この秋は、30代・40代が心惹かれてやまない漫画作品が次々とドラマや映画に！　映像化された話題作の原作者のよしながふみさんに創作への思いをインタビュー。さらに漫画大好きな芸人さんも登場し、疲れた夜や休日に、どっぷり浸れる漫画を紹介します！

＼よしながふみさんスペシャルインタビュー／

LEE待望のインタビューが実現！

私たちが虜になるのはなぜ？　よしながふみさんの描く世界

歴史ものから現代ものまで、登場する人物たちの心の機微や日常を描き出す、制作の裏側を聞いてみました。

お話を伺ったのは

よしながふみさん

東京都出身。『月とサンダル』で商業誌デビュー。『大奥』は手塚治虫文化賞マンガ大賞をはじめ、数々の賞を受賞。『きのう何食べた？』は第43回講談社漫画賞一般部門を受賞。私生活は大の料理好きとしても有名。また『LEE』を読んでくださっていて、「ファッションは漫画の資料のみならず、私服の参考にも。レシピページも楽しく読んでいます」とのこと！

よしながさんLOVE！な芸人・ニッチェのお二人も登場！

『大奥』

江戸幕府の三代将軍・家光の時代。男性のみが罹患する病・赤面疱瘡（あかづらほうそう）が流行。男系為政者の維持が難しくなり、女性が将軍職に。跡継ぎを作る「大奥」は男性が侍る場に——。約250年近くにわたる、大奥の人間模様を描く！

LEE100人隊No.18 キッキさん
愛情、信頼、友愛。人との多様な絆が心に響く！

LEE100人隊No.021 のずさん
喜びだけではなく、悲哀、確執などの描写もリアル

LEE100人隊No.033 たかちーさん
大勢の登場人物の中に、必ず共感できる人がいる！

権力を血縁でつなぐ無理さ加減と、その中で翻弄される人々の切なさや苦しさを表現してみました

よしながふみさん

時代劇好きだからこそ、すっと展開が生まれてきた『大奥』

「流行り病により男性が激減、血を絶やさないために徳川幕府の将軍は女性に」という、史実とは正反対の設定で繰り広げられる、よしなが版『大奥』。今年の1〜3月にドラマ化され、シーズン1が話題に。10月から年末にかけてはシーズン2が放送中です。壮大な物語が誕生したきっかけは？

「2003年に、菅野美穂さん主演版のドラマ『大奥』を観たことでした。この作品は私みたいな時代劇好きのみならず、若い方にも人気が出たんですよね。それがうれしくて。大昔に構想していたことがある女王様がいる国のファンタジーを、江戸城の大奥とすり合わせたらどうだろう？と、主要な展開が浮かんできました」

医療機関で働く友人に「男性がかかりやすい病気はある」との話も聞き、構想はさらに深まったとか。連載開始は2004年。ジェンダーという言葉や概念も、今ほど浸透していなかった頃でした。

「そうですよね。もちろん私もテーマとして意識していませんでした。大奥は跡継ぎを血でつなぐ場所。血縁を絶やさぬように、あらゆる手を用いて子孫を残そうとします。けれど、史実でも江戸時代の約265年の間に直系は途絶えています。社会的な役割のための生殖に無理が生じてしまうのは、大奥が証明済み。直系血族への権力移譲という無理さ加減と、その中で翻弄される人々の切なさや苦しさを表現してみました」

娘の松姫を失った後も、父親の桂昌院からさらなる世継ぎの妊娠・出産を期待され続けた五代将軍・綱吉。彼女のように大奥の仕組みに縛りつけられ、もがき苦しむ生き様は切なく、同情を禁じ得ない。

歴代将軍、そして家臣らの生き様に、よしながさんの人間への深い考察が感じられます。

「特に思い入れがあるのは、九代将軍・家重。生まれながらにハンデがあり、言語が不明瞭な方だったようですが、知力に優れ、人の言葉は理解できたそう。執筆用資料の中には、家重が政権の中枢にいたのは、平和だった証ではとの見解もあり、なるほどと。とはいえ、あからさまに馬鹿にする家臣もいたでしょうし、自分の意思を言葉で表現できないことは、本人にとっても悔しかったのではないかと思いを巡らせました」

こうした歴史ものだからこそ「作れたキャラもいた」とも。

「三代将軍・家光のやんちゃさとカリスマ性は、史実に後押しされて膨らませることができました。そして史料が少ない分、かなり脚色したのが、十一代将軍の母・治済（はるさだ）。邪魔者を躊躇なく排除していく、恐るべき人物です。彼女の悪はどう制するか……。治済が登場するあたりはピカレスク（悪漢）ロマンという感じで描きましたね。ドラマ版では仲間由紀恵さんが演じてくださってます。仲間さん、お嫌じゃなければいいけど……と、心配だったのですが、『すごく楽しかったらしいです』とのお話を伺い、ほっとしています（笑）。今回のドラマ版は完結まで放送してくださるとのことなので、原作者としてはうれしい限りです」

十一代将軍・徳川家斉（いえなり）の母で、幕府の実権を握っていた治済（はるさだ）。人らしい情愛に欠け、己の欲望のためならば何でもする。『大奥』全19巻にはさまざまなキャラが登場するも、よしながさんの人物造形の手腕と幅広さに驚かされる！

『大奥 Season2』

『大奥 Season1』に続き、NHKのドラマ10枠で『大奥 Season2』が現在放送中。赤面疱瘡の克服に挑む医療編と幕末編で、十代将軍・家治の時代から放送中。十三代将軍・家定役には元宝塚の愛希れいかさんが挑戦されることも、話題のひとつに。NHK総合　毎週火曜22時～

