2023年6月1日から2023年11月30日まで、LEEwebで反響の大きかった記事ベスト20を発表します。LIFE部門の第5位はこちら!(初公開日 2023年9月21日)
今回のゲストは、フリーアナウンサーの中井美穂さんです。中井さんといえばフジテレビのアナウンサーとして活躍した後、プロ野球選手の古田敦也さんと結婚。以降は、フリーアナウンサーとして『世界陸上』(TBS系)のメインパーソナリティを25年担当し、ライフワークとして大好きな演劇にまつわる仕事をはじめ、コラムの執筆や司会、ナレーションなど幅広く活躍しています。2018年からは、キャンサーネットジャパンの理事を務め、がんの啓発活動に力を入れています。
前半では、結婚をきっかけに向き合い始めた自身の体のこと、『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に出演した際に初めて明かした1年間の人工肛門生活、キャンサーネットジャパンの理事を務めるきっかけについてお聞きしました。
結婚後、自然に子どもを授かると思いきや…子宮筋腫が発覚
中井さんが、自分の体について知ろうと思ったのは、結婚がきっかけでした。30歳の時に結婚、自然に子どもを授かると思いきやそうならず、「何か原因があるに違いない」と婦人科を訪れます。結果、多発性子宮筋腫と診断されます。
「妊娠を望むのであれば、筋腫を取った方が確率は上がると聞きましたが、ほぼ同時期にタイミング療法や不妊治療を行っていました。治療でお腹が痛くなったり、生理が来てしまった時に落ち込んでしまったりと、しばらく時間が空いてしまって。やっと2002年に子宮筋腫の手術を行うことになりました」
アナウンサー時代から生理の時に多少の腹痛はあったものの、「仕事ができない」「出血が多くて困る」というほどでもなかったと言います。「ごく普通の生理の痛みだし、PMSもそれほどひどくなかった。生理ってそんなものだと思っていましたから。仕事も忙しかったので、婦人科に行ってみようとか調べてみようとは一度も思いませんでした」。
腹膜炎を併発し腸の一部を切除、1年間の人工肛門生活に
子宮筋腫の術後、経過があまり良くならず腹膜炎を併発。腸の一部を切除することになります。腸が復活するまで1年間、人工肛門を作ることを伝えられます。その時思い出したのは、漫画『おたんこナース』(佐々木倫子・小林光恵著、小学館)でした。
「ちょうど最終話で人工肛門の患者さんが出てくる話があって、よく覚えていました。私も突然同じ状況になって、びっくりしました。人工肛門はどんなものか、どんなトラブルがあるのかを漫画を読んで知っていたので、意外とすんなり受け入れることができました」
人工肛門=ストーマ、人工肛門患者=オストメイトとも呼ばれます。最近では、多目的トイレにオストメイト対応のトイレがあったりもするので、名前は知っているけれど使い方を知らない人も多いかもしれません。人工肛門(ストーマ)は、腹部に新しく作った排泄の出口で、見た目は小さなピンク色のくちびるのよう。そこに腸や尿管をつなげて排泄します。ストーマに排泄物を受け止める専用の袋(パウチ)をつけて過ごし、排泄物がたまったらパウチから排泄物を出します。オストメイト対応のトイレの洗い場は、パウチ内の排泄物を流したりパウチをすすいだりすることができます。
中井さんは人工肛門で1年間過ごし、閉鎖手術を経て現在は普通の生活に。妊娠・出産を目指していたはずが子宮筋腫の発覚、そして手術。腹膜炎から人工肛門の生活が始まりました。「妊娠どころじゃない、まずはこの体に慣れなければ」と、気持ちを切り替えたそうです。
人工肛門だった期間も変わらずに仕事を続ける
「2016年に『徹子の部屋』に出させていただいた時、初めて1年間オストメイトであったことを公表しました。その時にたくさんの手紙をいただきました。腹部にストーマをつけていると、太ったり痩せたりすると接着面が安定しなかったり、下痢をするとすぐ袋がいっぱいになってしまったり。そうするとはがれやすくなったりもします。トラブルもいろいろあり、みなさんいろいろな経験をされていたことを知りました」
人工肛門だった期間は、変わらずに仕事を続けることができました。家族や仕事で関わる身近な人には伝えていたものの、それ以外の人には特に伝えませんでした。
「子宮筋腫の手術で1週間程お休みするはずが、腹膜炎になり、結果1カ月の入院となってしまいました。復帰後は、プロデューサーやメイクさん、スタイリストさんなど、近しい方にはお伝えしていました。旅番組で共演していた野際陽子さんにもお伝えしたら、すごく気遣って下さって積極的に休憩を取って下さいました。衣装は、あまりぴったりしないものを選んでもらい、何かあった時のためにボトムは濃いめの色に。海外にももちろん行きましたよ。行く時は、主治医に診断書を書いてもらいます。空港でのボディチェックの時も説明できますし、もし突発的なトラブルがあった時も、診断書があれば病院で慌てることなく診てもらえます」
「自分の経験が誰かの役に立てば」とがんの啓発活動を継続
