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折田千鶴子さん
映画ライター
気温の変化に体がついていけず。友人が先生のヨガ教室で整えつつ、レッスン後はいつもランチに。
『国境ナイトクルージング』
偶然一緒に過ごす男女3人の、数日の出来事が琴線に触れる
なんてことのない話のようで、いつしか心の奥にスッと入り込んでいて、妙にジワジワしみてくる。昨年のカンヌ国際映画祭・ある視点部門や、今年の米アカデミー賞・国際長編映画賞シンガポール代表にも選ばれた、知る人ぞ知る忘れ難い一作だ。
舞台は中国と北朝鮮の国境の街、延吉(えんきつ)の冬。ハオフォン(『唐人街探偵』シリーズのリウ・ハオラン)は知人の結婚式に出席するため街を訪れるが、どこか浮かぬ顔。式の後、暇つぶしでひとり観光ツアーに参加するが、スマートフォンを紛失する。ガイドのナナ(『少年の君』のチョウ・ドンユイ)は、そんなハオフォンを夜の街に連れ出す。彼女の男友達シャオ(『あなたがここにいてほしい』のチュー・チューシアオ)も合流し、20代前半の3人は明け方まで飲み明かす。翌朝、寝過ごして上海に帰るフライトを逃したハオフォンを、2人は延吉巡りに誘う。3人はシャオのバイクに乗って国境へ向かい、対岸の隣国・北朝鮮を眺める。夜になるとまた飲み明かし、翌日はハオフォンが希望した長白山の天池を目指して、雪山を登り始めるが――。
シャオもハオフォンもナナに気がある(好意を持たずにいられないナチュラルなキュートさ!)という、微妙な関係性をうっすらはらみつつ、互いの過去や状況をよく知らないからこそ踏み込みすぎない、そんな距離感が妙に心地よい。ネオン輝く街のクラブ、夜の動物園、氷の巨大迷路……。飲んで歌って踊って無邪気に笑い合いながら、それでもふとした拍子にそれぞれが抱える孤独や不安が顔を出す。上海で金融マンとして働くハオフォンが“エリートだ!!”と言われた際の苦い表情、雑踏の中で込み上げる嗚咽。足首の傷を“昔、無茶した”と隠すナナが、実は期待のフィギュアスケーターだったこと。故郷を飛び出し親戚の食堂で働く料理人シャオの葛藤――。彼らの心で渦巻く“人生このままでいいのか?”と立ちすくむ焦燥や迷いは、誰しも覚えがあるだろう。だから肌を重ねることで痛みや孤独が埋まることも、何事もなかったように振る舞うのも、すべて違和感なく腑に落ちる。極寒の延吉を巡りながら、言葉には出さずに互いをいたわりつつ、いつしか自分とも対話し始めた3人は、雪山で“あるもの”に出くわす。
数日ダラダラ無目的に、ただ一緒に過ごしただけ。けれど、そのかけがえのなさ! 頑(かたく)なさが溶け、人のぬくもりが愛しく感じられる、その尊いこと。彼らに幸あれと心から願いながら、きっと大丈夫だとフッと爽やかな風が心を吹き抜ける。同時になぜか自分も救われたような、心が洗われたような、上を向いて歩き出せるような、やわらかな感覚に包まれる。中国と朝鮮の文化が混在する興味深い延吉の冬は、最果ての地のように寒々しくも、時に吸い込まれそうに神々しく美しい。監督は、『イロイロ ぬくもりの記憶』でカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞したアンソニー・チェン。ちょっと寂しいような青春の後味も絶品!
10月18日より新宿ピカデリーほか全国公開
『まる』
『彼らが本気で編むときは、』の荻上直子監督作。主演は堂本剛!
美大卒だがアートで身を立てられず、人気現代美術家のアシスタントをする沢田(堂本剛)は、腕をケガしてクビに。失意の中でアパートに帰った沢田は、床にいた蟻に導かれるようにふと「〇」を描く。すると、それが知らぬ間にSNSで拡散され、正体不明のアーティスト「さわだ」として一躍有名になり……。何でもない「〇」が人々の心をとらえ、世界中で勝手に解釈され、知人から見知らぬ他人までが寄ってきて騒動に巻き込まれていく展開が、「いかにも、ありそう」で妙に心を騒がせる。コトの顛末まで一気! 隣人の漫画家志望の男に綾野剛、同じ美術家のアシスタントに吉岡里帆ほか。
10月18日より全国公開
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
11月の大統領選前に観ておきたい、恐ろしすぎるアメリカの近未来?
連邦政府から19州が離脱する中、テキサスとカリフォルニアが手を組み、政府軍との間で内戦が勃発、全土が戦場と化した近未来のアメリカ。強気な大統領の言葉に反し、首都陥落が目前に迫る。リー(キルステン・ダンスト)ら4人のジャーナリストは、大統領にインタビューするためNYからワシントンD.C.に向かう。道中、敵か味方かわからぬまま戦闘や襲撃に巻き込まれるカオス、人種による命の選別に身が凍りつくが、星の数が少なくなったアメリカ国旗も衝撃的! SFとはいえシャレにならない圧迫感で分断の先に待ち受ける未来が迫りくる。監督は、『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランド。
全国で公開中
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配信 CINEMA & DRAMA
『バレエ:未来への扉』
全身が熱くなるサクセスストーリー
スラム出身の青年2人が、類まれな身体能力で入学を許可され、ムンバイのダンスアカデミーで知り合う。そこで元スターダンサーの白人教師サウル(ジュリアン・サンズ)に見いだされた2人は才能を開花させていく。未来が開けそうになるたび、貧困や宗教、古いしきたりや親族に邪魔され、思わず怒りで熱くなる! 師弟愛や家族愛、才能と努力で夢をつかむまでを描いた、躍動感に満ちた感動作。11月にドキュメンタリー『コール・ミー・ダンサー』が劇場公開されるマニッシュ・チャウハンが本人役で一人を熱演!
Netflix映画『バレエ:未来への扉』独占配信中
※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。
Staff Credit
イラストレーション/SAITOE
こちらは2024年LEE11月号(10/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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