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林 真理子、安藤優子、山口祐加

【今月おすすめの本】大田ステファニー歓人『みどりいせき』他3編

2024.02.20

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『みどりいせき』
大田ステファニー歓人 ¥1870/集英社

新感覚! 斬新な言葉が織りなすグルーヴ

『みどりいせき』大田ステファニー歓人 ¥1870 集英社

第47回すばる文学賞受賞作。著者の大田さんは28歳。受賞式では、自身の結婚報告とともに読み上げた詩が、「愛と平和への思いに満ちあふれている」と、そのキャラも含めSNS上で話題に。ぜひチェックしたい期待の新人作家だ。

デビュー作の『みどりいせき』は、高校2年生の「僕」が主人公。学校になじめず、不登校ぎみな生活を送っていた頃に、小学生のときに野球のバッテリーを組んでいた「春」と再会する。春に巻き込まれるようにして、闇バイトへ身を投じることになった僕。学校の中だけでは味わえなかった世界や価値観、そして今までの生活では出会わなかっただろう人たち。新たな日々に興奮しながらも、大好きな母親に対して、少し後ろめたさを感じたりと、僕の価値観は揺さぶられていく――。

闇バイトに自分の居場所を見つけつつ、“こんなことに人生を振り回されるのは変じゃないか?”などと、どこか冷静な僕の視線にドキッとさせられる箇所も。そして何よりも本著の読みどころは、著者が紡ぎ出す独特の文体。「なんか、思考がめくれてく感じ。たまねぎみたい」「わかる、うちは考えがすべってながれてく。まいんどさーふぁー」と、僕や春たちの身体感覚をそのまま言葉にしたような、センスに満ちあふれた文章が繰り出される。

最初は少し読みにくく感じるけれども、そのいびつさや、軽やかさがクセになる。心や体がどんどん成長し、自分で自分をコントロールできなかった10代後半の“あの頃”の、生命力やうねりみたいなものを、追体験させてくれるのがすごい!

もちろん内容もおもしろいけれども、それと同時に文章が持つグルーヴに、ひたすら乗っかっていくのが本著をとことん楽しむコツ。何かを学んだり、登場人物に共感する読書も楽しいけれども、まるで音楽を聴くように、言葉の流れに身をゆだねてみるのも貴重な体験。いつもの生活とは、少し別の世界に身を置きたいときに、ぜひ、読んでみたい。そしてタイトルの意味について、あれこれと考えてみるのもおもしろいはず。

『平家物語』
林 真理子 ¥1870/小学館

『平家物語 』林 真理子 ¥1870 小学館

平安時代末期に武士として台頭した、平家一門の栄枯盛衰を描く『平家物語』。この古典文学を名場面ごとに一話読み切り形式で書いた歴史小説。「一の谷の合戦」「壇ノ浦の戦い」などを抽出し、一つの物語につき一人が主人公の仕立てが斬新で読みやすい! 武士と貴族が織りなす人間模様、繊細な風景描写にも感動してしまう。古典に触れてみたい人にはぴったり。



『アンドーの今もずっと好きなもの。』
安藤優子 ¥1430/宝島社

『アンドーの今もずっと好きなもの。』安藤優子 ¥1430 宝島社

ジャーナリスト・安藤優子さんが60代半ばにして導き出した、心地よいファッション、食、ライフスタイルを紹介。ジャケット、Tシャツといったアイテム別の服の着こなし方、食卓が華やぐレシピ集など、30代・40代にも多くの暮らしのヒントが。“非日常を報道する生活が長かったからこそ、日常を大事にしたい”という安藤さんの信念にも、共感できるビジュアルブック。

『子ども自炊レッスン』
山口祐加 ¥1760/PIE International

『子ども自炊レッスン』山口祐加 ¥1760 PIE International

自炊料理家の著者が小学生向けに、料理を遊びとして楽しみながら習得できるレシピブックを考案。包丁の使い方や調味料の分量などの料理を始める前に知っておきたいことをはじめ、調理工程が一目でわかる「つくりかたマップ」、豊富な解説写真などの工夫が満載。ハンバーグやオムライス、肉じゃがなど16種類の定番料理が作れるように。子どもの食育にもおすすめ。


Staff Credit

取材・原文/石井絵里
こちらは2024年LEE3月号(2/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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