LIFE

CULTURE NAVI「CINEMA」

偽の殺し屋に思わず胸キュン!

映画『ヒットマン』実話が元のクライム・コメディ

2024.09.13

この記事をクリップする

Culture Navi

CINEMA

今月の注目映画情報をお届け!

イラスト 折田千鶴子さん

Navigator

折田千鶴子さん

映画ライター

例に漏れずTVでオリンピック観戦。何度も泣きながら、美酒酔いも悪酔いも。どっちもつい深酒に。

『ヒットマン』

『ヒットマン』
©2023 ALL THE HITS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

偽の殺し屋に思わず胸キュン! 実話が元のクライム・コメディ

んなバカな……と噴き出しつつ、思わずキュンとしたら、まさかの実話とは驚き! 監督は賞レースを席巻した『6歳のボクが、大人になるまで。』( ’14)をはじめ、みんな大好きな珠玉の恋愛三部作『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離<ディスタンス>』( ’95)、『ビフォア・サンセット』( ’04)、『ビフォア・ミッドナイト』( ’13)などの名匠、リチャード・リンクレイター。本作でも、ユーモアとみずみずしさは健在。軽やかに、“殺し屋になりすました男の純愛”話で、大いに観客を沸かせてくれる。

ニューオリンズで猫と暮らすゲイリー(グレン・パウエル/共同脚本も)は、大学で心理学と哲学を教える地味な男。その傍ら、地元警察の“依頼殺人”捜査に、盗聴・盗撮などの技術スタッフとして協力している。ところがある日、殺し屋役の警官ジャスパーが職務停止となり、依頼者と接触する時間が迫る中、急きょゲイリーに白羽の矢が立てられ、有無を言わさず現場に投入される。“相手が望む殺し屋になれ”とのアドバイスどおり必死で取り繕っていると、予想外の見た目やまじめな受け答えが信用され、決め手の“殺害依頼”の言葉を引き出すことに成功、依頼者は逮捕される。やがて生来のきまじめさや研究熱心、心理学の応用もあってか相手に合わせてさまざまな殺し屋になり切り、次々に犯人逮捕に寄与していく。そんなある日、夫に虐待されて追い詰められたマディソン(アドリア・アルホナ)から依頼の連絡を受け、彼女好みの“セクシーな殺し屋・ロン”に変身したゲイリーは、待ち合わせ場所に向かう。

最初はオドオドしていたゲイリーが、次第に自信と充実感を深めていく様子、大学でも講義がおもしろいと人気を得たり、女子学生から“最近セクシー”とモテ始めるなど、本人自身に魅力や輝きが増していく様子に、なるほどと目から鱗が落ちそうに。ご想像どおり、(ゲイリー扮する)危険な香りのロンと美しいマディソンは惹かれ合うが、2人の実体は、偽の殺し屋と逮捕すべき依頼者。果たして2人の恋は、彼女は逮捕されるのか、虐待夫はどうなるか、すべての行方にハラハラして目が離せない。そこへ、元殺し屋役の警官ジャスパーの嫉妬が絡み、事態はますます混迷し、“んなバカな……”という予想外のほうへ転がっていく――。

実際に ’90年頃より70人以上を逮捕に導いた、ある潜入捜査官と依頼者たちがモデルというが、もちろん恋愛話はフィクション。当の女性は刑務所でなく、保護施設に送られたそう。実話ならではの驚きあり、作り話だからこそ安心して楽しめるお笑いあり。一方で2人を観ているうちに、本来の自分と新しく知る自分、どっちが本物か、どちらのほうが幸せか、どちらのほうが楽か、監督が“アイデンティティについての映画”と語るように、自己探求への興味も頭をもたげる。とはいえ頭を空っぽにして軽くエンタメを楽しみたい大人にオススメの、スリルとキュンが詰まった快作です!

9月13日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

公式サイト

『チャイコフスキーの妻』

『チャイコフスキーの妻』
©HYPE FILM-KINOPRIME-LOGICAL PICTURES-CHARADES PRODUCTIONS-BORD CADRE FILMS-ARTE FRANCE CINEMA

夫に盲目的な愛を捧げ続け、“悪妻”とされてきた女性の半生

ロシアの天才作曲家チャイコフスキーと妻アントニーナの夫婦の実像に迫る衝撃の伝記映画。19世紀後半、帝政ロシア。地方貴族出の貧しいアントニーナは、大作曲家に一方的に思いを募らせ、熱烈な恋文を送り続ける。ついに根負けし、また“ある噂?を封じるため彼は求愛を受け入れて結婚。しかし、すぐに共同生活に嫌気がさし、“女性に愛情を覚えられない”と妻を遠ざける――。女性に選択肢がない時代の生きづらさや息苦しさもさることながら、チャイコフスキーの人となりや妻への酷い仕打ちに驚愕。そんな夫を盲目的に愛し続ける彼女の狂気と悲哀に胸をかきむしりたくなる。

全国で順次公開中

公式サイト



『スオミの話をしよう』

『スオミの話をしよう』
©2024「スオミの話をしよう」製作委員会

三谷幸喜による丁々発止の会話劇&ミステリー・コメディ

有名な詩人(坂東彌十郎)の若妻スオミ(長澤まさみ)が失踪。極秘に捜査すべく豪邸に駆けつけた刑事(西島秀俊)は、実はスオミの元夫。詩人は捜査を拒否するが、そこへスオミと関係のあった男たち――庭師(遠藤憲一)、ユーチューバー(松坂桃李)、警察官(小林隆)らが続々集まってくる。やがて「誰が一番愛されたか」の競争に発展。しかし彼らが語るスオミは、同一人物とは思えないほど違っていて……。瀬戸康史、宮澤エマ、戸塚純貴らも加え、目移りするほど超豪華なキャストが丁々発止を繰り広げる会話劇。男たちそれぞれの“あるある”な身勝手さを突いてもいて痛快!

9月13日より全国ロードショー

公式サイト

こちらもcheck!

配信 CINEMA & DRAMA

Netflixシリーズ『地面師たち』

Netflixシリーズ『地面師たち』
©新庄耕/集英社

一気見必至!骨太社会派エンタメ決定版

すでに大ヒット配信中! 観始めたら止まらないおもしろさ。不動産売買をエサに巨額の金をだまし取る詐欺師集団〈地面師〉の、100億円という前代未聞の巨額詐欺事件を活写。彼らの周到な手口にアッと驚き、その欲望の深さや人間同士の愛憎にゾゾ~! 主演は綾野剛、豊川悦司。特に地面師リーダー役・豊川のカリスマ性に惚れ惚れ(怖すぎ!)。北村一輝、小池栄子、ピエール瀧、染谷将太ほか。実在の事件をモデルにした新庄耕の同名小説を、ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い-』の大根仁が全7話で映像化。

Netflixにて独占配信中

公式サイト

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


Staff Credit

イラストレーション/SAITOE
こちらは2024年LEE10月号(9/6発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

この記事へのコメント( 0 )

※ コメントにはメンバー登録が必要です。

LEE公式SNSをフォローする

閉じる

閉じる