今、「短歌」が注目を集めています。
LEE編集部まわりでも始めている方が続出! その魅力を探るべく、歌人で脚本家の桑原亮子さんへのインタビューが実現。
暮らしの中で生まれる思いをあなたも詠んでみませんか?
今、私たちの心に短歌が響いてくる!
ドラマ『舞いあがれ!』が短歌に興味を持つきっかけに
昨年の10月から今春にかけて放送されていたNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の物語の後半で、登場人物たちが短歌をキーワードに心の機微を表現する描写が話題に。
ドラマの内容とともに、短歌が持っている「五七五七七」の文体が持つ奥深さや、心情を短い言葉で詠むことのおもしろさに、あらためて注目が集まりました!
NHK連続テレビ小説 『舞いあがれ!』での短歌が話題の桑原亮子さんに聞く、
「日常を短歌にする」ヒント
『舞いあがれ!』の脚本の一部を担当し、登場人物の短歌シーンを描いたのが桑原さん。短歌を始めたきっかけや、その楽しみ方について伺いました!
PROFILE
脚本家・歌人
桑原亮子さん
1980年、京都生まれ。大学卒業後、2014年にラジオドラマで脚本家デビュー。短歌は’08年から本格的に詠み始め、皇居で行われた「歌会始の儀」の入選者に選ばれたことも。
ドラマの登場人物たちの歌集が!
ドラマの中でヒロイン・舞の幼なじみだった貴司の作る短歌が話題に。その彼の作った歌を中心に、秋月史子、リュー北條など作中人物の歌を収めた、ドラマのアンソロジーとなる短歌集。
ドラマのファンだった人はもちろん、見逃したという人も、桑原さんの歌の世界が味わえる歌集として、十分に楽しめる内容になっています。
Q1.
脚本を書いたドラマから、登場人物たちの歌集も刊行。ドラマの中に短歌が効果的に使われる構成は、どうやって生まれてきたのでしょうか?
「私が脚本の一部を担当したドラマ『舞いあがれ!』は、虚弱体質だった少女時代を経て、空を飛ぶことを夢見るようになったヒロイン・舞の成長と挫折、そして新たな生き方を描いた物語でした。
舞には、貴司という幼なじみがいましたが、その彼が打ち込んでいた創作活動が短歌です。ドラマの中での舞と貴司は、それぞれが人生経験を積みつつも、小さい頃からお互いをよく知る親友のままでした。
この仲を進めるにはどうするか? と考えたときに、『貴司が、舞への恋心を明らかにしていく』のがいいと思い、その効果的な方法として、貴司が詠んでいる短歌を使ってみようかというアイデアが、ドラマの制作チームの中から、自然と生まれてきました。
『舞いあがれ!』の脚本は、私を含めて3人が共同執筆したものです。そもそも私が脚本家になろうと思ったきっかけは、この『舞いあがれ!』を作り上げたプロセスのように、たくさんの人と協力し、意見を出し合いながら、物語を作ることに魅力を感じたからでした。
文章を書くこと自体は、10代後半から興味があり、大学時代には童話を書いていました。童話では例えば、疲れている母親が、間違えて人形を冷蔵庫に入れてしまったことから起こる騒動や、孤独な海猫と山猫が出会う話など、ファンタジックな作品が多かったかもしれません。童話は今でも書いています。
…と、一人で物語を作るのも好きなものの、シナリオは、かかわる人の数だけ、無限にアイデアが広がり、書けることが増えていきます。今回の『舞いあがれ!』での、作中に短歌を登場させる構成も、まさにそうでした。
さらにドラマを見てくださった方からのお声がけで、貴司をはじめ、キャラクターたちの短歌が、歌集になり発売されるなど、予想外の広がりを見せてくれて。これも脚本が持つ、おもしろいところだと思いました」(桑原亮子さん)
【『舞いあがれ!』で物語のカギとなった歌】
千億の星に頼んでおいた
梅津貴司
「この歌はそのまま読むと、新しい道を歩み始めた人をそっと応援する歌です。
けれども実は、本歌取りという短歌の技法を入れています。
万葉集に収められている『君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも』という恋の歌が、そのモチーフ。
ドラマの中では貴司が舞に、これまでとは違う気持ちを抱き始めていることをひそかに表現したいと思い、『歌人が気持ちを隠すなら短歌の中だろう』ということで、本歌取りを使いました」(桑原亮子さん)
Q2.
