引き続き、青木亮輔さんのインタビューをお届けします。
森林ツアーの道中、「ここが僕たちが整備した作業道です」と案内しながら、道に咲く花や生いしげる葉を丁寧に説明してくれる青木さん。訪れた人に、木や自然の魅力を伝えたい気持ちにあふれています。大学時代は探検部だった青木さんですが、実は生まれは大阪で千葉育ちです。後半では、青木さんがどんな幼少期を過ごし、林業へと進んだか半生をたどります。また4月に檜原村の村議会議員に立候補し当選、議員としての活動も始まりました。村づくり と林業、青木さんが考える理想の村とは。(この記事は全2回の2回目です。前編を読む)
植村直己さんに感化され、冒険や探検へ憧れを募らせる
青木さんは大阪生まれ、水産関係の仕事に就く父親の都合で、12歳の時に千葉へ引っ越します。ニュータウンと呼ばれる新興開拓地、小川が用水路に変わっていく様子を見ながら、近場の田や公園でよく遊んだ幼少期でした。
「父が鹿児島大のワンダーフォーゲル部 。母の実家が岩手の久慈だったこともあり、帰省する時や出かけ先も、自然の中が多かったと思います。中学時代に読んだ植村直己さんの著書に感化され、冒険したい、遊ぶように暮らしたいと思うようになって。冒険や探検への憧れを募らせていきました」
植村さんは明治大学山岳部出身。しかし「山だけだと物足りない」と思っていた時、大学探検部の代名詞的存在だった“農大探検部”を知ります。
「探検部があって林業や造園も学べるなら、東京農業大学がいい! と思って。大学は、農大1本に絞って受験しました。受けられる全ての日程を受けたのですが、見事に全部落ちて(笑)。ひとつだけ補欠合格があり、それが農学部林学科だったんです。補欠合格の結果が来る最終日、夜になっても連絡が来ず、もうダメだと思った時、電話がかかってきて。なんと繰り上げ合格。9回裏の逆転満塁ホームランですね」
源流やフロンティアを探すことは、林業の課題を解決することに似ている
大学入学後は、探検に没頭します。日々探検の計画を立て、合間にトレーニング、夜は先輩と探検談義に花を咲かせ、渡航費用を稼ぐためにバイトに明け暮れます。
「探検の基本は、計画を立てて、現地に向かい、チャレンジする。未開の地に足を踏み入れると考えれば、林業も同じようなものかも。源流を探す・フロンティアを探すことは、林業の課題を解決することにも似ているかもしれませんね。衰退産業でもある林業をどう盛り上げるのか。地域再生というと大げさかもしれませんが、手法は似ていると思います」
大学4年の時には就職活動をせず、探検を続けるために“研究生”として大学を1年延長。大学卒業後は一般企業に就職した後、檜原村森林組合を経て、2006年に東京チェンソーズを立ち上げます。
檜原村議会議員に当選、村と林業の活性化に奔走
青木さんが林業の世界に入って20年近く。林業従事者はピーク時の4万5000人から10分の1ほどまで減っている中、東京チェンソーズでは創業当時4名だったスタッフは、社員20名、アルバイト10名にまで増えました。
「林業がなぜ衰退したかといえば、林業に携わる人の多くが林野庁が敷いたレールの上でしか林業ができなくなってしまったことも一因かと思います。当時は植林から育林にかけて山が利益を産まないために林野庁が補助金の制度を整備しました。その時代とは異なり、今は伐採適期になっています。林業に関わる人が考えることを放棄し、単調化していることが問題です。 林業に関わる人を増やし、独立する人が増えることで、林業にも個性が生まれ、多様化する。地域の色も出てくる。それによって林業が活性化していくんじゃないかと思います」
地域、村から考える林業のあり方。青木さんは、4月に行われた村議会議員選挙に立候補し当選。5月からは議員としての仕事も始まりました。村の活性化とともに、林業をどう活かすかを考えています。
村や町単位ではなく、川の流域単位で考えてみる
「このエリアには、多摩川最大の支流である秋川があります。秋川・多摩川流域には海のエリア、街のエリア、山のエリアがあり、それぞれの流域に住む人たちがそのエリアにある野菜や魚を食べ、木を使うようなライフスタイルが理想です。山から流れてきた水や栄養分が川を通じて、海に流れつく。森林が豊かであれば、川や海も豊かになる。流域ごとに考えれば他人ごととは思えないはずです。川を中心とし、山、町、海、同じ流域を共にしている仲間なんですよね。村や町単体ではなく、広い視点で考える時期に来ていると思います」
