アトリエで独占インタビュー!
展示会レポートでもご紹介しましたが、2022年2月にフラワースタイリスト平井かずみさんが新しいアトリエ『皓 SIROI』(しろい)をオープンしました。
オープンに先立って、お披露目として花展「はじまりのとき」を開催。安藤雅信さんやコウ静子さんらを招いての花茶会も開催し、たくさんのファンやお客さん、友人らが来場しました。大盛況で花展を終えた平井さんに、アトリエをオープンしたきっかけ、この場所への思い、アトリエの今後について、あらためてお話を聞きました。
『アンティークス・タミゼ』の跡地を譲り受けた、新しい拠点
平井さんがアトリエを持つことを考え始めたのは、1年ほど前。吉祥寺にある『ギャラリーフェブ』で、お花の教室を行っている時でした。2021年『ギャラリーフェブ』はコロナ禍のため展示を中止、場所を空けておくのはもったいないと、ギャラリーのオーナー引田かおりさんからの誘いで、お花の教室場所として借りていました。そんな時、恵比寿の『アンティークス・タミゼ』が跡地を借りてくれる人を探していることを引田さんから聞きます。
「3月くらいにお話をいただいて。引田さんが『早く名乗りあげなさい!』とおしゃってくれて(笑)。ちょうど『ギャラリーフェブ』を借りていましたが1年間限定なので、どこか借りなくては、でも焦って借りるのは嫌だなと思っていた矢先でした。私にとって『アンティークス・タミゼ』は、麻布十番でお店を始められた頃から通っていた尊敬するお店。オーナーの吉田昌太郎さんの奥さま、フードスタイリストの高橋みどりさんともフェブのイベントで顔を合わせていたので面識もありました。すぐに名乗りあげて、見事一番手でお話を聞くことができました」
話を聞きにいくと、オーナーの吉田さんがお店を作る時に床をショベルカーで掘り下げている写真や資料を全部見せてくれ、この場所に骨を埋めようと思って作ったことなどを話してくれました。「明るく気持ちのいい空間だから、植物関係のお店なら理想的。日の差し方、空間を活かしてくれるはず」という言葉にも後押しされ、タミゼの跡地に新たな拠点を作ることを決めました。
「とはいえ、広さもあるので、月5日間しかない教室だけのために借りるのはもったいない。何かこの場所が喜ぶようなことをしたいと思いました。以前に『私のウェルネスを探して』でも取材していただきましたが、コロナが出てきて『seed』という活動を始めて、『seed』をしていく拠点にもなるような場所にできたらいいなと思って。
『seed』の取り組みは、人がもともと生まれ持っている命の根源や本質を輝かせるためには直感で生きることが大切。直感で生きるために、五感を磨かないと直感を働かない。その感性の森を育むためには、植物たちがたくさんの力を貸してくれる、そんなメッセージを込めて『seed』を始めました。それと同じようにこの場所に関わってくれる人が、自分自身の本質を輝やかせてくれるような、そんな発信がしていける場所にしたいと思いました」
オープニングの花展では、初めての“自分のための花生け”に挑戦。本質を伝える
『アンティークス・タミゼ』の最終営業日に立ち会ってから半月後、平井さんは再びお店を訪れました。そこは、真っ新の白い箱。タミゼの雰囲気やオーナーの吉田さんの気配が一切なく、画鋲の穴一つまできれいに埋めてあり、去り際の良さに驚いたと言います。そこで感じたインスピレーションが、アトリエの名前にもつながります。
「吉田さんから言われていたのは、平井さんにこの場所を譲るんだから好きに使ってほしい。このままを維持したいわけではないから、と。鍵をもらい再び 訪れた時、お二人の気配が一切なくなった場所を見て、ここは“白い箱”、“白くひかり輝く箱”だと思ったんです。
アトリエの名前は、その印象をもとに、デザイナーらと相談して決めました。“白”“ひかり輝く”というキーワードで検索をしたら、“皓 ”という漢字が出てきて。この漢字は、『皓皓 (こうこう)と輝く』の皓 という字なのですが、それ一文字で『白く光り輝く』という意味があって、しろい、ひかる、かがやく、きよいという意味もある。まさに私がこの場所から感じたインスピレーションを、そのまま漢字にしているなと思って。この一文字で“しろい”と読むことにしました」
