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趣味・性教育、特技・性教育、仕事・性教育。産婦人科医・高橋幸子さんが子ども達に伝えたいこと

  • LEE編集部

2021.08.22

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高橋幸子さん

引き続き、産婦人科医の高橋幸子さんのインタビューをお届けします。性教育を人生の目標に掲げる高橋さんは、なぜ医師を目指し、どんな学生時代を過ごしたのでしょうか。ストレートな親子関係の中で教わった性教育、目標に向かって突き進む素直な心が、今の高橋さんへと導きました。(この記事は全2回の2回目です。前編を読む

小学生で医師を目指すも、中高の成績は中の下だった

高橋さんが医師を志したのは、小学4先生の時。マンガ『キャンディ♡キャンディ』の主人公キャンディが看護師として活躍する姿に感化され、看護師になりたいと母親に打ち明けます。当時、臨床検査技師をしていた母からは「病院には他にいろいろな仕事があるよ。どんな仕事があるか調べてごらん」と言われました。

「私の母は青森出身で“女に学問はいらない”という家庭に育ったものの、本人は勉強ができて医者になりたかったようです。青森から上京し、自分で専門学校の学費を稼ぎ、臨床検査技師になりました。それもあって、その言葉をかけたくれたんだと思います。当時は自分がかかっていた小児科の先生しか知らなかったので『なるとしたら小児科の医師かな』とぼんやり考えていました」

高橋幸子さん

幼い頃の高橋さん。親子で七五三のお参り(写真:高橋さん提供)

中学受験をするために、6年生から進学塾に通います。それまで成績はクラスでトップ、テストはいつも100点で、自分の学力にある程度自信がありました。しかし、塾で自分より頭のいい子がたくさんいることに気づき、「世の中は広いんだ」と気づかされます。

「中学は、千葉の東邦大学付属東邦中学に行きました。東邦大に医学部があったので、母の『まわりに医学部を目指す人がいれば、医師になりたい気持ちも折れないだろう』という計算もあったようです(笑)。当時の東邦は、中学入試に社会が無かったんですよね。社会の偏差値が27くらいだったので、私にぴったりな学校だ!と思いました。中学での成績はクラスで45人中35番目くらいでした。高校を卒業する時は、実はビリから2番目だったんです(笑)」

父からの励ましの言葉、性を真正面から伝える母

高校卒業後は、医学部を目指し1年浪人。「この成績では医学部に行けないかも」と思い、女子アナへの道や鍼灸関連の大学への進学も考え始めます。その矢先、父親からある助言を受けます。

「今そこに行くべきじゃない、3年浪人してダメなら他の仕事を考えたらどうか、と言われました。父は、本田技研の自動車工場で働いていましたが、どうしてもHONDAに入りたくて入社試験を3回受けたそうです。だから私にも3年まで浪人していいと言ったんだと思います。なんとか1年で受かったのですが、この話を今の医学生にすると、1浪なんて自慢、今は平均2.7浪ですよと言われて(笑)。今の時代じゃなくて、逆に良かったですね」

高橋幸子さん

高校卒業後の高橋さん。女子寮の寮長として活躍していました(写真:高橋さん提供)

晴れて山形大学医学部に入学してからは、アルバイトと部活三昧。中学から始めたバレーボールを大学まで続け、大学4年の時には東日本医科学生総合体育大会で優勝。そして、大学6年の時に聞いた女子少年院でのエピソードをきっかけに、性教育へと身を投じます。自身が受けた性教育について振り返ってもらうと、最初はやはり両親からだったと教えてくれました。

「小学3年の家を建てたばかりの頃、今までできなかったことをやろうと、父母私の3人でお風呂に入っていた時のことです。私が上履きを洗った後の汚れた水でデリケートゾーンを洗おうとしたのですが、『そこは大事なところだから汚い水で洗うんじゃないよ!』と両親が大慌てだったのを覚えています。

高橋幸子さん

母と2人でお風呂に入った時には、人差し指1本と、親指と人差し指で輪っかを作って、『男の人のおちんちんを女の人の膣に入れると赤ちゃんができるんだよ』と教えてくれました。中学から寮に入ることになったのですが、母から性教育の本を10冊ほど渡され『これを読んでから寮に行きなさい』と言われました。河野美代子先生の『さらば悲しみの性 高校生の性を考える』(集英社刊)やマンガもありましたね」



