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CULTURE NAVI「CINEMA」

映画『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』愛し合う2人の老女が、体や言葉が不自由になっても突き進む愛物語、他2作品

2022.04.09

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Cinema Culture Navi

『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』

『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』

©PAPRIKA FILMS/TARANTULA/ARTÉMIS PRODUCTIONS-2019

新鮮でみずみずしい大人たちのラブパワーに快哉!

予期せず、雷に打たれたような感動に貫かれる。老齢の女性2人が主人公だが、なんとも新鮮かつみずみずしい。親・子世代双方の気持ちがわかる30代・40代には、たまらなく自分事に近い物語でもある。

南仏モンペリエを見渡すアパルトマンの最上階、一人暮らしのニナとマドレーヌは、向かい合う互いの部屋を行き来する隣人同士。夫を亡くし、子どもたちも独立したマドレーヌは、アパルトマンを売りに出し、そのお金でニナと思い出の地ローマで暮らす計画を立てている。そう、実は2人は長年、ひそかに愛し合ってきた恋人同士。だがマドレーヌは、子どもたちにその計画を言い出せない。そんな煮え切らなさに腹を立てたニナは、つい捨てゼリフを吐いてしまう。だがその日、マドレーヌが脳卒中で倒れる。

数日後、介護人と娘に付き添われて帰って来たマドレーヌは、麻痺が残り口もきけない。彼女の好みや求めることがわかっても、介護人や家族の手前、ニナは手を出すことも、近づくことすらなかなか叶わない。業を煮やしたニナが隙を見て部屋に入り込んだことから、2人の関係に気付いた娘は、ニナを完全に拒絶し始める。

互いに心から求め合う恋人同士が、いわれなく引き裂かれる悲劇に、胸がおし潰される! DVを受け、母の結婚は幸せでなかったと知りながら、“でも両親は愛し合っていた”幻想を手放せない子どもたち。そんな彼らを唾棄したくもなるが、子どもとしてはわからないでもない。子どもの頃の幸せを否定される恐怖か、母が父を裏切っていた衝撃か、母が同性愛者と認めたくないのか、あるいは母の不幸への罪悪感か、はたまた相続問題も絡むのか。介護施設に入ったマドレーヌが、体や言葉の不自由を押してニナに連絡しようとする終盤の展開が、なんとも痛快だ。

好きな人と好きなように暮らす。人生、そんなささやかな願いは叶えられてしかるべきだ。本人の幸せや意志を尊重できる人間に、と自戒を込めつつ、2人の愛の力に快哉を叫びたくなる。

・4月8日よりシネスイッチ銀座ほかにて公開
公式サイト

『カモン カモン』

『カモン カモン』

©2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

『20センチュリー・ウーマン』のマイク・ミルズによる感動作

NYで独身生活を送るジャーナリストのジョニー(ホアキン・フェニックス)は、LAに住む妹に頼まれ、9歳の甥っ子を数日預かることに。

好奇心旺盛な甥っ子の質問攻撃に戸惑い、時にイライラし、互いにぶつかり合いながら、理解と絆を深めていく姿とその時間が、たまらなく愛しくなっていく親密なヒューマンドラマ。人間誰しもそうそう大人になれていない事実に、ついニンマリ。モノクロームの映像の手触りも、心の琴線に触れる。

・4月22日より全国公開
公式サイト

『ハッチング-孵化-』

『ハッチング-孵化-』

©2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst

フィンランド発・無垢な少女の成長と葛藤を描いたホラー

12歳のティンヤは洗練された素敵な家で、美しい母と建築家の父と弟と暮らしている。母を喜ばせたい一心で、厳しい体操の練習にも耐え続ける。だがある日、室内を荒らした迷子のカラスを母が絞殺。ティンヤは森でカラスの卵を見つけ、ひそかに温め始める。

一見理想的な家族のいびつさ、愛と憎悪、少女の不満や自我が、卵と一緒に膨れていく。不気味と神聖さが混じり合い、怖くて目が離せない!

・4月15日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
公式サイト

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


取材・原文/折田千鶴子


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