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子どもゆえの不器用さ、思いの強さに心惹かれる。映画『サバカン SABAKAN』

2022.08.11

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Cinema Culture Navi

『サバカン SABAKAN』

『サバカン SABAKAN』

© 2022 SABAKAN Film Partners

愛しくて抱きしめたくなる少年時代のひと夏の経験

“ひと夏の経験映画”というジャンルで括れそうなほど、多数の佳作を思い浮かべられるが、青少年期の夏の思い出を描いた物語に、なぜ私たちはこうも強く惹かれるのだろう。あの刹那の強烈な記憶がハッキリとは形を成さないまでも、その後の人生で幾度となく脳裏にぼんやり蘇ることを知っているからこそ、ノスタルジーが掻き立てられるのか。本作の2人の少年の、子どもゆえの無謀さと不器用さ、思いの強さを、落涙しながら抱きしめたくなる。

’80年代、長崎。キン肉マン消しゴムと斉藤由貴に夢中な小学5年の久田は、やんちゃな弟、ケンカしつつも仲のいい両親と暮らしている。夏休み、家が貧乏だからと友達にバカにされている竹本が、なぜか久田をイルカが出ると噂の島へ行こうと誘いにくる。

2人乗りで出かけた自転車がパンクしながら山を越え、不良に絡まれながらも、ついに海にたどり着く。驚くことに竹本は、島まで泳いで渡るという。半ば溺れながら、どうにかたどり着いた島で、イルカのイの字も見つけられなかったが、それはそれ。地元の親切でカッコいいお姉さん、お兄さんに助けられ、無事に帰ってくる。その日から2人は夏休みを一緒に過ごすが、離れ離れにならざるを得ない事件が起き――。

まるで破れかぶれな冒険に、半ば呆れながらクスクス笑ってしまう。なぜ一緒にいるだけで、こんなに楽しいのか。言葉では説明できない友情が、まぶしい。竹原ピストルと尾野真千子が扮する久田の両親の、下ネタが飛び交う丁々発止のケンカにも大笑い。妹や弟の面倒をみる竹本が振る舞ってくれたサバ缶寿司。頬張る久田を、うれしそうに見守る竹本の姿を思い出すたび、キューンと胸が縮む。

ちょっとした誤解や感情のもつれから、不器用に仲たがいするのもよくあること。離れ離れになる2人の、終盤の駅のシーンは忘れ難い名場面だ。しがない作家となった久田役・草彅剛によるナレーションや、彼が物語を振り返りながら執筆する佇まいが、余韻を長引かせる。

・8月19日よりTOHOシネマズ日比谷ほかで公開
公式サイト

『きっと地上には満天の星』

『きっと地上には満天の星』

© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.

NYの街をさまよう姿に目がくぎづけになる母娘ドラマ

定職のない母ニッキーは、5歳の娘リトルとNY地下鉄の廃トンネルで暮らしている。だが不法居住者として摘発され、地上に追い出された2人は寝る場所を探してさまよう……。初めて外の世界に出て怖がるリトルが、すべてに適応できない姿に納得しつつ、それが衝撃的。最初こそニッキーにイライラ、無責任だと責めたくなるが、その裏の事情や心情に思い至り、やるせなくなる。ついに現実を直視する母に涙!

・ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで公開中
公式サイト

『彼女のいない部屋』

『彼女のいない部屋』

© 2021-LES FILMS DU POISSON-GAUMONT-ARTE FRANCE CINEMA-LUPA FILM

ピースをつなげていく脳内スリルと、ある予感が導く真実

フランス公開時も詳細が伏せられた、その方針を踏襲しよう。明かせるのは「家出をした女性の物語」まで。なぜ彼女は出ていったのか。一体どこへ!? 彼女の言動に振り回されながら、想像が膨らみ、予感に震え、やがて真実へたどり着く。非常に知的な謎解きパズルが衝撃と感動へとなだれ込む。すでに『さすらいの女神たち』などで監督としても高く評価されている、名優マチュー・アマルリックの監督作。

・8月26日よりBunkamuraル・シネマほかにて公開
公式サイト

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


取材・原文/折田千鶴子


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