医師になって7年目、やっと性教育に関われるように

母親から教わったこと、本から学んだことを経て、中学から寮生活に。中・高6年間の寮生活では、女子ならではのエピソードや苦笑いした経験もあったそうです。

「中学1年の時に、タンポンを初めて使いました。バレーボール部の友人が使っていて『幸子も使ってみなよ』と言われ、スーパーに買いに行ったんです。当時フィンガー式とアプリケーター式の2種類があり、安いからフィンガー式を買ってしまったのですが、初心者が使うにはなかなか難しくて。寮の部屋でうーん、入らない……と1人唸っていたのを今でも覚えています。寮は学校の敷地内にあったので、同級生が生理になった時、『幸子、タンポポちょうだい!』と言われて、私が部屋に取りに行くこともありました。タンポポ=タンポンの隠語ですね。今思えば全然隠れてないですが(笑)」

高橋幸子さん

大学卒業後は、1年間予備校に通って医師国家資格を取得。埼玉医科大学総合医療センターの産婦人科に配属されます。しかし、すぐに性教育関連の仕事ができたわけではありませんでした。

「初めて性教育の講演をできたのは2007年、医師になって7年目ですね。大学宛に講演の依頼が来て、『やりたいです!』と立候補しました。その頃は産婦人科にいたので、講演が多くなってしまうと同じチームの人に迷惑がかかるので、月3本までと決めていました。2013年に公衆衛生学教室(現:社会医学)に異動してからは、来た依頼をすべて受けられるようになり、講演数が増えました」

性の知識が子どもの「自分らしく生きるきっかけ」に

活動の場を広げるきっかけが、NHKのテレビ番組『ハートネットTV』の高校生向け性教育番組「教えて!性の神様」でした。番組宛にメールを送ったのをきっかけに、監修協力として参加。そこからテレビ出演や本の出版、海外の性教育本の翻訳、さらに昨年はティーン向け配信ドラマ『17.3 about a sex』の医療監修を担当しました。講演のみならず、さまざまな方向から性の正しい知識の普及に尽力しながら、子どもたちの今を知り、「何が必要か」「どう伝えるべきか」を模索し続けています。

高橋幸子さん

医療監修を担当した配信ドラマ『17.3 about a sex』の脚本とともに

「たくさんの選択肢があると知りました。正しい知識を得て、後悔しない選択をするためにも、どんな選択肢があるのか正しく知る必要があると思いました」(講演を聴いた高校1年生の感想)

「伝えたいのは知識ではなく、あなたはあなたらしく生きていいんだよ、あなたが選択していいんだよ、ということです。その前提に、選択肢を知らなければいけない。そのためには知識がないと実現できないと実感しました。ただ知識を伝えているように見えるかもしれないですが、知識を得て選べること、自分が思うままに生きていいと伝わっているのが嬉しかったです」

高橋さんが目指すのは、性の正しい情報が子どもたちに行き届いていること。その上で、自分で選択できることが大切だと言います。困った時に助けになるような補完的サービスにも尽力しています。休日にアフターピル(緊急避妊薬)にたどりつくための情報をまとめたサイト『ピルにゃん』、高校生向けの分かりやすい性教育冊子『#つながるBOOK』(ネットからも閲覧可)など、アクセスのしやすさにもこだわっています。

つながるBOOK

高橋さんが制作に参加した高校生向け性教育パンフレット『#つながるBOOK』より(写真はスマートフォン閲覧画面)。WEB版やPDF版もあります。イラストが多く、読みやすい構成になっています

「知識があっても、実現できるかどうかにまたハードルがあります。例えばピルを使ったほうがいいけれど、産婦人科に行くのにハードルがある。そのハードルをなくすようなユースクリニック(学生向けの産婦人科)もいつか作りたいと思います。性教育は日々アップデートされていて、常に最先端が変わります。性の多様性がその代表例ですよね。勉強を続けていますが、それが私の日々の活力にもなっています」

高橋幸子さんに聞きました

身体のウェルネスのためにしていること

もみほぐしマッサージ

「もみほぐしマッサージに通っています。家の隣にあるマッサージに、月に3回ほど通っています。週末や撮影前に行くことが多いですね。撮影の2日前に行くと、血色も良くなり調子がいいんですよ(笑)。いつも同じ方を指名して、施術を受けながら何気ない会話をするのも楽しい時間です」

心のウェルネスのためにしていること

土日のどちらかは必ず性教育の勉強会へ

「自己紹介で“趣味・性教育、特技・性教育、仕事・性教育”と言うほど、性教育のことを考えています。土日のどちらかは、必ず勉強会に参加していますね。性教育に関係している人は人権意識がしっかりしていて、話をしていても心地がいいんですよね。そんな仲間と話したり、高め合うことが自分の癒しになっています」

高橋幸子さん

高橋幸子さん

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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