私のウェルネスを探して/ツレヅレハナコさんインタビュー前編
ツレヅレハナコさんの「おいしいもの好き」「人に何かをおすすめしたい欲」を極めた半生【お宅訪問写真多数】
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LEE編集部
2024.02.29
今回のゲストは、文筆家のツレヅレハナコさんです。ツレヅレさんは、会社員時代から編集者として数多くのレシピ本を手掛けつつ、ブログやSNSで食べ歩きの情報を発信してきました。それが人気を集め、フリーランスになってからは自身のレシピ本やエッセイを20冊近く出版。最近では、食まわりのプロデュースやオリジナルアイテムの開発なども行っています。
前半では、おいしいもの好きなツレヅレさんが育まれた半生と、自分が出すレシピ本へのこだわり、40代後半になって迎えた食生活の変化について話を聞きます。“自分のアイデアが生きるヒントになればいい”と願うツレヅレさんの考え方は、たくさんの人に愛されるレシピの素になっています。(この記事は全2回の第1回目です)
本に書かれたオムレツに憧れ、お小遣いで材料を買って再現。「食べたいものは作れる」と、自然と料理するように
ツレヅレさんは東京都中野区生まれ。父親が海外に赴任することが多く、幼少期から海外によく行っていました。現地でおいしいものを食べるのがツレヅレ家の家族旅行でした。
「食べることが大好きな家族でした。両親がアジアが好きだったこともあって、アジアに行くことが多かったと思います。今でも覚えているのが、父と台湾の村みたいな場所に船で行って、大きなボウルに入った茹でたてのエビをひたすら食べたこと。メキシコでサボテンを食べたこともあります。フォーマルな場所というより、短パンとビーサンで行けるような場所がほとんど。スパイスやハーブも大好きになりました」
両親が共働きだったので、ツレヅレさんが家で料理することもありました。火を使わないレンジを使って、好きだった卵料理に挑戦していたそう。『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(石井好子著/河出文庫)が好きで、その中に登場したオムレツに憧れました。
「母親に“オムレツを食べてみたい”と言ったら“いつも食べてるでしょ”と言われて(笑)。たぶんお弁当の卵焼きのことなんですよね。何か違うなと思って、自分のお小遣いでバターを買って作りました。他にも、ジェノベーゼやクミン、家の近くのスーパーに売ってないものを別のスーパーまで探しに行ったこともありました。“食べたいものは作れる”と知り、自然と自分で料理をするようになったと思います」
ネット上に食べ歩きの記録を残したことがきっかけで「本を作りませんか」と声をかけられる
働き始めた20代からは食べ歩きに夢中になるようになり、平日に神奈川まで飲みに行き、4軒はしごをして帰ってくることもありました。ホームページを立ち上げ、“ツレヅレハナコ”という名前で食べ歩きの記録を残すようになったのもこの頃です。
「振り返ってみると、幼稚園の時から“人に何かをおすすめしたい”という欲がありました。自分のお気に入りのぬり絵をクラスのみんなに紹介して、おすすめしていたんです。結果、みんながぬり絵を買ってくれて人気が出てしまい、園でも買って支給することになりました(笑)。大学は美術大学の学芸員やキュレーターを育成する学部へ進学しました。そこでも“好きな美術、アートを紹介する”仕事をしたいと思っていました。好きなもの・好きな人を紹介したいという考えは編集者も同じ。そこは今も変わっていないと思います」
ホームページで食べ歩きを紹介していると、少しずつ「本を作りませんか」「書いてもらえませんか」と声をかけられるように。しかし、当時料理本を出していたのは大御所の料理家ばかりで「自分には恐れ多い」と躊躇します。一方で、料理本で紹介されている美しいきちんとした料理と、家で実際に自分で作って食べる料理との“差”を感じて、自分にも何かできることがあるのでは、と思うようになります。
「編集者として料理本を作っていて、完璧なものを作っている自信はありました。いろどりも美しくて、栄養バランスも良くて、レシピも作りやすくて味もおいしい。だけど、自分が同じように作っているかといえば、そうでもない。日々作っているものはもっと簡単なもので、バランスもいろどりも完璧じゃないけど、それで満足なんですよね。そういう本がない、それなら自分が作ればいい、そんな本なら自分が作る意味があると思いました」