桑原さんご自身はどのように短歌を始めましたか?
「大学時代に短歌のゼミを受講したのが、歌を作り始めたきっかけです。
30人ぐらいの学生が受講していたゼミで、さまざまな歌人の短歌について学びながら、自分で作品を発表する機会もありました。そのときに、短歌を作るのは自分と向き合うことなのだ、と気がついたように感じています。
最初の頃に作っていた歌は、本当に等身大の学生らしいものでした。片思いや、日常のささやかなことをテーマにしていましたね。実は当時の歌を書きためたノートを、今でも持っているんです。たまに読み返すこともあるのですが、びっくりするぐらい、学生時代の気持ちが鮮やかに蘇ってきます。
大学を卒業してからは、短歌結社に入っていた時期もありました。結社に入った理由は、独学で歌を学ぶよりも、いろんな歌人の方々と切磋琢磨して、よりいい歌を作りたいと思ったからでした。
世代や住む場所を超え、さらに普段の生活では会えないような方々と、歌を通して心を交わすことができましたね。短歌の持つよさを、あらためて実感できたと思っています」(桑原亮子さん)
【『舞いあがれ!』で桑原さんが特に印象に残った歌】
この道をいく明日の僕は
梅津貴司
「劇中で貴司が初めて作った短歌で、あまり上手ではないところが好きです。
短歌は「上手な歌」=「いい歌」とは限りません。初めて作った誰かの一生懸命な短歌が、大歌人の短歌と同じくらい心を打つこともあります。
ドラマの中で貴司は、この短歌を、五島列島の朝の浜辺で、幼なじみたちに見せました。このシーンに登場していた赤楚衛二さん、福原遥さん、山下美月さんたちの表情がとても美しくて。そのおかげで歌も印象に残っています」(桑原亮子さん)
Q3.
桑原さんはいつ、どんなふうに短歌を作っていますか?
「日々の中の、あらゆる場所で作っています。
テーマはあまり決めず、自分の目で見たものを、心が動くままに詠んでいますね。『おもしろい』『きれい』と感じたことをとっかかりに、ゆっくり短歌が生まれていく感じです。
歩いているときや電車の中はもちろん、夜道で思いつき、街灯の下で書きためたことも! 言葉が思い浮かんだらすぐにメモできるように、小さなノートを持ち歩いています」(桑原亮子さん)
桑原さんが使っている
測量野帳
測量用に作られたコクヨのミニノート。
「小さく軽く、外出先でも素早くメモが取れます。すぐ使い切ってしまうので、新品を何冊も常備しています」(桑原亮子さん)
Q4.
初心者が短歌を作るときに、心がけるとよいことはありますか?
「まずは短歌の基本になっている『五七五七七』の文体を、しっかりと意識するといいと思います。自分の感じたことを、五音、七音にぴったりと収めるのは、最初は難しいと感じられるかもしれませんが、続けると体の中に、短歌のリズムがしみ込んできます。
私の場合、文字数が決まっていない脚本を書く場合は、登場人物たちが脳内で動き出す様子を、カメラで追いかけるような感覚で文章にするのが楽しいのですが、決まった文字数がある短歌を作るときは『自分から出てきた思いを言葉にできた』という喜びがあります。
また、たくさんの歌人が参加するアンソロジーを読むのもいいですよ。好きな歌人を見つけると、創作も楽しくなります。
LEEを読んでいる方だと、お子さんと短歌を作る機会もあるかもしれませんね。子どもたちには、『短歌は難しいものじゃないよ!』とアドバイスをしたいです。
いつも使っている言葉で構わないので、毎日の中で感じた、おもしろかったことや楽しかったことを教えてほしいですね。自分が見つけた宝物を周りに紹介する気持ちで、楽しんでもらえたらと思います」(桑原亮子さん)
桑原さんオススメの
歌集
「子どもとのこと、コロナ禍中の様子などさまざまな歌が収められています。私は、子育て中の貴重な瞬間を切り取った短歌に心を打たれました」(桑原亮子さん)
他にも「もっと気軽に、日常を『短歌』に」を公開中!
次回は「LEE100人隊も日常を短歌に!」をご紹介。
※今特集の短歌の表記は、デザイン上の都合により、行を分けて掲載しています。
撮影/柳 香穂(物) イラストレーション/酒井真織 取材・文/石井絵里
こちらは2023年LEE8.9月合併号(7/7発売)「もっと気軽に、日常を『短歌』に」に掲載の記事です。
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