豪華俳優陣によるドラマ『Season1』も大人気！

八代、三代、五代将軍を中心に、男女逆転大奥の仕組みや成り立ちを描く全10回の物語。八代将軍・吉宗役の冨永愛さんの姿が「かっこよすぎる！」と語り草に。よしながさんからも「どの方の配役も、役の解釈も素晴らしかったです」との感想が。Blu-ray・全5枚￥23650／発行・販売元 NHKエンタープライズ

『きのう何食べた？』

料理好きなシロさんと、彼のごはんをこよなく愛するケンジ。二人の毎日を描いたグルメ漫画。「近年は年齢や性別問わずに自炊をする方が増えてますよね。お若い方から『作っています！』と反応をいただく機会も増えました」とよしながさん。

LEE100人隊TB eringoさん
シロさん＆ケンジのほっこりカップルに癒される♡

LEE100人隊TB おゆうさん
大好きな人とごはんを食べる幸せを実感させてもらえる

LEE100人隊No.019 さおっぺさん
ドラマは西島さん＆内野さんの配役がたまりません！

“中年”が持つ、いい意味での諦めや切なさが愛しいし、それを描きたいと思ってしまいます

よしながふみさん

『きのう何食べた？』は試作の感想が、そのまま作品に反映！

そして同じく10月からは、シロさんとケンジのゲイカップルが、生活を共にする『きのう何食べた？』もシーズン2が放送中！

「こちらは、小さな話ながら、ドラマも原作に近い雰囲気で作っていただけて感謝しています。現在も連載中で、連載当初の2007年で、シロさんは43歳、ケンジは41歳。今でこそ40代の方々は十分にみずみずしいものの、当時は堂々たる中年。漫画の登場人物としても、異色の高齢カップルでした。でも私は昔から中年が好きなんです。若くまぶしい時代を経て、人生の失敗や痛みを知った人だけが持っている、ある種の諦めや哀愁が愛おしくてたまらないんですよね。

シロさん＆ケンジは50代後半になりましたが、掲載誌の『モーニング』には、島耕作という70代の先輩シニアキャラも頑張っておられますし、まだ二人の日々を追いたいですね。最近は物価高の影響を受け、節約家のシロさんがこだわる食費も4000円アップ。月4万円になりました」

弁護士の筧史朗（シロさん）と美容師の矢吹賢二（ケンジ）は2LDKのマンションで同棲中。節約上手なシロさんは、ケンジと自分が幸せになる料理作りに励む。ゲイカップルと家族のかかわり、自身や親の老後など、ごはん以外の日常にまつわる話題もたくさん。

何より魅力的なのは、作中で描かれる、手料理の数々。

「レシピには、その時々の私の食の好みや、ハマりものを反映していることが多いです。過去には『LEE』のお料理特集を参考にしたことも。毎回、お話の下書きを完成させた後に、作品に登場させる料理を作ります。思ったほど辛くないな……など、試作の感想がセリフに入ることもたくさん。読者の方に調理のアドバイスをいただくことも。きっとその助言は私にではなくシロさんにしてくださってるのだと思います。今や読者の方とも親戚付き合い的な感覚が芽生えていて、ありがたいと思います」

作品に登場するレシピは、読みながら食欲をそそられてしまう！　よしながさんの、食や料理に対する愛が伝わってくる。ドラマ版ではシロさん役の西島秀俊さんの手際のよさにも感動できる。

ドラマ版『きのう何食べた？』

Season2は、ドラマ24（テレビ東京）で毎週金曜深夜24時12分～放映中（見逃し配信あり）。Season1が見たい人は、Blu-ray BOX￥20900、DVD-BOX￥16720（発売元：「きのう何食べた？」製作委員会 販売元：東宝）もおすすめ。

『環（たまき）と周（あまね）』

21世紀から江戸時代まで、環と周、二人の登場人物が関係性を変えながら織りなす、生まれ変わりの物語。よしながさん曰く「実は『大奥』や『きのう何食べた？』の連載が始まる前から、構想を温めていた作品」だったのだそう！

最新作『環と周』も大注目！

第1話は現代の設定。環は思春期の娘を持つ母親。ある日、娘の恋愛現場を目撃してしまい、心が揺れる――。この回では、周は彼女の夫として登場。

最新作『環（たまき）と周（あまね）』は、“生まれ変わり”を主題にした作品。二人の登場人物が、転生を繰り返していくのが読みどころです。

「登場人物が生まれ変わる時期に矛盾がないように、年表を作りました。戦後の時代の話の、闇市のシーンでは、アシスタントさんたちと一緒に資料を眺めて『帽子をかぶっている人が多いのはなぜだろうか？』なんて新たな疑問が生まれたり。江戸時代の回もあるんですが、設定を長屋にしたので、江戸城の背景は使えず、アシさんたちにはまたご苦労をおかけしました（笑）。学びの多い連載でした」

この先の連載予定は？

「来年のスタートで、芸能界が舞台の物語を描く予定です。現実の芸能界も激変する今、どういう切り口でいこうか思案中なんですよ。とはいえ、『大奥』での将軍や重臣たちしかり、『何食べ』の二人しかり。私の中年世代好きは変わらないので、キラキラした芸能界の話ではなさそうな予感がします」

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こちらは2023年LEE11月号（10/6発売）「秋の夜長は心ゆさぶる「漫画」に癒されたい」に掲載の記事です。