藤ヶ谷太輔さんとダメ父子に。豊川悦司さんが色気ダダ漏れ“憎めないダメ男”の極意を語る【映画『そして僕は途方に暮れる』】
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折田千鶴子
2023.01.13
“父親3部作”として臨みました
年を重ねても、相変わらず、この色気! 何度か取材させていただくたびに、いつも穏やかで大人で、でもどこか底知れず、う~ん、やっぱりカッコいい……。そんな豊川悦司さんの魅力が、近年ますますスクリーンで輝きを放っています。もうすぐ(1月13日)公開が始まる映画『そして僕は途方に暮れる』で豊川さんが演じるのは何と、家族から逃げたダメ男だけど、どうにも可笑しくて憎めない親父。
実はこれまでも、数々のダメ男を演じて来た豊川さん。特に昨年11月に公開された『あちらにいる鬼』で演じた男――瀬戸内寂聴さんの道ならぬ恋のお相手、井上光晴さんをモデルにした――とんでもないダメ男なのに女たちが放っておけない、その“どうしようもない磁力”は、強烈な印象を残しました。豊川さんだからこそ出せる“ダメ男の極意”をうかがうべく、ご本人に直撃しました。
大阪府出身。近年の代表作に、『ラストレター』(20)、『いとみち』(21)、『子供はわかってあげない』(21)、『鳩の撃退法』(21)、『弟とアンドロイドと僕』(22)、『キングダム 2 遥かなる大地へ』(22)など。『ミッドウ ェイ 日本の運命を変えた3日間』(20)でハリウッド映画に出演。『あちらにいる鬼』(22)が公開中、『仕掛人・藤枝梅安』(22)が2月3日より、『仕掛人・藤枝梅安 二』が4月7日より公開予定。
『そして僕は途方に暮れる』で豊川さんが演じたダメ男とは、藤ヶ谷太輔さんが演じる主人公・菅原裕一の父親、浩二。まさに、“この親あって、この息子あり”と思わせる、似た者親子っぷりが妙に可笑しいんです……。そんな浩二を演じるにあたって豊川さんは、21年に公開された2作――そのどちらも高く評価された横浜聡子監督の『いとみち』と、沖田修一監督の『子供はわかってあげない』の地続きであることを教えてくれました。
「お父さん役が2作続いた後だったので、本作のお話をいただいた時、正直こうなったら連作というか、“父親3部作にしたいな”、と。今度は俳優としてどういうアプローチができるかな、全く毛色の違う父親像を演じるのも楽しいかな、というノリが自分の中にありました(笑)。しかも前2作は娘だったので、息子も面白いな、と。豊川悦司という人間が演じているけれど、父親像がこんなにも違うのか、“え~っ!?”とみんなに観て欲しいというか。今回の父と子は、これまでで最も似た者親子でしたね。同じ穴のムジナというか(笑)」
「それに加えて今回は、監督の三浦大輔さんと、一緒に仕事をすることが一つのテーマでした。事務所のスタッフが、“すごく素敵な監督だから、一度は一緒にやった方がいい”と言ってくれて。だから浩二という役がやりたいというよりは、その言葉に乗ってみようと思いました。基本的には、自分のために仕事をしようと思っていますが、今回はその割合が少し違っていたと思います」
『そして僕は途方に暮れる』ってこんな映画
18年に上演された三浦大輔の舞台を、監督・三浦大輔×主演・藤ヶ谷太輔が再タッグを組んで映画化。フリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は、恋人・里美(前田敦子)と同棲しているが、浮気をしたことを機に、里美とこれからのことを話すのが面倒になって家を飛び出す。転がり込んだ親友(中尾明慶)に甘えまくった挙句、苦言を呈されてまたも飛び出し、先輩や後輩、姉や母親の元を訪ねては飛び出すを繰り返し……。きちんと向き合う人間関係が面倒になって逃げだす、現実逃避型エンターテインメント。
──浩二は自分も家族から逃げちゃったわけですが、父親としては、自分の息子が色んなことから逃げて生きていると知ったとき、どう感じたと思いますか!?
「浩二さんからすると、自分も全然ダメダメですが、彼なりの父親論があるというか、父親としての務めを果たそうとしています。それが滑稽であればあるほど、この物語が面白いと思いました。結局は逃げたその先――同じ穴のムジナである2人が、巣の中にこもってるみたいな感じになって(笑)。でも、その中から何かが見えてくるんじゃないか、というところが本作の面白いところだと思います。なんだかんだ言って追い詰めきらず、主人公にどこか希望の光を投げかけてあげる、みたいな感じがします。そこが面白いし、救われる話になっているのではないか、と」
──とはいえ裕一は、かなりクソ男でもあると思います。似た者な父親・浩二からしても、「さすがに、それはダメだろう」と、息子にダメ出ししたくなりませんでしたか!?
