【書評】石田夏穂『ケチる貴方』冷え性やももの太さは、私たちの心にどう影響する?
2023.03.17 更新日:2023.03.17
『ケチる貴方』
石田夏穂 ¥1650/講談社
冷え性やももの太さは、私たちの心にどう影響する?
体と心は密接に結びついていて、どちらもバランスよく機能してくれれば最高だけれども、なかなかうまくはいかないもの。注目の小説家・石田夏穂さんの最新刊は、まさに“体と心”の関係をすくい取った、大人が読むべき中編が収められている。
表題作『ケチる貴方』の主人公「私」は、自他ともに認める、不愛想な人間だ。勤めている会社の上司からも「いちいちカッカしてると損するぞ」「もう少し笑え」と、苦言を呈される始末。とはいえ私は、そう言われることを気にかける余裕はない。というのも私は無類の冷え性で、物心ついた頃から、寒さとの闘いに明け暮れる日々。私が冷え性であることは、周りの人は誰も知らない。そして悟られないように、ありとあらゆる冷え対策に挑むものの、体は、ますます寒さを感じるばかり。
寒い日々が続くうちに、自分に対する不快感や不機嫌な気持ちも増してしまう。そんなときに、私は“ある行為”が、「体が温まるのでは」と気づいてしまうのだが――。
怒り、いらだち、不機嫌などは心の状態だけれども、その原因の一部は、体からくるものだったりする。そして年齢や性別を問わず、誰もが、自分の体に対して、コンプレックスや不満を抱いたことはあるはず。作中で繰り広げられる、心の在り方への考察は、「わかる!」と言いたくなってしまう。そして主人公が、寒さに対して過剰なまでの警戒や、恐れを抱く姿は、滑稽さすら感じてしまうほど。
本人にしかわからない敵・冷えと格闘する姿に、共感や笑い、驚きを感じるとともに、「実は誰も彼もが、主人公のように心と体のバランスを取って生活しているのでは?」と、想像が膨らんでいく。
同時収録の『その周囲、五十八センチ』は、ももの太さに悩んだ挙句に、脂肪吸引の手術に依存してしまう女性が主人公。見た目の不都合を解決したら、心も変わるのか? 不都合だと思っていた部分が、実はその人の魅力だったりするのではないか……? そんなことに思いを馳せられる、興味深い物語が詰まった一冊に。
『木挽町(こびきちょう)のあだ討ち』
永井紗耶子 ¥1870 新潮社
舞台は江戸時代。芝居小屋がある木挽町の裏通りで、菊之助という美少年が父親を殺した下男にあだ討ちを成し遂げる。その2年後、顛末を知ろうと訪れた若侍の前に、現れる芝居小屋の面々。彼らの人生、そして事件の真相は——。スリリングな展開とテンポのよい語り口調で、あっという間に物語の世界へ引き込まれてしまう。時代小説好きのツボを押してくれる長編。
『人生にはいつも料理本があった』
赤澤かおり ¥1760 筑摩書房
料理本の編集者として25年以上も携わってきた著者が、栗原はるみさんや若山曜子さん、ワタナベマキさんなど本誌でもおなじみの料理家などの、これまで影響を受けたり編集したりした150冊以上の料理本などを紹介。著者の思い出とともにレシピの魅力がぎっしり詰め込まれ、行間からおいしさがたちのぼってきます。読んでみたい!と思う本にたくさん巡り合えるはず。
『ねこの手キッチン』
卵山玉子 ¥1320 文藝春秋
一人暮らしのOL・モモの部屋へ、突然やってきた猫のネコ助。人間の言葉をしゃべるネコ助が、モモに次から次へとおいしい料理を教えてくれるように——。一人と一匹のほっこりしたかけ合いと友情になごむコミック作品。サンドイッチ、キャベツのサラダなど作品内で紹介されるレシピは、簡単かつ、楽しく作れるものばかり。猫に癒され、食欲も心も満たされます。
取材・原文/石井絵里
こちらは2023年LEE4月号(3/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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