実は僕も『フランケンシュタイン』で“怪物”を演じる話があった
幾度もその素材を舞台化、映画化、アニメ漫画化されてきた、科学者・フランケンシュタインと、彼が生み出した怪物との物語。2022年新春、錦織一清演出、七海ひろき主演で、また新たなストーリーが誕生する——舞台「フランケンシュタイン-cry for the moon-」。
この日、実際対面するのは初めてという錦織さんと七海さんは、“演劇を愛する人”という最大の共通点を持って、あっという間に花咲くトーク!
先日お届けした演出家・錦織一清さんインタビューに続く、錦織さんらしいおふざけや楽しいウソにうろたえることなく、スッと笑顔で受け入れる七海さんを見て、相性抜群のお2人とお見受けした対談をノーカットでお届けします。
──錦織さんと七海さんは、今日この対談でお会いするのが初めてだとか。
錦織「そうなんですよね!」
七海「よろしくお願いします。あの…サングラスすごくお似合いで」
錦織「いやいや」
七海「そういうサングラスが似合う方ってなかなかいらっしゃらないと思います」
──七海さんは、宝塚歌劇団で男役スターとして活躍され、退団後は幅広く自由なご活躍をされていらっしゃいますが、そんな七海さんが錦織さん演出の新作舞台「フランケンシュタイン-cry for the moon-」では、若き科学者が作り上げた怪物役に。“フランケンシュタイン”という物語の素材は、錦織さんにとっては?
錦織「かなり昔なんだけど……確か、30歳ぐらいだったかな。あるプロデューサーに“フランケンシュタイン、やってみない?”って言われたことがありましたね」
七海「そうだったんですね」
錦織「今回七海さんが演じるモンスターのほうを演じてみないかと。その企画は結局ポシャっちゃったんだけどね。話を聞いたときはやってみたいとは思ったから。そのとき叶わなかった夢が、今、演出家という形で携わって叶えることができた、ってことですよね。こういう巡り合わせもあるんだなと」
──フランケンシュタインが生み出した怪物に、どのようなイメージが?
錦織「僕も含めて、まず思い浮かぶイメージは、マンガ『怪物くん』に出てくるフランケンのような、頭にボルトが刺さった大男だと、多くの人が思ってきちゃったよね」
七海「私もそうでした。怪物の名前がフランケンシュタインだと、ずっと勘違いしていました。今回の舞台「フランケンシュタイン――」で、違うよと(笑)」
錦織「まずはそこを払拭したいですよね」
──すでに、先行でアップされている七海さんの美しい怪物に惹きこまれております。
七海「ビジュアル撮影、楽しかったです。スタッフの方々がすごく凝って作り上げてくださって。どう作ってどう見せるか、ヘアメイクさん、衣裳さんと考え、話し合いながら、美しさと切なさを出せたらと」
── 切なく儚く美しい印象を受けました。
錦織「いいよね。怪物なんだけど、美しい…そういう描き方のほうが。五体満足の人間でも実は心が病んでいたり荒んでいたり。七海さんが演じるモンスターを通して、本当の美しさとは何か? 七海さんのモンスターを、心情から斬り込んで描くことで、その美しさがより際立つよう…そういうつもりで作ろうと思います」
人の決めつけでモンスターを生み出すのは普遍(錦織)
──小説、映画、アニメーションでも、怪物、妖怪、ヴァンパイアなどに美とロマンを持たせて描く作品は人気がありますよね。
錦織「最近でいうと、『鬼滅の刃』もそうだよね。僕はまだ見たことも読んだこともないんだけどね(笑)」
──生まれの歪み、どうしようもない運命というのは物語的に魅力ありますよね。
錦織「そうなんだよね。皮肉だよね。モンスターも人間の世界に生み出してくれとも思ってないし、“生まれたくて生まれたわけじゃない”なんて台詞もよく聞きますけど、人間も同じなんだよね。そんな皮肉が僕には面白くて。僕は坊ちゃん劇場で、『鬼の鎮魂歌』というお芝居を作ってきてね」
七海「はい、存じてます」
錦織「桃太郎を鬼側から見た話で、『鬼の鎮魂歌』で描く鬼は実は渡来人でね。岡山、吉備の国にいた人間が渡来人…つまり異国の人を鬼って呼ぶんだよね。おまえは鬼だ、いや鬼じゃないって、吉備の人間と渡来人のやりとりのなかで、吉備の人が、“じゃあ、なんで鬼と呼ばれてるんだ”って訊ねると、渡来人は“俺にもわからないよ。おまえたちが勝手に呼んでるんじゃないか”って返すのが僕が好きでね。なんていうのかな、映画『グリーンマイル』の死刑囚ジョン・コーフィも、それだよね」
七海「ああ、確かに」
錦織「この図は普遍的にあるものなんだと思う」
──七海さんは、この図、この世界観についてはどう思われますか?