料理本編集を通じて得た「世の中には、料理を作りたくない人がこんなにいるんだ」という気づきが自著のテーマに
そうして生まれたのが1冊目の著書『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)です。作り方は簡単ですが、定番食材を新しい組み合わせや調味料で作るレシピの斬新さ、お酒に合うレシピの逆引きや食エッセイもありと、ツレヅレさんの好きを詰め込んだ本になりました。
「レシピって、引き算なんです。時短・手抜きではなく、そぎ落として絶対に残すべきのもの、こだわりだけを残したレシピ本になりました。この1冊で終わりだと思っていたので自分のすべてを詰め込んで作りました。読者の方からいまだに“この本が一番好き”と言われることがあって、とても嬉しいです」
料理本を手掛けている頃から感じていたのは「世の中には、料理を作りたくない人がこんなにいるんだ」ということでした。食べるのも作るのも好きなツレヅレさんのまわりには、当然のように食いしん坊ばかりが集まります。その気づきが、これからの本づくりのテーマになるかもしれないと感じました。
「私のまわりは、24時間365日食べることばかりを考えている人が多いんです。だけど食に全く興味がなく、料理の知識や技術がなくても困らないという人もいる。本当は作りたくないけれど、家族のために作らなくてはいけない人もいます。人は生きるためには食べないといけない。食べることは毎日続くことなので、料理が少しでも楽になればいい。生きるヒントになり、食卓が少しでも豊かになればいいと思って本を作っています」
年齢を重ね、自然と体に食材や調理法を求めるように。食生活をゆるく変えたら、目覚めと健康診断の結果が改善
お酒好き・おいしいもの好きのツレヅレさんですが、年齢を重ねて食生活に変化が出てきました。昨年出したのが『47歳、ゆる晩酌はじめました。』(KADOKAWA)です。雑誌『レタスクラブ』での連載“100文字つまみ”を一冊にまとめた本です。
「連載時には気づかなかったのですが、“体にいいものを摂ろう”“食材や調理法もヘルシーなものにしよう”という考えに自然と変化していました。外食はなるべく減らして、たまに休肝日を設けながら、自宅で“ゆる晩酌”を楽しむ。もちろん、ちゃんとおいしくて簡単。体を作るたんぱく質もしっかり摂れます」
そんな生活をゆるく始めてから1年以上が経ち、体の変化を感じています。
「一番感じたのは目覚めの良さですね。朝、シャキッと起きられるようになりました。健康診断の結果も良くなり、夜にお酒を飲まない日ができたことで仕事がよりはかどるように。また読書や映画など趣味の時間が持てるようにもなりました。それまで何か病気をしたり、大きな問題があったかといえばそうでもないのですが、20代30代と違って確実に変わってきている。年齢を重ねて体に変化があるのは普通のことなので、それにどうやって付き合っていくか。食が改めて大事になってきます。基本のレシピは100文字なので簡単なものばかりです。ストイックになりすぎず、みなさんも楽しみながらやって欲しいです」
My wellness journey
私のウェルネスを探して
ツレヅレハナコさんの年表
1976年 | 東京都中野区生まれ |
23歳 | 大学を卒業、出版社に入社する |
37歳 | 夫をスキルス性胃がんで亡くす |
40歳 | 会社員生活16年を経て、退社。フリーランスに。『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)を出版 |
42歳 | 7月に建築家の坪谷和彦さんと出会う。10月には家を建てようか検討し始め、11月に理想の土地に出会う |
44歳 | 3月に新居に引っ越し、住みながら直していく。『女ひとり、家を建てる』(河出書房新社)出版 |
47歳 (2023年) |
『47歳、ゆる晩酌はじめました。』(KADOKAWA)出版 |
Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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