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【書評】宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』行動力抜群な女子の、痛快青春物語!

2023.05.25

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『成瀬は天下を取りにいく』
宮島未奈 ¥1705/新潮社

行動力抜群な女子の、痛快青春物語!

『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈 ¥1705 新潮社

「女による女のためのR‒18文学賞」で、初の大賞、読者賞、友近賞のトリプル受賞を果たし、今回の小説で本格的にデビューした、宮島未奈さん。1983年生まれで、LEE読者とは同世代になる。そんな彼女が描くのは、まさに初夏に読むのにぴったりな、爽やかかつ、痛快な女子の青春小説!

ヒロインの成瀬あかりは、滋賀県に住む中学2年生の女の子。子どもの頃から成績がよく、何事もてきぱきとこなしてしまう性格ゆえに、周りからは「少し変わった子」として、距離を置かれている。しかし成瀬はそんな周りの目を気にすることなく、やりたいことに次から次へと挑戦していく。彼女の一番の理解者は、幼なじみの島崎みゆきだ。成瀬から、「閉店を迎える、大津の西武百貨店へ毎日通うので、ローカルテレビの中継に自分の姿が映るのを確認して欲しい」と頼まれたのをきっかけに、成瀬と行動をともにするように。

「M‒1に出てみたい」という成瀬の思いつきに至っては、途中から島崎のほうが前のめりに! 二人で漫才ユニット・ゼゼカラを結成し、ネタ作りや、かけ合いの練習に没頭していく──。島崎のように彼女を受け入れる者、「成瀬と一緒にいたら、悪目立ちしていじめられるのではないか」と恐れる者、唯一無二のキャラに触れて恋心を抱く男子など、わが道を行く成瀬に、同級生たちは興味しんしん! 何かと人の目を気にしがちな風潮がある昨今、成瀬の振り切れた言動は、大人にとっても刺激になるし、部活や進路など、好きなことに一生懸命だった、10代の日々を思い出す人も多いかもしれない。

中学生から高校生へと、成瀬が成長していく中で、盟友・島崎との関係が変化するのも読みどころ。ポーカーフェイスで、何事にも感情的にならない成瀬だが、物語の後半、島崎の言動に心が揺れる。女子×女子のバディものでもあるこの物語、コミカルでいて温かく、ラストまで読みごたえ十分。読み手の気持ちを沸き立たたせ、何気ない日々の愛しさに気づかせてくれる良作!

『くもをさがす』
西 加奈子 ¥1540/河出書房新社

『くもをさがす』西 加奈子 ¥1540 河出書房新社

人気小説家の、初のノンフィクション。語学留学のために、家族や猫とともに東京からカナダへ引っ越した彼女。体に違和感を覚えて検査を受けたところ、乳がんの診断を下される。病を知ったときの気持ち、具体的な治療、周囲の人たちの様子、そして「人間の自由や幸せとは?」と考察する。自身の経験を細やかに描きながら、“病も含めて生きること”を力強く書ききった一冊。

『オルタナティブ』
永野 ¥1760/リットーミュージック

『オルタナティブ』永野 ¥1760 リットーミュージック

カルチャー通と知られる芸人の永野さんが、オルタナティブ=亜流をテーマに、自らの生き方や芸に影響を与えた、映像作品や音楽について語り下ろしたエッセイ。特に音楽についての考察は鋭く、30代・40代が青春期を過ごした’90年代のロックバンドたちの深掘りがおもしろい。また、メジャーと呼ばれる作品にも独自の見解が。彼が持っている、視野の広さを感じさせてくれる。



『暮らす働く、もっと明るいほうへ。』
Emi ¥1540/大和書房

『暮らす働く、もっと明るいほうへ。』Emi ¥1540 大和書房

本誌連載でもおなじみEmiさんの19冊目となる、暮らしと仕事に関するエッセイ。音声メディアVoicy『OUR HOME 暮らす働く“ちょうどいい”ラジオ』の内容をもとに構成。明るいほうからのものの見方、気持ちよい人生の楽しみ方や殻を破る方法など。思いの詰まったグッと刺さる言葉の数々に、読めば自分の気持ちに誠実に、小さな一歩を踏み出したくなるはず!


取材・原文/石井絵里
こちらは2023年LEE6月号(5/6発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。


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