて送ってくるような一生懸命な人がいて。それがエリックだったんです。メールのやり取りも日本語とフランス語を交えたすごく丁寧な文でした。
半年ほどやり取りして実際に会ってみると、もともと中学校の国語の先生、それも特殊学級の先生だったこともあり、教えるのがとても上手で。毎回丁寧に教えてくれ、パリの歴史的建造物も案内してくれて、すごくいい人だなと思っているうちに自然と付き合うようになりました」
パリでの学びの中心が「ファッション」から「相貌心理学」へシフト
その後は、パリ市の夜間職業訓練学校で服飾を学びながら、日本での経験を活かしオーダーメイドのアトリエをオープン。ウェディングドレスや小物の製作・販売をスタートします。相貌心理学にも出会った頃で、改めてフランス語を学ぶためにパリ第三大学に入学。学びの中心が、ファッションから相貌心理学へシフトしていきますが、ファッション業界に限界を感じていたことも理由にあったと明かします。
「フランスのみならず世界のファッション業界には、体は男性、心は女性という人が多いのですが、彼らはとにかくパワフルでクリエイティブに溢れています。男性と女性2つの性を持っているため発想力も素晴らしくデザインも複雑で魅力的。内面の衝突がクリエイティブに還元され、より素晴らしいものを生み出しているように感じました。
どの世界もそうですが、その世界でトップを目指すには人生を切り売りしないといけない。何かを犠牲にするのが普通なんです。驚いたのが“空は青くちゃだめ。それじゃクリエイティブなものは生み出せない”と言われたことです。私にはたどり着けない世界だと感じました」
夫・エリックさんを伴い帰国、八王子にガレット店『カフェ ドゥ ラ ポスト』をオープン
2012年にエリックさんと結婚し、2015年に帰国。2016年にはガレット店『カフェ ドゥ ラ ポスト』をオープンします。店名の由来は、エリックさんが元郵便局員だったから。日本への帰国は予定していたことではなく、いくつかの条件が重なり決まったことでした。
「日本にいた父が認知症になり、母が一人で看ていたので放っておくことはできませんでした。当時エリックは郵便局員として安定した生活をしていましたが、人生がつまらなさそうで満足していなさそうに見えました。相貌心理学的に言えばエリックは変化を求める顔をしているんですよね。だから“変化の中に身を置いた方が才能や満足感を得られるよ”と誘ったら、日本に行くことに賛成してくれて。その後、たまたま訪れたブルターニュにある料理の専門学校『クレープ大学』を見つけ、日本でガレット店を出せたらと夫婦で集中講座を受けて学びました」
お店をオープンして8年、エリックさんはシェフとして、ブゾンさんは接客としてお店に立ちます。カリカリサクサクのガレット生地にフレッシュな野菜やチーズがトッピングされ、食べごたえがあるのに軽い。この味を求めて遠方から訪れるガレットファンがいるのも納得です。
50代に突入、最近の楽しみは手話を習うこと。大学院で相貌心理学をさらに勉強するのが目標
ブゾンさんの最近の楽しみは手話を習うこと。日野市が主催する手話教室に5月から通っています。きっかけは、お客さんに耳(音)が聞こえない方がいて、その人とコミュニケーションを取りたいと思ったからです。
「留学中に言葉の壁があったことで共通言語の大切さを学びました。共通言語があるから人同士が分かり合える。人は集団で生きる生き物だから、1つのコミュニケーションツールが使えないならそれに変わるコミュニケーションツールは必須。だから最低限のコミュニケーションが取れたらと手話を習いに行っています。
教室は毎週水曜日、年齢層も幅広く高校生から70代の方や、養護学校の先生まで、いろいろ方が参加しているので、その方たちとのやり取りや顔を拝見するのも面白くて。私は声が大きいのですが、手話の動作も大きくていつも注意されちゃうんです(笑)。いつも教える立場が多いので教えてもらうのも新鮮です」
興味があることにパワフルに邁進し、どんな時も自分の人生を生きるブゾンさん。50代、これからの目標について聞いてみました。
「大学院に通って、相貌心理学をさらに勉強したいと思います。フランスで相貌心理学は、ビジネスやコミュニケーション、医療の現場でも採用されている有効性のある学問です。今私のやっている日本での活動は、私というフィルターを通した“楽しい相貌心理学”でしかない。だから臨床心理学からきちんと勉強し、フランスで活用されているように本来の姿、心理学の一分野として認めてもらえるような実績を残したいです。また臨床心理学を学ぶことで、その人の問題点や悩みを改善・解決できるようになれたらとも思います」
理想の生き方はない。理想を探しながら生きるのがいいのかもしれない
“ブゾンさんにとって理想の生き方とは?”という質問には「理想の生き方はないんですよ」と、はっきり言います。
「私は95歳まで生きる予定ですから(笑)、あと45年。前に占星術の先生に見てもらったら、“50歳から花が開きますよ!”と言われて。私は一人っ子だし親戚のつながりがないので孤独死決定なんです。一応神様とご先祖さまに、まずは夫が先に逝ってもらうことをお願いして、その何ヶ月後かに私が逝く。その時は、“●月●日に逝きます”とお告げをくださいとお願いしています。そしてご近所さんに“●月●日ごろ見に来てもらっていい?”とお願いしておく。まわりに迷惑をかけたくないですから。
理想の生き方は特になくて、理想を持たないのが理想かな。理想を探しながら生きるのがいいのかもしれない。あとは後悔しない生き方、自分の気持ちに素直に生きることが大事だと思います」
My wellness journey
佐藤ブゾン貴子さんに聞きました
心と体のウェルネスのためにしていること
「“ないことが悪いことではない”という考え方を大切にしています。お金がない、物がない。ないからこそ発想力を使ったり、モチベーションになり一歩を踏み出すきっかけになるんじゃないかと思います。私自身もないから自分でやってみようと続けてきたから今があります。
ないことにネガティブなイメージがあるかもしれませんが、あること=幸せでもない。例えば、どこかに旅をする時にスマホで調べて完了してしまう。実はそれが世界をとても狭くしてしまうんじゃないかと思って。例えば、ガイドブックを探す、人から話を聞く。考える、工夫してみる。そうすることで世界はもっと広げられるんじゃないかと思います」
インタビュー前編はこちらからお読みいただけます
Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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