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カルチャーナビ : 今月の人・今月の情報
歩きスマホをしている人からぶつかられるのに苦痛を感じた、主人公の直子。「それなら私も、あの人たちをよけずに、ぶつかっていくことにする」と決める——。表題作『いい子のあくび』で、高瀬さんが書いたのは、不条理かつ同調圧力の強い世の中に、疑問を持つ女性の姿。
自力で解決できないことってぐるぐる考え続けてしまいませんか?
高瀬隼子さん
「もちろん私は、直子のように自分から人にぶつかっていったりしないですよ。ただし歩きスマホをしている人って、本当に多いですよね。一歩外に出たら、スマホ画面に夢中な人たちに気をつけながら歩くのが、当たり前になっていて。でもなぜ、普通に歩いている側が配慮しなきゃいけないの?という思いは、どこかにあった気がします」
直子は、路上や駅で歩きスマホをする人に遠慮をしなくなる一方で、職場の上司には気を使い、プライベートでは友達や先輩、恋人にも臨機応変に対応する“いい子”。真逆の“いい子じゃない”存在になってしまうのを、極端に恐れている。そのギャップも、読んでいて興味深い!
「彼女は物事を、いいか・悪いかの2択で考えがちな人なのかもしれませんね。こうして白か黒かを突きつめると、自分が行き詰まってしまうし、誰の心にも正解なんて出ない、というところをぐるぐると書きました。私自身は、現実ってもっと柔軟で、2択どころか20択ぐらいは考える余裕があると思っています」
高瀬さんはこの小説を「自分の中でも大好きな作品。発売できてよかったです」とにっこり。
「私は2019年にデビューしたのですが、その後も『作家として続けていけるのだろうか』『すぐに消えたくない』と、不安な気持ちが強くて。そんな頃に一生懸命書いたのが、この小説だったんです」
実は子どもの頃から作家志望。デビューするまでの約10年間は、働きながら、文学賞に応募する生活を送っていたのだそう。そして今も、会社勤めと執筆活動を両立中。
「小説を書くのは、仕事から帰った後。これは投稿を続けていた頃からの習慣です。10文字書いたら20文字、100文字……と埋まっていきますね。でも調子が出なかったときは“書けない!”って、正直に記入しています。デビュー前は執筆に息抜き的な要素もあったのですが、仕事となった今、ほかにも趣味を見つけたい、と思っていて。
少し前までは会社帰りに近所の居酒屋さんに寄って、ビールとおつまみをお供に、文庫本を少し読んでから帰る、みたいな時間もあったんですけどね。最近はお酒を飲むと原稿が書けなくなるので、晩酌のタイミングも難しくて。今の楽しみは、寝る前にYouTubeやポッドキャストで怖い話を聴くこと。怪談の静かな語り口調に耳を傾けると、すーっと眠れます(笑)」
「次は長編にもチャレンジしてみたい」「ホラー作品にも興味はあるけれども、勉強が大変そう」など、これから書いてみたい小説へのアイデアは次々とあふれ出てくる!
「なんで小説なのか。実は書いている私にも、よくわからないんですよね。ただ小説って、すべてを許してくれる気がしていて。何を書いてもいいですし、何が書かれていても受け止められる。この絶妙な感覚をうまく言語化できなくて、もどかしいです……。活字の世界がつむぐ物語の幅の広さに、ずっと魅せられ続けているのかな、と思いますね」
Profile
たかせ・じゅんこ●作家、1988年、愛媛県生まれ。立命館大学文学部卒業。大学在学中から本格的に創作活動を始め、2019年『犬のかたちをしているもの』で、第43回すばる文学賞を受賞し、デビュー。’22年『おいしいごはんが食べられますように』で第167回芥川賞を受賞。その他の著作に『水たまりで息をする』がある。
X:takase_junko
『いい子のあくび』
周囲と協調しながらも、どこかで理不尽さを感じている20代の会社員・直子。ある日、歩きスマホをしている人に道を譲るのは「割に合わない」と感じ、相手が気づかない塩梅で、自分からぶつかることにした——。表題作のほか、短編2作を収録。『いい子のあくび』は「ほかにも『ながらスマホはよくない』とか、標語みたいなタイトル候補をたくさん考えました」と、悩んだ末にピンときた題名だったのだそう!
Staff Credit
撮影/名和真紀子 取材・文/石井絵里
こちらは2023年LEE10月号(9/7発売)『カルチャーナビ』に掲載の記事です。
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