七海「今回の脚本を読んで、すごく好きな世界観だと思いました。人というのは、生まれた瞬間は本当に純粋で、成長しながら人と出会い、経験をして形成されていきますけど、怪物も誕生したときは赤ちゃんと同じで。人と出会い触れ合っていくことで、愛にも触れ、“愛って何だろう?”って疑問も湧く。人間と同じように成長していく怪物と、出会う人との人間模様から、皆さんに何か感じていただければと思いますね」
錦織「モンスターが学習していくスピード感とか面白いよね」
七海「吸収がすごいですよね」
錦織「その成長のスピード感がね、七海さんで想像すると、映画『フィフス・エレメント』のミラ・ジョヴォヴィッチの成長が過ったのよ。今回のモンスターは、ああいうことでもいいと思うの。七海さんはミラ・ジョヴォヴィッチがやった役、他にも似合いそうですよね。例えば、ジャンヌダルクとか」
七海「素敵ですね。そう思っていただけて光栄です」
錦織「自分の頭の中で思い描いていたことが、今日初めて実際にお会いして、“いけるな!”って思えましたよ。脚本からイメージ湧かせていたものとピッタリ合った気がします。今回の本はいい意味でライトでカジュアルで。暗闇にコウモリの羽音がして、ヌッと出てくるモンスターってイメージはなかったんだよね」
七海「本当にカジュアルな雰囲気がありますよね。ずっと薄暗い重苦しい世界ではないですよね。古典過ぎず、今どきっぽさもあって。お客様は観やすいだろうなって思いました」
演出家というのは、まず最初のお客さんでなければならない(錦織)
──錦織さんの演出作品は、ダイレクトに伝わってくる印象が強く、わざわざ捏ね繰り回して難しくしている印象はないです。
錦織「難しく作ったら、僕がわからなくなっちゃうもん(笑)。僕は、ジャニー喜多川という演出家…って言っていいのかな? ジャニーさんの教えで、“演出家というのは、まず最初のお客さんでなければならない”と。演出家がお客さんの目線になって作らなければならないと。その教え通り、演出する僕がわかるかわからないか。それが基準になってるんでね。今回もたぶん、優しいお話にはなるんじゃないかと思っています」
──宝塚時代から七海さんの出演作は多く拝見してきましたが、個人的に、七海さんのお芝居がとても好きでした。とても人間味があるいい声で、ハートとぬくもりを感じるお芝居だと思っておりました。
七海「ありがとうございます! こうして錦織さんのお話を伺っていて、今回、怪物を演じることがより楽しみになっています。お芝居には難解なものもわかりやすいものもいろいろありますけど、エンターテイメントってまずは多くの人に伝わるものがいいなって思っています。
作品や役者に対してノー知識で観ても“楽しかった”“面白かった”と帰っていただけるのが理想で。作品について考察が生まれて、ああだったこうだったと語り合える作品ももちろん素敵な作品ですが、脚本を読んで、錦織さんのお話を伺って、今回の舞台「フランケンシュタイン――」もメッセージをわかりやすく伝えていけるものにできたらいいなと、すごく思いました」
文字に囚われず、感情で芝居を。心の動きを演じたい(七海)
──七海さんから、錦織さんに聞いてみたいことはありますか?
七海「まだそんなに、宝塚以外の舞台に立った経験がないのですが、錦織さんが、“これだけはいただけないぜ”というのは……」
錦織「ああ、“いただけないぜ”ね」
七海「役者の心構えとして、そういうのはちょっとどうなんだ、というのはありますか?」
錦織「なるほど。そうだね…若い子なんか、なかなか脚本から離れられない子がいるんだよね。それって、脚本に苛まれてしまうんだよね。最初は大事だよ、けど、ある程度の段階まで来たら脚本は捨てちゃえばいいのに、って思う。どうしても覚えにくい、言いにくい台詞は変えてあげるのに、って思うよ」
七海「……優しい。なんてお優しい」
錦織「けど、みんな僕に台詞変えられちゃわないように必死にやってますけどね(笑)」
七海「確かに、文字に囚われているとなかなか気持ちが入っていかなくて。稽古では脚本から離れて、できるだけ早く心の動きにいきたいなって思います」
錦織「あとね、役作りかな。僕は役作りっていうのがイヤだと思うほうなんです。僕はね、怪物を演じていても七海さんが七海さんに見えたほうがいいと思う」
──役者さんの持ってるものを役で殺さず、作品に活かしたい?
