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【武田砂鉄さんインタビュー】こしあん派かつぶあん派くらいなら、ぶつかり合いにはならないですよね

2023.03.23

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世の中で当たり前とされる物の見方や考え方について、「本当にそうなのか?」と問い続けているライターの武田さん。最新刊は、子を持たない既婚男性の立場から、父親や子ども、家族について考察した一冊だ。執筆のきっかけは、大好きな書店巡りの際に、書棚を見て、ふと気づいたことだったのだそう。

こしあん派かつぶあん派くらいなら、ぶつかり合いにはならないですよね
────武田砂鉄さん

【武田砂鉄さんインタビュー】こしあん派かつぶあん派くらいなら、ぶつかり合いにはならないですよね

「妊娠や出産、子育てに関する本って、経験者から書かれたものが多いですよね。当事者以外からの意見は、あまり見当たらないように思えました。同時に、結婚してから10年以上、夫婦2人で暮らしている私について、同級生などから『お前、子どもはいないの?』と聞かれる機会が増えていたんです。

私はそれも生き方のひとつだとフラットにとらえているので『うん、いないよ』と答えていたのですが、気にするようにしてみると……なるほど、世の中は、人が子を持つ・持たないの領域に随分と踏み込んでくるのだな、と。ならば、父親ではない人間が、子どもを育てている人について、さらに私のような家庭を持つ人について考えたらどうだろう。今の政治や社会の在り方も含めて、見えてくることがあるかもしれないと思いました」

私たちが「家族」と言われて想像するのは、両親と子どもたちがいつでも笑い合っている……そんな姿。あるのかないのかわからない共同幻想に、人はとらわれ、悩むことも多い。

「もちろんそういう家庭を営んでいる方もいるでしょうし、子育てをやりたい人がやればいいと、ひとつのプレイぐらいに思ったほうがラクですよね。でも全員の義務や当たり前ではない。子がいない私に『そろそろかな』などと、子がいる人から反応をされて驚いたことがあります。『早くこの頂上まで登ってこい』的な感覚だったのでしょうか。今の状態が自分たちの頂上かもしれないし、勝手に人の人生を八合目みたいに扱わないで、と思いました。

夫婦2人はもちろん、1人で生きる形もアリですし、5回結婚したっていい。あらゆるバリエーションの家族や暮らし方が肯定されれば、みんな穏やかになれるのにと思います。

例えばどら焼きって、こしあんかつぶあん、どちらが好きかで意見が分かれたりしますよね。それぞれを選ぶ理由はあるけれども、だからといって、激しいぶつかり合いには発展しない(笑)。家族の問題に対しても、それぐらいでいいんじゃないでしょうか。あなたはこしあんで、私はつぶあん。どちらもおいしいし、食べると幸せになれるよね、と」

また最近使われる「心のモヤモヤは晴らすもの」という観念に対しても「晴らさなくていいです」と。

「モヤモヤは、簡単にワクワクへと変わりません。私は人生って、天気で言うと曇りでいいと思っているんです。何しろ、まだ一回しか人生を経験してないんですから、悩み、迷って当たり前。今日もインタビューでいろいろと話しましたが、だからといって特に結論もないです。こうして基本設定がモヤモヤしていれば、日が差し込むとうれしいし、小雨が降ってきたら『降るよね~』ぐらいに受け止められる。曇りって悪くないですよ。

社会的に晴れやかとされていること、理想みたいなものに、無理に体を寄せる必要はなく、押しつけられる瞬間があったら『それが正解なのだろうか?』と、疑う気持ちを持っていたいと思います」

Profile

たけだ・さてつ●ライター、ラジオパーソナリティ。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、2014年からライターに。『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。ラジオ『アシタノカレッジ』(TBSラジオ)金曜日のパーソナリティも担当。大のメタル好きとしても知られ、この日の撮影はもちろん、普段から、愛するメタルバンドのグループ名などが入ったTシャツを愛用。
Twitter:takedasatetsu
公式サイト:http://www.t-satetsu.com



『父ではありませんが 第三者として考える』

『父ではありませんが 第三者として考える』¥1760 集英社

¥1760 集英社

子どもに関して、いる、できた、欲しい、などの状態で語られがちな話題を、子持ち“ではない”武田さんがとらえ直してみた一冊。「子どもがいないあなたにはわからないでしょ、という意見もあるかもしれませんが、当事者や第三者も含めて、親になることや、現代社会の中の家族像について、みんなで考えるきっかけを作れたらいいと思っています」


撮影/名和真紀子 取材・文/石井絵里
こちらは2023年LEE4月号(3/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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