岡崎裕子さん
〈 陶芸家 〉
今回お話を聞いたのは、女性陶芸家として活躍する岡崎裕子さん。陶芸を志した頃のこと、育児と仕事を両立する今、普段の器使いについて。また、約5年前に乳がんに罹患して実感したこと──。強い意志としなやかさを併せ持つ岡崎さんの生き方と、豊かな暮らしぶりに迫りました。
生活の中で“スイッチ”になるものを作りたい。器やお膳で、食事の時間へのよい切り替えを──岡崎裕子
● 岡崎裕子 Yuko Okazaki
1976年、東京都生まれ。1997年に株式会社イッセイ ミヤケに入社し、広報部に勤務。3年後に退職し、茨城県笠間市の陶芸家・森田榮一さんに弟子入り。修行の後、茨城県窯業指導所(現茨城県立笠間陶芸大学校)釉薬科/石膏科修了。32歳で初個展を開催し、その後も各地で個展を行う。10歳、7歳の2女の母。
Instagram:yukopottery
公式サイト:yukookazaki.com
岡崎裕子さんの
普段使いしやすく食卓が締まる、美しい木目の板膳
奈良の雑貨店「くるみの木」オリジナルの板膳。「吉野杉の美しい木目を生かしたすっきりとしたデザインは、毎日の食卓はもちろん、ハレの日にもさりげなく使えるから重宝。子どもたちも食べる量が増えてきて使う器が大きくなってきているので、縁がなく器がお膳をはみ出しても置けるのもいいんです。器は私の作品で、とんぼがモチーフのものとドットの平皿、どちらも過去の個展時に制作したもの」/すべて本人私物(器の問い合わせはhttp://yukookazaki.com/へ)
陶器、磁器、漆…と素材違いの器を合わせるとしっくりくる
女性陶芸家として活躍し、大きなとんぼがモチーフの器など、唯一無二の作品を生み出し続ける岡崎裕子さん。作陶はもちろん、自身が毎日使う器や食まわりのアイテム選びにもこだわりが。「くるみの木」の吉野杉の板膳は、食事のときに欠かせないと言います。
「たまたまお店に立ち寄ったときに見つけて一目惚れし、すぐに家族4人分をオーダー。ちょうど4年前、夫の通勤と子どもの通学のため、工房のある横須賀と横浜の自宅とのデュアルライフが始まる頃で。それまでは漆のお膳を使っていたのですが、新しい家ではもう少しカジュアルな雰囲気のものをと思い選びました。
ダイニングテーブルにはいろいろな用途があって、子どもたちが宿題をして消しゴムのカスだらけ、なんてことも(笑)。テーブルをきれいにふいてお膳を敷くだけで食事の時間への切り替えになるので、生活の中のスイッチとして大切にしています」
10歳、7歳の2女の母である岡崎さん。子どもがいるとつい割れにくい食器を選んだりと、選択肢が狭まりがち。小さな子どもと一緒の食事でも、素敵な器を取り入れるコツはありますか?
「わが家は陶器市などで子どもたちと一緒に選んでいます。自分で選ぶと愛着が湧いて、丁寧に使ってくれます。陶器市はかご売りでお手頃価格のものも多く、私が修行をしていた笠間の陶器市は公園でやっているから、家族で行きやすいのがいいですね。
また、器っていろいろな素材があるので、組み合わせるときは思いきってひとつひとつ素材を変えるのもおすすめ。漆の汁椀、ガラスの小鉢、陶器、磁器のお皿と素材が変われば、テイストの違いがきわだたず、まとまりやすい気がします。ファッションは皆さん若い頃からいろいろな服装にチャレンジしていると思うのですが、器も同じで、合わせてみて失敗しての繰り返しでいい。好きなものを合わせていると、だんだんと自分らしい器選びができるようになるのだと思います」
今は子どもとの時間を大切に。乳がんになって優先順位が明確に
23歳のときにファッションブランドの広報から陶芸家の道へ。髪の毛を切って坊主にして(!)弟子入りをしたそうで、そこには並々ならぬ思いが。
「ずっと物作りがしたかったのですが、家族との折り合いがつかず美大に入ることは叶わなくて。遅ればせながらの親への反抗心と、自分で創りたいという思いが止められず突き進みましたね。
4年半の修行期間は、ほぼ作業着で過ごす質素な生活でしたが、自分で人生をハンドルできているうれしさがありました。また、このときに師匠のアトリエに飛んでいたハグロトンボが印象的で、とんぼがモチーフの器作りのきっかけに。
その後、結婚、出産を経て、妊娠中は自分が器になったような神秘的な感覚で、器の内側ばかりに装飾を施した時期もありました。ここ数年は個展の回数も減らして、育児と両立ができる範囲で作品作りができるようにしています」
岡崎さんは約5年前、乳がんに罹患。病を経験したことで、無理をしない働き方をより意識するようになったそう。
「乳がんになったとわかったとき、子どもたちは5歳と2歳。真っ先に思ったのは『子育てどうしよう』ということでした。もしかしたら自分の命が思っていたよりも短いかもしれないという現実を前に、注力したいと思ったのが仕事よりも子育てだった。仕事ももちろん大切ですが、特に今のうちは子どもと過ごす時間を最優先に、できる範囲でやっていきたいと思っています。
現在は治療は終わっていて、体調もいいです。最近は、ずっとお休みしていたサーフィンを再開。解放感があって、気持ちも体も外向きになるので気持ちよくて。波を見極めるのがとても難しいのですが、うまく乗れたときの喜びはたまりません! 子どもたちのサイズのウェットスーツも用意していて、一緒に海に入ることも。
横須賀の家の周りは自然がいっぱいの環境なので、裏山を散歩したり、一緒に家庭菜園で畑仕事をしたりと、家族で楽しんでいます」
「教えて! 笑顔の素」記事一覧撮影/須藤敬一 取材・原文/野々山 幸(TAPE)
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