錦織「そう、それはつかこうへいさんに教わりました。つかさんに言われましたよ。“おまえは人に優しくするときにどういうふうに言ってるんだよ? おまえの台詞は優しくないんだよ。おまえが優しくないんだな!”って、芝居じゃなくて、人間否定されましたよ(笑)。
芝居っていうのは、自分を出すほうが難しいんですよ。自分を見せたくない人が芝居の世界に行きがちなの。自分でいる時間を少しでも減らしたい人間が芝居をやるの。他の人間になれば感情を動かせたような気になる。けど、それも自分だったりするんだよね。芝居すると、自分はこういう人間だってわかっちゃうもんなの」
七海「深いですね」
錦織「実は大きい声が出ない人間だってバレちゃったりするの(笑)。そんな自分に気付いちゃったりするの」
七海「そうですよね。私も、自分の気持ちを膨らませて役を作っていく作り方をするので。今、錦織さんのおっしゃったことにハッとなりました。そうだな、って! 泣く怒るバランスも、自分の場合はこうだけど、役柄はこうだから、そのふり幅を調整しようと」
もしかしたら、七海さんもモンスターかもしれない!?(錦織)
──今回は怪物役。あきらかに怪物ではない七海さんはどう自分を出す?
錦織「あきらかに怪物、ってところにイメージ持ちすぎなんだよね。だってわからないじゃない? 七海さん、モンスターかもしれないよ?」
七海「ハハハハ(笑)」
錦織「科学者はモンスターだとはわからないように作ってるんだよ。だから、それでいいんだよ。顔を継ぎはぎにしたりボルト刺したりっていうのはわかりやすくしてるだけで、そんなことする必要はないんだよ」
──七海さんは今回、座長を務められますが、意気込みは!?
七海「このような機会をいただけたことがまず、本当にありがたいことだなと思っています。舞台ってみんなで作っていくものなので出演者全員、スタッフさんも含めてすべてが輝いて、充実した時間を過ごしているんだろうなって思っていただける空気を、客席にお伝えできるカンパニーにしていけたらいいなと思います」
錦織「僕は、幸い座長もやって、何作も演出させてもらってますけど、ヤだなって思うよな人にほとんど出会ってこなかったね」
──そういういい空気を錦織さんが作ってこられた?
錦織「僕が作った気がないんだけどね。やっぱり皆さんのおかげなんですよ」
七海「今日こうして初めてお話した十数分で、錦織さんとご一緒にやっていたら、絶対にヘンな空気にはならないだろうな。そういう場作りをされる方なんだろうな、って、勝手に思っていました(笑)」
錦織「いやいや(笑)。僕みたいにならないように気を付けよう!って思っておくだけでいいですから。錦織みたいになるのはヤだなって思っていればまともにやれますから」
七海「いやいやいやいや(笑)」
──過去に何度か、錦織さんが演出されている稽古場に取材に伺ったことがあるのですが……優しいです。役者さんをリスペクトして、褒めて、ご自身がやってみせて。面白い演技で在れば、誰よりも錦織さんが大声で笑ってらっしゃいました。
錦織「いやだってね、いいもの見せてくれるから。僕がこんないいところで見させてもらっちゃっていいのかな、って思うからね」
七海「そう思っていただけるよう、頑張ります(笑)」
七海座長のカンパニーは大丈夫。一発でわかりましたよ(錦織)
──錦織さんから七海さんに聞きたいことは?
錦織「え~、だってさ。初めて会った人に住んでるところとか聞いちゃダメなんでしょ?」
七海「ぜんぜん大丈夫ですよ」
錦織「お国はどちらですか?」
七海「お国は~、フィンランドですね(笑)」
錦織「フィンランド!」
七海「……すみません、出身は茨城県です(笑)」
錦織「ああ、日本のフィンランドと言われている茨城県ね。栃木がノルウェーなんでね(笑)」
七海「のどかな位置関係で(笑)」
錦織「七海さん座長なら、カンパニーは大丈夫だね。僕もね、第一印象でわかりましたよ。人って意外に見かけの印象通りだったりするもんだよ。七海さんは声のお仕事もしてるんだよね? 涼風(真世)さんみたいに」
七海「はい。涼風さんが声優をされていた『るろうに剣心』を見て、カッコいいなぁって思ってました。声のお仕事に憧れを抱くきっかけになりました」
錦織「僕、なぜだか機会がなくて宝塚自体は観劇したことないんだけど、元宝塚の方とは共演は多くてね。涼風さんもだし、愛華みれさん…タモちゃん(愛称)ね」
宝塚で学んだ様式美は、退団後も素晴らしい武器に(錦織)
──宝塚出身という経験値をお持ちの女優さんの印象は?
