あるときはナイーブで優しいお殿様(『青天を衝け』)、オジサマに溺愛されるワガママボーイ(『劇場版きのう何食べた?』)、ど直球のチンピラ(『珈琲いかがでしょう』&『ヤクザと家族』)と、昨年も列挙しきれない数の作品で、劇的な七変化を見せつけた磯村さん。映画『前科者』でも、重層的な演技が光る。元受刑者と、彼らの更生に寄り添う保護司の葛藤、再生と希望を描いた作品だ。
瞬発力や瞬間の集中力が今まで以上に必要な現場でした
────磯村勇斗さん
「保護司という職業を知らなかったので、罪を犯した人が更生するための手助けをする仕事がある、しかもボランティアで行っている、ということに驚きました。そこにフォーカスした着眼点がおもしろい。最後には希望もありますが、そこまでの道のりが過酷に描かれた脚本に惹きつけられました」
磯村さんは、“前科者”・工藤(森田剛)を追う刑事・滝本として登場するが、もちろんそれに留まらない。工藤の保護司・阿川(有村架純)との浅からぬ因縁が次第に見え始め、物語に複雑に絡む。
「“刑事”ということより、学生時代をともに過ごした阿川との過去が、いかに滝本の心をえぐっているかが重要でした。それを感じ取ることで出来上がる役だと思ったので、似た実際の事件の資料を読み、遺族の思いを自分の中に蓄積して現場に入りました。出来事としてはとてもつらい。でも役を作り込んでいく過程が、俳優として最も充実した時間でもあります」
今回の磯村さんの演技で特に印象的なのは、阿川と対峙するシーン。滝本の驚きや怒りといった複雑な感情を押し殺した風情や芝居が、観る人を一気に惹き込む。
「刑事として聞き込みをしなければならない一方で、自分と重大な過去を持つ阿川が工藤の保護司をしているなんて、と動揺もあって。驚きという一言では片づけられない衝撃、いろんな感情がぐわっと出てくる、難しいシーンでした」
渦巻く感情を感じさせる重要なシーンが多々あるが、段取り(現場で動きやセリフのニュアンスを確認)の後、すぐ本番に入ったという。だからこそ感情の揺れが、リアルに映り込んだのだろう。
「瞬発力や集中力が特に求められる作品でした。いかにその一発(撮り)に柔軟に対応するか。自分の思いを一方的に伝えるのではなく、相手からもしっかり受けながら進めていく。緊張しましたが、それがとてもおもしろかったです」
阿川を間にはさみ、追う者、追われる者双方の壮絶な人生に感情を揺さぶられながら、新たな事件の犯人と目される工藤の運命から目が離せない。社会問題に迫る本作を経験し、考えることとは?
「保護司がボランティアということ自体、社会が見捨てている感が否めない。本作を通じて、あまり明るみに出ない社会の問題にも目を向けなければ、と少しでも思ってもらえたらうれしいです」
保護司の「諦めないで」という言葉が印象的だが、これまで磯村さんが救われた言葉はありますか。
「図書館の司書さんといろんな登場人物が出会っていく素敵な小説『お探し物は図書室まで』に、“どこかのたった一人でもいいから、頭の中に名作を残したい”というフレーズがあって。ちょうど“自分は今、何をやっているんだ?”と悩んでいたときに出会ったので、そうか、それくらいでいいのかと、フッと肩の力を抜いてもらえました」
いそむら・はやと●1992年9月11日、静岡県生まれ。2015年『仮面ライダーゴースト』で注目され、朝ドラ『ひよっこ』で脚光を浴びる。近年の映画出演作に、『ヤクザと家族 The Family』『東京リベンジャーズ』『劇場版きのう何食べた?』『彼女が好きなものは』(すべて’21年)など
Instagram:hayato_isomura
Twitter:hayato_isomura
公式サイト:https://hayato-isomura.com/
『前科者』
阿川佳代(有村架純)はコンビニ勤めで生計を立てながら保護司として元受刑者の更生を助けている。元殺人犯の工藤(森田剛)も、阿川の支援で前向きに生活を送り始めるが、ある殺傷事件で犯行が疑われ、工藤は姿を消す。そこに、工藤を追う刑事・滝本(磯村勇斗)と阿川の過去が絡み始め……。監督は『あゝ、荒野』の岸善幸。1月28日より全国ロードショー。
撮影/小渕真希子 ヘア&メイク/髙田将樹 スタイリスト/笠井時夢 取材・文/折田千鶴子
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