この意識を持てるのは、島国の日本だからこそ。探検で訪れたメコン川は、国をいくつもまたいで流れているため、そうはいきません。木が育つ未来、10年後20年後を考えれば、海外まで視野を広げた魅力の再発見が必要に。
「20年後、若者が誇れる村って、どんな村だろう。木は成長して、樹齢80年90年の木がもっと増えている。森林空間も今以上に育成され、企業研修で新入社員が訪れる。小学生が森林で環境教育をする。美術館や映画館と同じように森に遊びに行く。そういう意味でも、森林空間をもっと活用していきたいんです。教育現場、例えば不登校の子が遊びに来れるような居場所づくりもできたらいいですよね。
檜原村の約7割のエリアが、東京に唯一あるナショナルパーク・秩父多摩甲斐国立公園に含まれています。海外の国立公園で、首都空港から日帰りできるほど近い場所にある公園はありません。 海外からのインバウンドも期待できる、そんな魅力のある村にしていきたい。檜原村の人口は、僕が来た20年前は約3500人だったのが、現在は2000人ほどに。たくさんの人が訪れることで、檜原村にいる若者や檜原村を出た若者も“ここで働こう”“また戻ろう”と思ってくれるきっかけになってほしいです」
森の中にいると単純に気持ちいいんです
森のこと、地域のことになると、思いが止まらない青木さん。プライベートでは、30歳の時に大学の同級生と結婚。庭師だった妻は、現在檜原村のお隣のあきる野市にある酒蔵で働いています。妻が働く酒造で作ったお酒を飲む時間が一番のリラックスタイムだと言います。
林業でいえば、3月から5月までは植林、6月から夏頃までは下刈りと呼ばれる苗木のまわりに生えた雑草やツルを刈る作業に入ります。現場の作業は朝8時過ぎに始まり、夕方5時に終了。青木さんが現場に出ることは少なくなったそうですが、事務所作業や打ち合わせなど檜原村で過ごすことがほとんど。緑に囲まれていることが多いそうです。
「森の中にいると単純に気持ちいいんです。今日もそうでしょう、こんな美しい環境にいるだけで本当にウェルネスというか。普段はオンラインで打ち合わせも多いんですが、わざと外が見える場所や背景に森林が映る場所に移動して打ち合わせをすることもあります。仕事やプライベートこだわらず、つながった人に自然の良さを共有することも大事だと思って」
カラッとした性格とよどみのない振る舞い。青木さんの清々しい様子は、まさに自然とともに生きる森の人でした。「ふだんからあまり悩まないんですよね。忘れっぽいんですよ。カミさんにも、よく“何も覚えていないよね”って、言われるんです(笑)。ネガティブなことは深く考えない、ストレスはないと思います」
青木亮輔さんに聞きました
身体のウェルネスのためにしていること
できるだけ歩く
「体を動かすことに気をつけているわけではありませんが、どうしても車移動が多くなるので、できるだけ歩くようにしています。山仕事をしていても、実は歩く距離はそう多くないなんてことも。毎年仲間数人と檜原村から羽田間を秋川と多摩川を繋いで歩いています。村議会議員の選挙活動では、実は選挙カーを使わずに自分の足で歩いて回りました。歩くことで見える世界が違ってくるんです。林業では、まさに自分の足で山を歩きますが、小さなものに気づけたりと、同じ時間を過ごしても得られるものが違うんです」
心のウェルネスのためにしていること
地元の酒蔵のお酒を飲む
「大学の時から、ずっとお酒を飲むのは好きです。外で飲むこともありますが、基本は家飲みが多いですね。地元の酒蔵のお酒を飲むことが多いですが、地域の水で醸したお酒を飲めるって、最高じゃないですか? その年の仕上がり具合を楽しめることは本当に贅沢なことですね 」
インタビュー前編はこちら!
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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