前向きに自分と向き合える方法を考える
【李琴峰さんインタビュー】差別や偏見をなくすのは、「知識」だと思っています
2024.11.18
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差別や偏見をなくすのは、「知識」だと思っています
李琴峰さん
LGBTQ+を自認する人たちが、自らのセクシャリティを誇るイベント、プライド・パレード。中でもオーストラリアのシドニーで開かれる「マルディ・グラ」は世界最大規模の祭典です。このマルディ・グラの、2023年のパレードに参加した経験を紀行文にまとめた作家の李さん。彼女自身も、レズビアンを公言しています。マルディ・グラの中で感じたことや思ったことを紀行文という形で執筆したのは、なぜだったのでしょうか?
「小説は虚構の人物や場所を設定し、物事を抽象的に描き出すもの。でも今回の経験に関しては、事実をありのまま記録したい気持ちが強くて。紀行文の形をとりました」
マルディ・グラが始まったのは、1978年。同性愛者への差別や偏見に対する、抗議のための行進が発端です。そして作品の中でも記されているように、今やマルディ・グラは、シドニーの街をあげて行われる一大イベントへと発展しました。
「毎年2月から3月にかけて行われるマルディ・グラですが、私は2回行っているんです。最初に訪れたのは2016年。そのときは一人でパレードを見るだけの観光客でした。そして7年の月日がたち——。私も学生から社会人、小説家となりました。その間にLGBTQ+の歴史や法律についての学びも続けていましたね。2023年のマルディ・グラでは、当事者としてパレードを歩き、仲間も一緒でした。LGBTQ+に対する知識も、さらに深まったと思います。そして今、各国では、紆余曲折はあれども、性的マイノリティの歴史を正しく知り、振り返る時期に入っていると感じています」
日本では2023年に、LGBT理解増進法が施行。私たち30代・40代が学生だった頃よりも、個人の性的指向や性自認について考える機会も増えています。とはいえ、まだどこかで「自分にはあまり関係ない?」と思っていたり、多様な性のあり方を、子どもたちにどう伝えたらいいのか悩む人もいるのでは?
「日本のLGBTQ+への理解は過渡期。ほかの国のような歴史的な振り返りもまだですし、LGBT理解増進法ができたこと自体はいいですが、法の内容も含めて課題は山積み。ただ私は、親世代が子どもに、差別や偏見をなくすように伝えるには、その前提部分がより大事かなと。人権について考える場合、日本では思いやりなど、気持ちの部分が先行しますが、どんな差別や偏見も、なくすのに一番大事なのは知識。LGBTQ+に関して言えば、人間は必ず異性に欲情する、性別は2種類しかない、子を産み育てていくのが家族の形——これらは“神話”です。事実ではない神話の上に価値観が育ち、制度が作られ、順応できなかった人は迫害や排除された歴史を、知ることから始めてほしいです」
子どもがセクシャリティに悩んでいる場合、親としての向き合い方は?
「まずは受け止めること。『一過性のもの』など、思い込みを押しつけないほうがいいですよね。親も、自分を責めたり、育て方を反省する必要もないですし。地球上には約80億もの人間がいるのだから、いろいろな人がいて当たり前。そのうえで、わからないことは専門の団体に相談するなど、当事者が前向きに自分と向き合える方法を考える。その一端として、私の著作も役に立ったらうれしいです」
PROFILE
り・ことみ●1989年、台湾生まれ。日中二言語作家。翻訳家。10代半ばから独学で日本語を学び、国立台湾大学を卒業後、2013年に日本へ。早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程を修了。2017年、台湾人レズビアンの葛藤を描いた『独り舞』で、群像新人文学賞の優秀作を受賞し、小説家デビュー。2021年に『彼岸花が咲く島』で芥川賞を受賞。最新作の本著に加えて、2025年には日本語への思いを綴ったエッセイも発売予定。
Instagram:kotomi_li
公式サイト:https://likotomi.com/
『シドニーの虹に誘われて』
2023年、オーストラリアのシドニーで催された、世界最大級のプライド・パレード「マルディ・グラ」へ参加した著者。現地の体験を記しながら、LGBTQ+の今までとこれからに思いを馳せる紀行文。読み手にとって、差別、偏見、平等についての理解を深めさせてくれる。また東京・新宿の歌舞伎町を訪れたエッセイ『歌舞伎町の夜に抱かれて』も同時収録。¥1980(集英社)
Staff Credit
撮影/野﨑慧嗣 取材・原文/石井絵里
こちらは2024年LEE12月号(11/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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