「いや、僕は結構、藤ヶ谷君が演じた裕一の気持ちが分かる気がします。だから裕一に対して“ダメだろう!”というよりも、“なんか分かるよ、それ。そういうことって、しちゃうよね” みたいな気持ちになるというか……。僕自身どちらかというと、そっち派かもしれません(笑)」
──都合が悪くなると逃げ出すのも、息子よ、分かるぞ、みたいな(笑)!?
「なんていうのかな、“逃げる”って一つの戦い方だと捉えれば、裕一はちゃんと戦っていると思うんです。ただ我慢してそこに佇んでいるよりは、少なくとも“逃げる”という行動に出たわけです、自分の体と頭を使って。それはやっぱり、1つの戦い方なんじゃないかな」
藤ヶ谷君が実の息子に思えて来た(笑)
──資料によると、藤ヶ谷さんが“あんな限界を迎えたことはない”とおっしゃるほど心身を削って演じ切るような、とても大変な現場だったそうですが、豊川さんはどうでしたか!?
「いや、本当に大変でした。三浦大輔監督とは初めてご一緒しましたが、元々すごくこだわって作品を作る方だと聞いていました。だから、“どんな感じでやられるのかな!?”と思っていましたが、最初の顔合わせで初めてお話した時に、“噂通り、一筋縄ではいかないタイプの監督さんだな”と印象を受けました。現場でも、なかなかOKが出なくて。しかも、自分の中で何をどう改良していけばいいのか、最初の頃はなかなか掴めなかったですね。テイクを繰り返し続けていくうちに、段々と嫌になってきて(笑)、“もう、いいや” みたいに思って演じたら、OKが出たりして」
「その時に、井上陽水さんの『夢の中へ』の、“探すのをやめた時、見つかることもよくある話で”という歌詞を思い出しました。本当にそんな感じだな、と。藤ヶ谷君は本当に素晴らしくて、忍耐強く三浦さんにくらいついていました。僕はあまり頭で考えるタイプではないので、藤ヶ谷君と僕と三浦監督の好みが、たまたま合うその1点をずっと探りながら撮影をしていた感じでした」
──とはいえ、“掴めた”という感覚がないと、別のシーンに移るとき、なかなか大変では?
「本来なら、そうなるかもしれない。でもこの三浦組は、ちょっと違いました。俳優だけでなくスタッフも、監督の頭の中にあるイメージを探しながら現場は進んでいるような感じでしたけど、探している間は答えが出なくて、探すのをやめたら答えが見つかってきたぞ、みたいな感覚だったと思います。具体的に“こうして下さい”という言葉ではなく、単純に“もう1回やってみましょうか”という感じなのですが、三浦さんなりのリアルを探していたのだと思います」
──当然、一発OKは、ほぼなかったですか?
「ですね。だから、何度も繰り返す中で一番大事にしていたのは、自分が飽きないことでした。飽きない、あるいは慣れちゃわない。どういう風に新鮮な状態に自分を保つかが、最も難しかったですね。それは監督にはできない俳優の仕事なので、例えば同じことを10回やっても、毎回初めて演技したような新鮮さを、どうやって自分の中に保つかが勝負でした」
──裕一と浩二がこたつに入って、侘しいコンビニ弁当を食べる的なシーンも面白かったのですが、ああいう何気ないシーンもテイクを重ねたりされましたか!?
「やりましたね。年の瀬にこたつで、2人でダラダラしてるところに電話が掛かってきて……というあのシーンも、本当に何回もやりました。撮影の合間も含めて、なんだか本当に藤ヶ谷君のことが実の息子みたいにどんどん思えてきて(笑)。北海道ロケも含めて、ほぼ2人のシーンだったので、そういうのも面白かったですね」
──その2人がウダウダするアパートのシーンも、スタジオではなく、ロケ撮影でしたか!?
「そうです、実際に存在するアパートでの撮影でした。狭いところにギュギュッと入って撮影しました。似たような画が撮れるだろうと関東近郊で撮影するのではなく、監督が北海道にこだわって、実際に北海道へ行って撮るという効果や意味は、すごくあったと思います。きっと全然違ったと思いますね。もちろん演じ手の気持ちも違うし、スタッフの方たちも違っただろうし、それも良かったと思います」
どんな役でも最初の理解者でありたい
──詳細は明かせませんが、ラスト、浩二の言動がメチャクチャ図々しいのに、その場に居るみんなが許せちゃうというか、笑っちゃうというか、あの面白さはなんでしょう。豊川さん自身の持つ“抜け感”みたいなものが、役にしみ出しているのでしょうか。
「どうでしょう(笑)。でも確かに自分は、なぜか許してもらう役が多いんですよね(笑)。この間の『あちらにいる鬼』は、本当にどうしようもない奴だけど、なんか許してもらってましたね(笑)。本当に、“何でこいつって許してもらえてんの!?”みたいな役が多いです。キャスティングしてくださる方に聞かないと、ナゼかは自分では分からないのですが……」
──役にどこかで“お茶目”さを出そう、みたいなことは意識して演じていないわけですよね!? そうなると、嫌らしくなるような気がしますし……。
「お茶目さを出すというよりは、今回のキャラクターに限らず、どんな役でも、とにかく最初の理解者でありたい、という風には思ってます。僕がきちっと愛して理解してあげないと、その役はとても可哀そうだし、それをしてあげるのが役者の責任だとは思っています。そういう気持ちが、もしかしたらキャラクターを通して、お客さんにも伝わってくれるのかもしれないな、とは思います」
──数々の“なぜか許されちゃう”ダメ男を演じてこられましたが、“父親三部作”にならい、これまで演じた“ダメ男ベスト3”は挙げられますか!?
