『あなたにオススメの』
本谷有希子 ¥1870/講談社
平等=幸せ!? 等質な社会が行き着く先を描いた近未来小説
劇作家としてデビューし、近年では小説家としての評価も高い本谷有希子さん。ごく普通の日常を生きる人たちを、ユーモアと悲哀を込めて描き出す作風には定評があるけれども、今作『あなたにオススメの』も、まさにリアルさが根底にある2つの物語が収められている。
1作目『推子(おしこ)のデフォルト』の主人公は、子どもたちを優劣なく“等質に”教育することで人気の保育園に通わせている推子。彼女が生きているのは、“ある混乱”を機に、誰もがマイクロチップを体に埋め込み、現実よりも仮想空間になじむのが推奨されている近未来だ。ネットにつながっていない人は普通ではなく「オフライン依存症」を疑われるようにもなった。推子も娘たちも時代に適応し、最新機器が提供する仮想空間に頼りきっている。
そんな悩みも迷いもない推子が気になるのが、前時代の価値観を重んじ、デジタル中心の生活を拒否するママ友のGJ(呼び名の由来は原人)と、息子のこぴくんだ。現実を大切にするがゆえに悩みを抱える母子を、推子は「最高のコンテンツ」と感じてしまう。技術の進化で夫婦関係や子育ての煩わしさからも解放された一方、退屈さも感じていた推子は、GJと息子のこぴくんに干渉していく――。
すべての生活が快適かつ合理的に、そして誰もが平等になるように設定された世界。自分の頭でものを考えることが不幸につながると描かれる社会は、少し先には現実となりそうで恐ろしい。また子どもたちの憧れの職業が「ええ愛(AIを親しみやすく改称した呼び名)」というのも考えさせられてしまうはず。新しもの好きな推子と、アナログ派のGJ、2人の女性がたどり着いた先は圧巻!
同録の『マイイベント』は同じタワーマンションに住む、ライフスタイルや考え方が相いれない2組の家族が、台風の日に一緒に過ごすことになる、こちらも「もしかしたらあるかもしれない」と思わせる人間劇。2作品とも誰の心にも潜むややダークな部分も含め、人の愚かさや愛らしさを俯瞰して描いた作品。刺激が欲しい人にはぜひ。
『マチズモを削り取れ』
武田砂鉄 ¥1760/集英社
現代社会を鋭く切り取る人気ライターが、日本にはびこるマチズモ(男性優位主義)について考察したエッセイ。
路上、電車、会社など、公共の場を中心に、男性が有利な立場となる行動や考え方とその背景について問題提起。30代・40代ならば思い当たるモヤモヤへの指摘もたっぷり。読後は「じゃあどう変えたらいいの?」と改善へのヒントも与えてくれる。
『もどかしいほど静かなオルゴール店』
瀧羽麻子 ¥1650/幻冬舎
都会から遠く離れた南の島。この集落を出ていった初恋の彼女を思い続ける男性、音楽を捨てて移住してきた元人気ミュージシャン、母親の実家に預けられた少女と地元の少年とのひと夏の交流など、島を舞台に繰り広げられる人間模様に、表題のオルゴールが小道具として効く短編小説集。
素朴かつ温かいお話に、切なく優しい気持ちになれること間違いなし。
『ピワンのおカレー』
石田 徹 ¥1870/文化出版局
東京・吉祥寺で人気のカレー店「ピワン」による自宅で再現できるレシピ集。
まず入手しやすいスパイスとシンプルな手順で作り置きができる「玉ねぎペースト」「トマトペースト」を作製。そのペーストに各種素材を加えていけば本格的なスパイスカレーが完成! さらっとして胃にもたれにくく、辛さ控えめなカレーだから、子どもも喜ぶ一皿になるはず!
取材・原文/石井絵里
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