アルファベットで書くと「SHIROI」ですが、デザイナーの提案で「H」を取って「SIROI」と表記。
「Hって、平井のHでもあるんですけど、それが消えたことで落ち着いたというか。ここは私がゼロから作り上げた場所ではなく譲り受けた場所。平井かずみというより、場所として盛り上げていきたいと思ったんです。結果、要素がしっかり見えるようになったと思います」
ギャラリーでもショップでもない、「みんながもっと生きやすく、本質を輝かせる場所」。そんな思いから、『皓 SIROI 』は始まりました。アトリエのオープニングを飾った花展「はじまりとき」は2/4(金)〜2/6(日)、2/11(金)〜2/13(日)の前後に分けて行われました。安藤雅信さんには、花展のための器の製作、さらには空間インスタレーションも担当いただきました。同時開催されていた花茶会では、平井さんがライブで花生けを行い、安藤雅信さん、コウ静子さんらがお茶でもてなしました。
今回平井さんが初めての取り組みとして行ったのが、自分のための花生けでした。これまで器の展示会では器を美しく見せるための花生け、雑誌で提案する時は読者が生けやすいように、教室で教えるときは生徒の手引きになるように。誰かのために花生けをするのことがほとんどでした。
「まずは自分の本質をみなさんにお見せすることから始めないと、と思いました。植物と接すると、言葉では伝えきれない領域があることをこの数年で気付かされました。コロナになって時間に余裕が持てるようになり、言葉にできない領域を自分の花生けを通じて伝えていくことが大切なんだと思えるようになって。
正直、花展を迎えるまでは、心配でお腹が痛くてよく眠れませんでした(笑)。自分自身を掘り起こすことって、ありますか? なかなかできないし、普段しないことですからね」
多様な美しさを感じ取れる心を持って欲しい。表現者としての覚悟も
前半の展示は、立春の天気にいい日に生けたため、椿とレンギョウを使い、春らしいキラキラした印象に。後半は、雪が降っている日に生けたため、白梅を生けました。
「白梅は香りを嗅ぐ花。香りで存在を感じ取る花で、『雪の中で姿が見えなくても、香りで感じてほしい』というメッセージを込めました。
椿の緑の葉は手前に、寒さで赤く焼けた葉は後ろに生ける。これは陽と陰だなと。そういったことを説明しながら気づくんです。世界は美しいものが存在している訳ではなく、何かを見て、美しいと思える心を持っているから存在する。人が美しいものを決めるんですね。美しいものは、人の心が生み出しているから、赤く焼けた葉も美しいと思える心があれば、それは美しいんですよ。
赤く焼けるというのは、冬の時期にしか見られないギフト。それを美しいと思える心を持ってほしい。世界って、きれいなことだけが美しいわけではなく、相反するものが折り重なって、螺旋のように形成されています。きれい一辺倒じゃ面白くないじゃないですか。いろんな要素の中で、いろいろな世界の中で生きているから。そんな中で花生けを投影したいと思って」
6日間の展示を通じて、気付かされたこと。それは人に話しながら、説明しながら新たに見えること、気づくことがあると言うことでした。自由に見て・感じてでは、伝わらない要因になることを再確認したと言います。
「言葉にできない領域を花で見てもらうつもりでしたが、やっぱり色々説明するんですよね(笑)。感覚で花生けをしているので、言語化しないと人には説明できない。言葉だけでは足りないし、形にするだけでも足りない。これから表現者として伝えていくことの覚悟ができたと思います」
期間中には、平井さんが参加者の目の前で花生けを行い、その後にお茶をいただく「花茶会」も行われました。花生けのテーマは、アトリエの名前にちなんで「しろい」。大きな木蓮を最初に生け、参加者が席に着いたら、蕾の木蓮と、開花した木蓮を入れたお茶碗を、それぞれ各席に回し、蕾と花の香りを嗅ぎ分けを行います。
お茶は、1日目は安藤雅信さんが中国茶とハーブティー、菓子屋ここのつさんが参加。2日目にはコウ静子さんが韓国茶とお菓子でもてなします。最後に、安藤雅信さんの一輪挿しに一輪の花を生けるデモンストレーションを行いました。