「そんな風に考えたことはないなぁ(笑)……。ただ『仕掛人・藤枝梅安』の梅安ではないけれど、ダークサイドのキャラクターというのは、やっぱり好きですね。演じていても、やっぱり楽しい。日が当たるより、日が当たらないように生きている人間の方が、どうしても僕は惹かれちゃう傾向が昔からありましたね。単純なヒーローは何となく嫌で、どこかに痛みや苦しみを伴うようなキャラクターにならないか、ずっと模作してきました。“愛すべきダメ男”と言ってくれるのはきっと、ひと色にならないように複雑な澱(おり)を、その人間につけてあげるからというか……。それこそがやっぱりドラマだよね、それこそがやっぱり映画だよね、という頭が自分の中にあるのか、どうしてもそうしちゃいがちなんです」
普段は大阪の普通のオッチャンです(笑)
──ダメ男の話ばかりで恐縮ですが、豊川さんが演じるダメ男には必ず色気があると思うのですが、“ダメ”と“色気”ってワンセットだと思いませんか!?
「色気って何でしょうね。匂いや煙のように、蓋をしていても漏れてしまうようなもの、なのかな」
──カチっとしているより、“抜け”感も必要だと思うのですが。
「スキがあるというのは、確かにそうかもしれませんね。真っ直ぐに立っていても、近くに行った時にフと倒れかかって来られちゃうんじゃないかな、と思うような。うん、寄りかかってこられそうな雰囲気がある、というのはあるかもしれないな」
──豊川さんご自身が持つ“掴めなさ、あるいは掴ませなさ”。そういうミステリアスな感じが、色んな役に貢献してる気がしますが、その辺りは自覚的ですか。
「正直、自覚はあんまりないんですよね。僕はもう、本当に普通の大阪のオッちゃんなんですよ。プライベートの自分をお見せしたいぐらいです、今、言われたことと全然違いますから(笑)。だって格好つけていても楽しくないしね。カッコつけて、いいことってあるのかな? 僕はそう思っているんだけどね……」
──2022年は、『キングダム2 遥かなる大地へ』のような、豊川さんにしては割と珍しい、外連味たっぷり作り込み系の役もあれば、『あちらにいる鬼』や本作などのような人間ドラマもあり、バラエティに富んでいました。2023年は、どんな年にしたいですか。
「『キングダム2』のヒョウ公も、これから公開になる『仕掛人・藤枝梅安』の梅安も、なぜ僕のところに来たのか分からないんですよ。あまり自分には、ハードボイルドなイメージがないと思っているので。勿論いただいた役なので、期待に応えられるように頑張りましたが、自分の素質みたいなものは、やっぱり『そして僕は途方に暮れる』の父親系だという気がします。“失敗した男/迷ってる男/答えを見つけられない男”みたいな」
「とはいえ梅安もヒョウ公も、なんだかんだ言って答えを見つけられないのですが(笑)……。2023年以降も、いただいた役で挑戦したいと興味が持てるものがあれば、真摯に向き合っていきたいと思っています。もちろん好みや考え方も変わっていくので、その時々のそこに上手く合うか合わないか次第ですが。ただ、もうそんなに無理してまではやる必要はないかな、とも思っていたりはしますね」
何を聞いても思わずニヤッとしたくなるような、なんか深みというか優しい棘というか、何かがあるんですよね、豊川さん。そして『仕掛人・藤枝梅安』第一作、第二作とも、ものすごい面白いんですよ!! 本作のダメ男・浩二とはまた全く違う、硬派でピンと緊迫感の張った表と裏の顔を持つ男が、と~っても素敵です。
と、その前に……、『そして僕は途方に暮れる』。同名の楽曲(懐かしい大沢誉志幸さんの楽曲が、新アレンジされたエンディング曲も必聴です!)に、何やらノスタルジーを掻き立てられつつ、人との関係を断っては逃げ去ってきた裕一という青年の最後が気になります。果たして人生を賭けた裕一の逃避行は、どこへ行き着くのか。
藤ヶ谷さんファンはもちろんのこと、舞台をご覧になられた方もそうでない方も、是非、ダメ父子の逃避行の行方を見届けて下さい!
『そして僕は途方に暮れる』
2022年/日本/122分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
脚本・監督:三浦大輔
出演:藤ヶ谷太輔 前田敦子 中尾明慶 毎熊克哉 野村周平/ 香里奈 原田美枝子 / 豊川悦司
©2022 映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
2023 年1 月13 日(金)TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開
『そして僕は途方に暮れる』公式サイト
写真:菅原有希子
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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