パオロ・ジョルダーノ、コバシイケ子、坂田阿希子
【今月おすすめの本】窪 美澄『ぼくは青くて透明で』他3編
2024.03.26
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石井絵里さん
ライター
本誌をはじめ、各女性向け媒体でカルチャー記事を担当。趣味は喫茶店と日本各地の遺跡を巡ること。
『ぼくは青くて透明で』
窪 美澄 ¥1760/文藝春秋
両思いの男子二人が教えてくれる、人それぞれの成長の仕方。
家族や周りの人たちとのつながりを、鋭く掘り下げた作風に定評がある窪美澄さん。最新小説も、思春期の少年たちが成長する姿を追いながら、独自の人間関係の作り方を見せてくれる。主人公の羽田海(かい)は、血がつながらない母親・美佐子と二人暮らしの高校2年生。実の父親は、海と美佐子を置いて家を出ていった。コロナ禍で美佐子の勤め先が倒産し、海は新しい街へ引っ越すことに。転校先のクラスにいたのは優等生の男子・忍と、いじめられている女子・璃子。海はいじめを助けたのがきっかけで、璃子と仲よくなる。人気者の忍とは日々接するうちに、次第に彼が気になるように。忍も海に好意を抱く。オープンにしづらい両思いの男子二人を、璃子は見守る。
同性愛者の自分を肯定し、将来の夢に向かって没頭する海と、名家に生まれ、親の跡継ぎを期待されて育った忍の間には、両思い同士といえども、背負っているものに大きな違いが。カップルの間に現れる課題は、私たちに「普通って何?」という問いを投げかけてくれる。また男子たちを見守る、璃子の存在も興味深い。BL作品が大好きで、リアルな恋愛はもちろん、人付き合い自体が苦手な彼女だったけど、海と忍を理解するうちに、2次元と3次元の恋は違うこと、そして璃子なりの人との距離感の保ち方を学ぶように。3人は同い年だけど、成長の速度や方向性はまったく違う。
「性的指好が一緒だから」「家族だから」「同僚だから」。人は、同じコミュニティにいる相手を自分と同一視しがちだし、その中に、自分とは違う価値観を持つ相手を見つけると、不安や驚きを抱くもの。同時に、コミュニティのルールになじめなかった場合は、必要以上に劣等感や疎外感を味わいがち。でも本著を読んでいると「誰一人として、同じ人間なんていないんだ」と、ラクな気持ちになれる。そして家族や友人に対しても、違いを尊重しようという新たな希望が。誰かが決めた“普通”にとらわれそうになったら、ぜひページを開いて!
『タスマニア』
パオロ・ジョルダーノ 訳:飯田亮介 ¥3410/早川書房
2015年。主人公の作家は取材でパリを訪れる。表向きは仕事の長期出張だったが、実は不妊治療中の妻との関係を見直すための旅でもあった。以来、数年をかけて彼は世界を転々とし、己の精神と対峙していく。放浪の末にたどり着いた地は、日本の広島と長崎。私たちがよく知る場でのラストに、胸が熱くなる!
『台湾のすこやかで福のある暮らし 365日』
コバシイケ子 ¥1870/自由国民社
台湾ブロガー&Webマガジン「オトナタイワン」の編集長が綴る、台湾の食習慣や暮らしのあれこれ。薬膳料理や漢方、しゃれたキッチン雑貨など、LEE読者に刺さる話題がいっぱい。1日1トピック・365日スタイルで紹介される情報に触れると、まるで現地を旅したり、住んでいるような気持ちに。写真もかわいらしく、眺めているだけでもリラックスできる一冊です。
『RESTAURANT B レシピブック』
坂田阿希子 ¥3300/文化出版局
料理家の坂田阿希子さんが思い描く架空のお店「RESTAURANT B」。トーストやサラダの数々、フルーツジュースやポタージュスープ、具だくさんサンドイッチなど、そのレストランの定番メニューをレシピ化。「バルミューダ」が全面協力のもと、多くのレシピではトースターを最大限活用できる工夫が満載。料理写真も美しく、ページをめくるだけで食欲がそそられます。
Staff Credit
こちらは2024年LEE4月号(3/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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