「花茶会は、五感を研ぎ澄ましてもらえるようなことがしたいと思って企画しました。最後に、安藤さんのフタ付きの箱に宝箱を作りました。日本では箱を大事にする文化があり、宝箱に見立てていたのだそうです。
宝箱の中には、早春らしいスイセンやロウバイ、レンギョウなどを入れて。コウさんとも、ずっとやりたいねと話していたことを、今回念願かなってやっとできました。今後も花茶会はやりたいと思っています」
今後もさまざまな展示を開催。「まずは1年観察したい。実験のような気持ち」
4月には帽子chisakiの展示会が行われ、今後も5月に「私の『花と器』展」、6月には木工作家の小山剛さん、9月には平澤まりこさんの版画、11月にはINDUBITABLYの展示会を予定しています。
「『私の『花と器』展』、小山剛くん、まりこさんの展示は3部作でつながりを持たせたいと思っています。タイトルは“宿るものたち”。花は身近な素材としてあって、木工は切った木を新たな形に甦らせる、まりこさんのはゼロから作り上げる。身近な素材から加工している木など、アプローチの異なるものの変化を楽しんで欲しいと思っています」
アトリエ『皓 SIROI』(しろい)は、昨年はじめた「seed」の拠点、花の教室「木曜会」、平井かずみの活動と、3つの軸に進めていくそう。花の教室「木曜会」は、コロナ禍でもあるため、単発での参加も受付中です。
「木曜会は、木曜にやる会ではないんです。曜日の中で、木曜にだけ植物が登場するんですよね。『seed』の立ち上げの時に『seeds of life』というタブロイドを作ったんですけど(詳細はウェルネス連載参照)、タイトルを考えていた時に、森岡書店の森岡さんが“木曜って言うのはどうですか?”と提案してくれて。
その日、森岡さんが公園に犬の散歩に行った時に、木々の葉の間から光が降り注いでいて、とても穏やかな気持ちになったそう。“平井さんが伝えていることって、植物を通して、みんなをこんな気持ちにさせることですよね”と言われて。なんて素敵なんだろう! と思って。
木は何千年も生きて、地球を守ってきた。自分自身も大地に根を張って、力強く、自分自身の足で個が立つように生きていく。そのために木だな、と思って。木曜って、木が光輝く日と書くんですよ。それが木曜会です」
なお、「chisaki × seed」のブンタール ハット第2弾、ブレードハットは、5月18日に販売の追加募集が行われるとのこと(詳しくはこちら)。これからの活動からも目が離せません。
「こんな時代ですから一気に決めないで、まずは1年ここにいて、どんな人たちがこの場所に来るのか観察しようと思います。何でも実験だと思っていて、実際にやってみないと分からないんですよね。花展での花生けについても“今を生けたい”と思いから始まったことでした。今できること、今ときめくことを、全力投球でやりたいんです。出し惜しみゼロで(笑)。
そうしないとすぐに忘れちゃうんですよね。でも、全てのことが自分の中でつながっていて、いいタイミングで物事がつながっていると思うんです。花展では、来てくださる方、一緒に働いてくれたスタッフ、友人と、本当に感謝の毎日でした。
次のイベントは 5/21〜28まで「宿るものたち」と題した花と器の展示を開催予定。 器は13組の作家や、アンティークショップなどが参加。暮らしに花を生ける喜びを、器をみたて花を生ける楽しみをお伝えできたら嬉しいと思っています。 また、この展示からはじまり、6月には木工作家の小山剛さん、 9月には版画家でイラストレータの平澤まりこさんへと続く 同じテーマをもったそれぞれの展示を開催する三部作となるものとなっていきます。 これからの『皓 SIROI 』の取り組みも、どうぞ楽しみにしていてください」
皓 SIROI
東京都渋谷区恵比寿3-22-1
●こちらの記事もぜひ合わせてお読みください
「平井かずみ」公式ウェブサイト 「皓 SIROI」公式Instagram 「seed<br /> 」公式ウェブサイトフラワースタイリスト平井かずみさんの新しいアトリエ「皓 shiroi」に行ってきました!【2022年2月11~13日はイベント開催・東京恵比寿】
撮影/宮濱裕美子 取材・文/武田由紀子
LIFEの新着記事
この記事へのコメント( 0 )
※ コメントにはメンバー登録が必要です。