『鈍色(にびいろ)幻視行』
恩田 陸 ¥2420/集英社
小説家の主人公が迫る、謎多き作家の真実とは?
『蜜蜂と遠雷』などでおなじみの、恩田陸さんの最新長編作品が登場。今作は、大人の心の機微を描いた、ミステリ・ロマン大作だ。
主人公の梢(こずえ)は、社会性のあるエンタメが得意な小説家。夫の雅春とは再婚同士の仲になる。次の執筆のテーマに梢が選んだのは、謎の作家・飯合梓(めしあいあずさ)と、その遺作小説『夜果つるところ』。3人の母親を持つ私を描いたこの作品は、過去に映像化が企画されるも、そのたびに事故や謎の死が続き“いわくつき”と言われている。雅春が、この作品に携わった人たちと縁が深いこともあり、梢は取材と夫婦旅行も兼ねて、彼らが集う豪華客船のクルーズに参加する。
船内に居合わせたのは、映画監督、女優、プロデューサー、編集者、映画評論家、漫画家など。長年クリエイティブな世界に身を置いてきた人ばかり。年齢も50代以上の者がほとんどだ。彼らは『夜果つるところ』や飯合梓について、それぞれの意見を語り合う──。
飯合梓とは何者なのか? 『夜果つるところ』が、人々を惹きつけるのはどうしてなのだろうか? この2つの謎解きが、本作の読みどころ。加えて、豪華客船という密室の中で行われる、登場人物同士のやりとりも、繊細さとユーモアがたっぷり。そして主人公・梢のキャラクターからも目が離せない。最初は夫の後ろに隠れるようにして、関係者たちの話に耳を澄ませていた彼女だが、次第に主体的になり、雑談ではなく、個別インタビューの形で、関係者に話を聞くようになる。同じ船に乗り、謎の作家や作品にかかわった過去があっても、彼らの感じ方、見た風景はバラバラで、人それぞれが持つ妄想や、想像力の幅広さに唸らせられる。
人々の“幻視”をすり合わせた先にある、梢の結論にドキドキしつつ、彼女を取材へと向かわせた、雅春の心の動きにも注目。実は『夜果つるところ』が原因で、前妻を失っていた彼が、何を考えてこの旅を続けているのかも気になるはず。ミステリー、ロマン、人間心理が詰まった虚構の世界に、どっぷりひたって!
『わたし×IT=最強説 女子&ジェンダーマイノリティがITで活躍するための手引書』
NPO法人Waffle ¥1870/リトル・モア
IT分野のジェンダーギャップ解消を目指すNPO法人による、初心者のためのガイドブック。ITと社会のかかわり、現場で働く女性たちへの取材、webサイトの作り方もわかりやすく解説。理系の人向けだから私には関係ないよね、という先入観を壊してくれます。子どもの進路選択へのヒントにもなる一冊に。
『ちょこっとから楽しむ はじめての梅仕事』
榎本美沙 ¥1760/山と溪谷社
LEEweb連載「旬を食べつくす日々の食卓」でもおなじみの榎本美沙さんによる、梅仕事を手軽に始められる入門書。モットーは「少量ずつ」「特別な道具を使わない」「甘さ控えめ」と、気合いを入れて仕込まなくっちゃ!という思い込みからも解放してくれます。梅干し、シロップ、ジャムから、それらを使ったアレンジレシピまで、梅を心ゆくまで味わい尽くせます。
『日本全国 地元パン』
甲斐みのり ¥1870/X-Knowledge
昭和20~30年代ぐらいまでに創業して地域に愛され、材料やかたち、ネーミングやパッケージに時代性が現れるパンを「地元パン」と命名した著者。あんパン、メロンパンなどの種類や、名物などの項目に分けて紹介。その掲載数は500個以上と量の多さもさることながら、バラエティ豊かなパンの写真にほっこり。著者の地元パンへの愛があふれるコラムも、必読です!
取材・原文/石井絵里
こちらは2023年LEE7月号(6/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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