『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』
妻と猫を愛し続けた実在の画家の劇的な半生とは
19世紀末から20世紀に活躍した画家、ルイス・ウェインという名にピンと来なくても、彼が描いた猫の絵を見れば、「これか!」とひざを打つに違いない。そんな彼の絵には数々の逸話が。当時猫は不吉な存在として恐れられていたが、その魅力を彼が初めて人々に気づかせて一転人気となったこと、夏目漱石に影響を与えたこと……。果たして彼は、どんな人物だったのか?
ビクトリア朝末期のイギリス。上流階級のルイス・ウェイン(ベネディクト・カンバーバッチ)は父亡き後、母と5人姉妹を支えるため、新聞にイラストを描いていた。ある日、長女が妹のために雇った家庭教師エミリー(クレア・フォイ)と、ルイスは惹かれ合う。しかし身分違いの恋に激怒した家族がエミリーを即刻クビに。ルイスは「人がどう思おうと構わない」と愛を貫き、結婚。2人は家を出て暮らし始めるが、半年後、エミリーに末期がんが判明する。
ルイス一人にすべてを押しつけ、感謝どころか母も姉妹もなぜ文句ばかり!? 怒りすら覚えるが、当時の男性優位社会ゆえの逆差別とも言えそう。ウェイン家の暗く冷えた感触から一転、2人の新居の美しく温かなこと! ずっと見ていたくなる幸せな日々からの急転直下に、思わず胸を押さえてしまう。そこへ迷い込んで来た小さな子猫、ピーターが、2人に安らぎを与える。彼を愛でながら、残された日々を大切に過ごす2人の姿が胸にしみる。
ピーターの可愛さはもちろん、ルイスが描く猫のユーモラスなこと。その時間に至福を味わう、2人のシンプルな人生観にも魅了される。そんな宝のような絵の数々を現代にまで遺しながら、無欲でお金に疎く裕福とは縁遠かったルイスに地団太を踏みたくもなるのだが。魔法のようにササッと絵が生まれる瞬間に感嘆、ビビッと愛やひらめきの火花が散る脳内をのぞく楽しさも。
晩年に訪れるさらなる激動に衝撃を受けつつ、たとえ命が尽きても彼に絵を描かせ続けたエミリーの愛、2人の結びつきの強さに感涙!
・TOHOシネマズシャンテほかにて公開中
・公式サイト
『ケイコ 目を澄ませて』
耳が不自由なボクサー、まっすぐなケイコの瞳に目がくぎづけ!
聴覚障害のあるケイコ(岸井ゆきの)は下町の小さなジムで鍛錬を重ね、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。しかしジムの閉鎖が決まり……。無愛想だが実直な彼女の背中を押す会長(三浦友和)との関係、ゴングもセコンドの声も聞こえない中、戦い続けるケイコの心の中に起きるさざ波、まっすぐ見つめる瞳から一瞬も目が離せない。澄んだ空気にピンと張った緊張感も心地よい。監督は『きみの鳥はうたえる』の三宅唱。
・12月16日よりテアトル新宿ほかで公開
・公式サイト
『泣いたり笑ったり』
イタリア発のちょっと新しくパワフルな再婚コメディ
片や妻子を泣かせてきたリッチで浮気性のロマンスグレー、片や亡き妻を今も愛し息子に尊敬される漁師。まるで対照的なオジサマ2人が恋に落ちた! 互いの家族はビックリ仰天、双方の子どもが猛反対。夏のバカンス、海辺の別荘を舞台に、両家に大騒動が勃発する。家族ゆえに面倒な感情を持て余すさまに共感しつつ、オジサマの純情にまさかの胸キュン、家族愛にホロリ。陽光みたいな温かさと明るさが最高!
・YEBISU GARDEN CINEMAほかで公開中
・公式サイト
※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。
取材・原文/折田千鶴子
こちらは2023年LEE1・2月合併号(12/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です
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