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CULTURE NAVI「今月の人」

【金原ひとみさんインタビュー】あらためて自分を理解するひとつのヒントに『ミーツ・ザ・ワールド』

2022.02.21

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カルチャーナビ : 今月の人・今月の情報

腐女子で現在婚活中。自分に自信がない主人公の由嘉里と、彼女が偶然同居することになったキャバ嬢のライ。二人を中心に、人との関係性や距離感を描いた金原さんの最新小説は、こんなきっかけで生まれたのだそう。

人との距離感がつかめないときに読んでほしい小説です
────金原ひとみさん

金原ひとみさん

「由嘉里は焼肉を擬人化した漫画やアニメ、二次創作のミュージカルを愛する若い女性。最近、私の周りでも腐女子やオタクが増えてきて。その活動を聞くうちに『いいなあ』と。推し活を楽しんで生きている女性を書きたいと思いました」

趣味に没頭する由嘉里と対照的なのが独自の死生観を持つライ。

「ライは『自分がこの世に存在しているのが解せない。自分は消えている方が自然だ』と感じている人物なんですね。そしてそれは、私がずっと抱えている感覚でもあって。ライの存在が嘘っぽくならないように、でもそこは突き詰めて書きたかった感情です」

ライ、そして彼女と同じように歌舞伎町の中で生きるホストのアサヒなど、二次元中心だった由嘉里の目の前に個性あふれる人物が登場します。しかしその関係性は“友達”“恋愛相手”など既存のくくりにはまらないのも魅力的。

「特に由嘉里とライの距離感は意識しました。母親との葛藤、職場ではマウンティングも経験する由嘉里ですが、ライみたいに踏み込みすぎない人が身近にいると、救われることってあると思うんです。一方、由嘉里とアサヒは性別だと女と男。だからといって安易に恋愛には落とし込まないように。今、私の中では、人との関係性を簡単に名づけたり、くくることへの違和感があります。人付き合いは向き・不向きも含めて多様でいいし、カテゴライズできるものではない。そして相手との唯一無二の距離を大事にしたいです」

それはプライベートでも意識していることですか?

「そうですね。私には子どもがいますが、自分なりに上下関係は最小限に。親子だから、夫婦だから、みたいな感覚も極力取っ払いたいと思ってます」

30代・40代は家庭や社会の中で役割を固定されたり、それゆえに人との距離感にも悩みやすい年代。そんな中、心地よく生きるにはどうしたらいいでしょうか。

「由嘉里の推し活じゃないですけれども、趣味を持ち『個』をきわだたせるだけでも変わりますよね。私は音楽が好きで、お気に入りの音に触れている時間は幸せです。それと“書く”のはやっぱり大切」

金原さん自身、人から悩み相談されたときは「文字にしたら?」とおすすめすることもあるとか。

「日記でも、小説の形でも、なんでもいいと思うんです。なぜ自分が怒りを感じているのか。悲しいのか。混乱の原因を徹底的に言語化し、突き詰めていけば、私の場合はそれだけでも心が落ち着きます。次に同じような悩みに陥ったときにも『あれと同じパターンだ』と対策を練ることもできますし」

金原さんにとって“書く”とは「生きるための快適な状況を作り続けていくもの」だと言います。

「由嘉里もそうでしたが、己を見失っていたり、人との距離感や立ち位置がわからなくなる瞬間って、誰でもあると思います。そんなときに、あらためて自分を理解するひとつのヒントとして、私の小説が誰かに寄り添ってくれたらうれしいですね。そして心地いい状況とは『自分をある程度知っている』ということなんじゃないかなと思っています」

Profile

かねはら・ひとみ●1983年東京都生まれ。2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞し、デビュー。’04年に同作で第130回芥川賞を受賞。その他にも’21年『アンソーシャル ディスタンス』で第57回谷崎潤一郎賞を受賞するなど、多数の作品が評価されている。

『ミーツ・ザ・ワールド』

『ミーツ・ザ・ワールド』

焼肉擬人化漫画を愛する由嘉里。推し活は楽しいものの、三次元に興味を持てない自分に焦りを覚えて、婚活を始めるも、結果はイマイチ。そんな中、彼女はライという女性と知り合う。「私はこの世から消えなきゃいけない」と、独特の死生観を口にするライと生活を共にすることになり、由嘉里の世界は少しずつ変わっていく――。(¥1650/集英社)

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撮影/露木聡子 取材・文/石井絵里

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