錦織「僕は本数で言えば圧倒的に(大地)真央さんとが多いんだけど、その頃から、“宝塚の方の立ち姿を勉強しろ”ってよくジャニーさんに言われてましたね。ジャニーさんは、様式美がすごく好きなんだよね。今は流行りもあるし、時代も違って、全体的にシアター系の踊りが少なくなってきてるよね。でも、宝塚で訓練されたきちんとした立ち姿、振る舞い、踊りは素晴らしいなと思いますよね」
──燕尾もタキシードも、ド派手な衣装も、着こなしが美しいですよね。
錦織「そう! あれはすごい」
七海「上級生になると衣装部の方に着せていただいたりもありますが、下級生の頃は、自分でやらないと手が回らなくて。自分で脱ぎ着して、着方、着こなし方を覚えていくんです。上級生の早変わりのお手伝いもしたりするので、舞台の裏でも鍛えられる部分は宝塚は多いですね」
錦織「だからですよね。燕尾服、タキシードは特に、宝塚の方の着方が上手い! そこを見るだけでも、しっかりとした教育をされる学校であり劇団でらっしゃるなと思うし、大階段を降りるときも、足元を見ちゃいけないって、ちゃんと教えてもらってるんでしょ?」
七海「はい、しっかり指導していただきます」
錦織「いや、すごいよ。ステージ上での基本を皆さんしっかり学んでらっしゃる」
七海「正直、あの階段を前を見ながら正しい姿勢で降りるのはめちゃくちゃ怖かったです」
錦織「怖いよねー。だってあの階段の幅、靴一足分もないんだよね」
七海「おっしゃる通りです」
2022年、年初め、心の潤いにもなる作品に(七海)
──宝塚で作ってきた美しい麗しいビジュアル作りの学びが、すでに怪物にも現れています。
七海「皆さんと相談しながら作り上げたビジュアルです。評判がいいと聞き、嬉しく思っています。2022年、初の舞台になるので、目で見ても楽しめる、心の潤いになる作品をお届けできたらいいですね」
錦織「七海さんって、スパッ!としてらしていいよね。 男役を卒業したら、ガラッと変わりたいと思って当然ではあると理解できますけど、そういう方がわりと多い印象のなかで、今回のような、男女にこだわらない怪物という役にトライする姿勢、潔さがすごいと思った。別にこだわらなくてもいいじゃないかっていう、余裕を感じるんだよね。自分でこうだ、って決めてしまうと、どうしてもやれる範囲が小さくなってしまうんだよね」
──自由で囚われのない、新しい役者の在り方を七海さんには期待しています。
七海「はい! 今日、錦織さんとお話をしてすごく多くの学びがありました。私と対談してはいるけど、ひと言ひと言が読者の方へ、お客様へ向けて発信されているんだと思いました。いちばん大事なのは、劇場に観に来てくださるお客様だと私も心がけていましたが、改めて強く思いました。お客様が観てよかったと思う舞台を、皆さんと一緒に作っていきたいなと思います。今回、彩凪翔ちゃんも宝塚退団後、初めての舞台になるので、初共演するのが楽しみですし……」
錦織「そうなんですか!」
七海「同じ劇団でも組が違ったので、初めて一緒にお芝居するんですよ」
錦織「なるほどね」
七海「いろんな初めてがあるカンパニーにもなるので、皆さんと楽しくやれたらいいなと思っていますので、よろしくお願いします」
錦織「僕基準でわかりやすく作っていきますけど、皆さん、一度観たぐらいじゃわからない作りになってますので……たびたび足をお運びください(笑)」
七海「お待ちしております(笑)」
舞台「フランケンシュタイン-cry for the moon-」
●スケジュール&場所:
東京公演:2022年1月7日(金)〜1月16日(日) 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
大阪公演:2022年1月20日(木)〜1月23日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
原作:『フランケンシュタイン』(シェリー作 小林章夫訳 光文社古典新訳文庫刊)
出演:七海ひろき 岐洲匠 彩凪翔/蒼木陣 佐藤信長 横山結衣 北村由海/永田耕一
演出:錦織一清
脚本:岡本貴也
●料金:10,000円(前売・当日共/全席指定/税込)
●一般発売:11月20日(土)10:00〜
●公演情報詳細:
【公式ホームページ】 https://stage-frankenstein.com
【公式ツイッター】 @franken_cftm
【公式インスタグラム】 @frankenstein_cftm
主催:舞台「フランケンシュタイン-cry for the moon-」製作委員会
©FCFTMP
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「フランケンシュタイン-cry for the moon-」公式サイト 錦織一清公式サイト「Uncle Cinnamon」 七海ひろき公式サイト演出家・錦織一清さんインタビュー「遊び場は場所を選ばない」【『フランケンシュタイン-cry for the moon-』『鬼の鎮魂歌(レクイエム)Ⅱ』が続々上演】
撮影/菅原有希子 取材・文/堀江純子
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