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46歳で大学院進学、50歳でコロンビア大学に子連れ留学。ドキュメンタリー映画監督・海南友子さんの目標達成の秘訣は「自分の限界を決めない」「5年後の目標を書く」

  • LEE編集部

2022.02.03

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海南友子さん

引き続き、ドキュメンタリー映画監督の海南友子さんのインタビューをお届けします。NHK退社後独立し、ドキュメンタリー映画監督として活動している最中、2011年に東日本大震災が起こります。その後、東京電力福島第一原発の事故現場近くに取材に行っていた海南さんに妊娠が発覚します。後半では、複雑な思いを胸に決意した京都への移住、子育て、大学院での新たな学びとアメリカ留学について話を聞きます。(この記事は全2回の2回目です。前編を読む)

震災後の原発周辺を取材、直後に判明した妊娠

海南さんが福島第一原発の取材をしようとしたきっかけは、福島第一原発の稼働日が1971年3月26日で海南さんの誕生日と同じだったからでした。「私は東京で40年近く生きていたけれど、それは福島からの発電のおかげだったんだと初めて気づいて。何かしなければ」と、原発から6km圏内まで接近し、避難している方々に取材をしました。その直後に妊娠が発覚、赤ちゃんを待ち望んでいたはずが「なんて危険な状況に赤ちゃんを置いてしまったのか。胎内で被爆させてしまったのではないか。母として間違った選択をしてしまった」と悔やみます。

「私は排卵障害があり、10代から生理が年に1、2回しか来ないこともあって妊娠は諦めていたんです。こんなタイミングではあったけど子どもがお腹に来てくれた。当時は東京の水道水からも放射能が検出されていて、これ以上子どもを被曝させないためにはどうしたらいいのか。悩んで、関西に事務所ごと引っ越そうと決めました」

HUGビジュアル

海南さん自らの出産と、3.11を巡る監督作『抱くHUG』のポスター

2011年6月事務所ごと拠点を京都に移し40歳で出産、子育てを始めます。念願だった子どもを授かり、幸せを実感する一方で、仕事を100%ですることができない現実を受け止めるのに時間がかかったと言います。

「高齢出産は大変でしたが、それ以上に乳児の子育てが大変でした。それまでは行きたい場所へ取材に行き、明け方まで本を読んだり、編集を考えたりという仕事のペースだったので、子どもができてからはじっくり物事を考えることができず頭と心が全停止になりました。子どもと過ごす時間はもちろん素晴らしいんだけど、自分の時間をどう作っていけばいいか。2、3年は悩んでいたと思います。仕事は続けていましたが、立ち止まっている感じがして、ずっと苦しさがありました」

子育て中も時間はある。新たな学びを求め大学院へ

子育てが忙しい、でも子どもがお昼寝している間とか、細切れだけど時間はある。この時間に何かできないかと考えました。たまたま同志社大学のパンフレットを見ると、学費が50〜60万ほどでした。「大学院に50万はいいかもしれない」と思い始めます。

「映像は主に感情を伝えるメディアですが、制度や政策におよぶ内容を伝えにくい。これまではそこを伝えられないフラストレーションがありました。せっかくならそこを大学院で学びたいという気持ちになりました。はじめは思い付きでしたが1年以上をかけて受験勉強に励みました。TOEFLの試験を10年ぶりくらいに受けたりして、2年後に同志社大学大学院に入りました」

海南友子さん

46歳で大学院に入学、若い院生に囲まれながら学生生活をスタートします。子育て、仕事、院での学び。充実した日々を過ごしていましたが、夜中にテレビドラマを見ていた時、ふと残りの人生は半分と少ししかないと気づき、死の影がはっきり見えてきたと言います。「残りの人生でやり残したことって何だろう」と考え、思いついたのが留学でした。

「学生時代から海外にはよく行っていたのですが、留学はしたことがありませんでした。40代でも留学ってできる? 子連れで行ける大人向けの奨学金はある? と大学に行きながら探し始めたのが2017年ごろです。ある時、京都の家の近くに『松之助』というケーキ屋があり、そのオーナーの平野顕子さんが40代で離婚し、47歳でニューヨークへ留学したと知りました。大人でも海外留学できるんだ!と、私も留学に挑戦してみようと思いました」

50歳でも海外留学出来る!一家でNY留学生活へ

たどり着いたのがフルブライト奨学金制度でした。フルブライトは1945年から始まったアメリカで最も由緒ある奨学金で日本を含む160以上の国から約40万人が活用してきました。年齢制限無し、大学院やジャーナリストなど5種類のプログラムがあります。

「私なんかにできるだろうか、英語の能力はついていけるのだろうかと悩んで、最初2年は自信がなく応募できませんでした。でも、チャレンジしないのが一番もったいない!と2019年5月に願書を提出しました。結果が来たが2019年11月末。信じられないことに合格していて! 2020年に行くはずだったのがコロナで延期になり、2022年1月になりました。めでたく50歳での留学です」