人工肛門の閉鎖手術後、フォローアップで訪れた病院で出会ったのがキャンサーネットジャパンの医師でした。イベントや公開講座を行う時に司会をしてくれる人がいない、手伝ってほしいと声をかけられたのが最初でした。中井さんも病気の経験を「マイナスで終わらせたくない」「自分の経験が誰かの役に立てば」という思いから協力し始め、2018年に理事に就任、積極的にがんの啓発活動を続けています。
「2011年の大腸がんの啓発活動の司会を皮切りに、大腸がん啓発キャンペーン(ブルーリボンキャンペーン)を1回目から参加させてもらっています。1回目は、忘れもしない2011年3月26日。東日本大震災の直後だったんです。イベントをするはずだったのですが人を集めることが難しくなり、急遽配信に変更しました。集まれる先生だけに来てもらい、小さなスタジオで収録、それを配信しました。以降は大腸がんだけでなく、他のがんのイベントにも参加しています」
9月は小児がんの啓発強化月間。小児がん(ゴールドリボン)の理解は、海外に比べ日本は遅れているそうです。小児がんは0歳から15歳未満の子どもがかかるがんの総称で、白血病や脳腫瘍、リンパ腫、神経芽腫などが主です。年間約2500人が新たに診断され、15万人ほどの患者がいると言われています。
後々副作用に悩まされるケースが少なくない「子どものがん」
「がんの専門医はたくさんいますが、子どもはがんに罹患する数が少ないため小児科医が全部診なくてはなりません。白血病、脳腫瘍、リンパ腫、神経芽腫などすべてを見ることの大変さに加えてスペシャリストがまだ少ないこともあり、啓発活動は二の次になっています。
子どものがんは治療法の研究が進み、多くが治るようになってきました。しかし、成長期に大人よりも強い治療をすることで、後々副作用に悩まされる場合が少なくありません。低身長だったり、男の子だと声変わりしなかったり、女の子だと妊娠ができなくなることもあります」
2023年9月2日には、神宮球場で実施された東京ヤクルトスワローズ対阪神タイガース戦を「キャンサーネットジャパン presents ゴールドリボンナイター」として冠協賛。小児がんの子ども50人とその家族を招待し、小児がんサバイバーの始球式、きょうだいらの花束贈呈、エスコートキッズのセレモニーが行われました。このイベントの働きかけを中井さんが行いました。
自分の経験が人の希望になることもある。だから私は自分の経験を伝えると決めた
がんの啓発活動を経て、さまざまな声を聞くようになりましたが、“伝える難しさ”も実感したと言います。「人工肛門が1年だけならいいが一生続く人もいる」「寛解できず再発した」「がんで家族を亡くした人もいる」。そんな中、発信を続けることに覚悟と責任と感じています。
「いろいろな方がいるのは理解した上で、自分の経験が人の希望になることもある。だから私は自分の経験を伝えると決めました。売名行為なんじゃないか? 利用しようとしているんじゃないか?と思う人がいても仕方がない。だけどもし今“人工肛門になります”と言われた人がいた時、“ああ、アナウンサーの中井美穂さんもそうだったな”と思い出してくれてもいいし、医師の方が“中井さんがこんなことを言っていたよ”と説明のツールに使ってくれてもいい。私が病気になった時、俳優の渡哲也さんが人工肛門でも変わらずに活躍されている姿に支えられました。少しでもそんな存在になれたら、と思います」
病気は、外からは見えにくいもの。人によっては病気になったことを周りに言えない人もいます。元気そうに見えても大きな疾患がある人もいるし、女性なら妊娠しているかもしれない。そんな配慮を忘れないようにすることが大切です。
「現在はキャンサーネットジャパンの仕事を通じて、グリーフケア(遺族ケア)について勉強しています。その時言われたのは、“ジャッジをしない”ことでした。すぐに“いい”“悪い”、“間違っている”と決めつけないこと。それは自分に対してもまわりの人に対してもそうです。外から見て分からないことへの想像力、配慮が大切だと思います。口にして相手を責める前に考えること。これも自分が病気になったから分かるようになった部分でもあります」
My wellness journey
私のウェルネスを探して
中井美穂さんの年表
1965年 | アメリカ・ロサンゼルスで生まれる |
1980年(15歳) | 目黒星美学園高等学校に入学、演劇部に所属する |
1987年(22歳) | 日本大学芸術学部卒業、フジテレビに入社 |
1995年(30歳) | プロ野球選手の古田敦也さんと結婚、退社しフリーに |
1997年(32歳) | 第7回世界陸上競技選手権アテネ大会から、2022年までメインキャスターを務める |
2002年(37歳) | 子宮筋腫の手術、腹膜炎の手術を受け1年間人工肛門で過ごす |
2013年(48歳) | 読売演劇大賞の選考委員を務める |
2018年(51歳) | NPO法人キャンサーネットジャパンの理事になる |
2019年(52歳) | 『12人の花形伝統芸能 覚悟と情熱』(中央公論新社)を出版 |
2020年(56歳) | 新国立劇場の理事を務める |
Staff Credit
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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