海南友子さん
留学には夫と10歳の息子も同行、家族で7カ月間のニューヨーク生活が始まります。同業の夫との出会いは古く、海南さんのやりたいことをいつも受け止め、撮影現場にも立ち会ってきた仕事のパートナーでもあります。

「『ビューティフルアイランズ』を撮っていた時、ベネチアの街が高潮によって水没するシーンを撮影したいのだけれど、いつやってくるかわからず困っていました。日本で機会を待っていると、明日高潮がくると情報が入ります。撮影するにはすぐに日本を出る必要がありました。躊躇している私に、当時一緒に仕事をしていた彼(今の夫)が「行けばいいじゃない」と。

昔から何か私が躊躇していると「やればいい」と言ってくれるような人です。包容力があって、パートナーとしてとても感謝しています。彼は編集マンなので自分から何かやりたいというよりも、サポートするのが上手です。パートナーを選ぶ時、どっちもバリバリやりたいとぶつかりあってしまうけど、私と彼はいいチーム。特に子育てが始まると役割分担も出てきますしね。今回の留学中は私はできれば学びに集中したいと伝えていて、目下家事の分担割合について交渉中です(笑)」



5年後の目標を書けば、今日やることが分かる

留学先はコロンビア大学、政治学者ジェラルド・カーティスの研究室で環境関連のテーマを研究予定です。10代から海外や日本の社会問題を追い続け、40代からは子育てに学びと、常に足を止めず進み続ける海南さん。そのバイタリティと好奇心の秘密は、幼少期から続けてきたあるルーティーンにあると言います。

「私、メモ魔なんです。高校に入る時、父親に自分の将来やりたいことリストを作るように言われてました。5年後、10年後にどうしたいか。大学でもそれを書いて、行きたい国・したいことを決めて色んな体験をしました。今でも年始に新調した手帳に、5年後の目標を書くんです。それを決めると、今日やることが分かると父に言われて。気になったことはすぐにメモして、どうしたらいいか考えます。今もメモに残された企画が同時にいくつも走っていますが、アイデアを見返しながら整理をして、これできそうかもと思ったり。もちろんやれていない企画もいっぱいあるんですけどね(笑)」

海南友子さん 手帳

海南友子さん 手帳

メモ魔を自称する海南さんの手帳。筆記用具にもこだわりあり

現在は、2020年にベネチア国際映画祭の企画部門に選出された脚本に取り組んでいる海南さん。日本とドイツが舞台の劇映画で、留学でブラッシュアップした語学力が活かせる映画にすべく意欲的です。

「自分で限界を決めないようにしています。特に、年を取ってからそう思うようになりました。実は、私の兄は45歳で朝起きたら急死していました。兄の死から普通に明日人生が終わってしまう人もいるんだ、身近な人もそうなるんだと思いました。疲れて怠けてしまうこともありますが、諦めるのはやめようと思って。明日人生が終わっても後悔しないように生きたいです」

コロナの影響で2年近い延期を経て留学生活スタート

2年の延期を経て先日渡米し、ニューヨークでの留学生活がスタートしました。届いた現地の写真からは、コロナ禍の緊張感溢れる様子も伝わってきますが、新たな学びへの期待を込めたメッセージが添えられていました。

ニューヨーク

ニューヨークで留学生活を始めた海南さんが編集部に送ってくれた写真(写真提供:海南友子さん)

「ついにニューヨークにやってきました! コロナによる渡航制限で2年近く延期になっていたので、最後の瞬間までたどり着けるか不安でした(笑)。いたるところにコロナ検査のテントやマスク着用の看板が。

20代から何度も訪れているニューヨークですが、ポストコロナの今、また新たな気持ちで子連れ留学を楽しみたいと思います!」(2021.1.27 ニューヨークより 海南友子)

海南友子さんに聞きました

身体のウェルネスのためにしていること

週に1度のアクアビクス

「京都って街中にプールが少ないんですけど、京都YMCAのプールは太陽が降り注いで、光の感じがすごく素敵なんですよね。少人数クラスで、その時間だけは何もかも忘れられます。自分のための何もしない大切な時間です。ニューヨークに行くことで一番悲しいのは、そのクラスに通えなくなることですね」

心のウェルネスのためにしていること

鴨川沿いの朝の散歩

鴨川

写真提供:海南友子さん

「週2、3回、夫婦で川沿いを歩くようになってから夫婦関係もとても良くなりました。子どもがいると夫婦は、子育てのプロジェクトの共同運営者みたいになってしまいますよね。だから散歩の時間だけは『サギ来たよ』とか『川がキレイだね』とか他愛のない話を楽しむようにしています。一緒に歩くという意味でも、50代60代をこんな風に生きていけたらいいなと感じる瞬間です」

海南友子さん

海南友子さん

 

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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