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【モロッコ製作の長編劇映画『モロッコ、彼女たちの朝』】女性たちが自分らしく生きる姿を描く

2021.08.06

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『モロッコ、彼女たちの朝』

『モロッコ、彼女たちの朝』

©Ali n’ Productions–Les Films du Nouveau Monde–Artémis Productions

自分らしく生きる道を探す、すべての女性たちへ贈る人生讃歌

異国情緒に憧れを禁じ得ないが、人々の暮らしや文化的背景に詳しい人は少ないかもしれない。なんとモロッコ製作(他と共同)の長編劇映画が、日本で公開されるのは初という。入り組んだ旧市街のパン屋を舞台に、悲しみに沈んだ女性店主と、困難を抱え途方に暮れる女性がひょんなことで出会い、予期せず互いの背中を押し合う物語――。

臨月のおなかを抱え、カサブランカの路地を彷徨うサミアは、職と寝場所を求めて扉を叩き続けるが、彼女を雇う者はない。仕方なく路上で眠ろうとしたサミアを家に招き入れたのは、先ほど追い返したばかりのパン屋のアブラだった。夫の死後、娘との生活を守るため、心を閉ざして働きづめのアブラは、「数日で出ていけ」と頑なな態度は崩さない。ところが娘はすっかりサミアに懐き、彼女が伝統的なパン作りが得意だったことから、アブラの店はにわかに活気づく――。

臨月に彷徨い歩くとは……でも、そこが本作の肝。イスラム教国家のモロッコでは、婚外交渉や中絶は違法、未婚の母は社会的保障を受けられず、夫と死別や離婚した女性の地位も非常に低いという。サミアは妊娠が理由で解雇され、結婚を約束した恋人に捨てられたとおぼしい。四面楚歌の中、産んですぐ里子に出して遠い故郷に戻り、人生をやり直そうとしているらしい。面倒事に巻き込まれるのは御免と躊躇しつつ、手を差し伸べたアブラもまた、夫の死に絡み、根強い家父長制のしきたりにのみ込めない怒りをためてきたことがわかってくる。

フェルメールらに影響を受けたという陰影の深い映像の奥に、そうした強いメッセージが忍ばせてある。私たちはただ、2人が床で生地をこね、成形し、窯で焼く姿、娘を含めた親密な様子に「いつまでも続けば」と願うばかりだ。しかし、もう一波乱。生まれてくる子どもはどうなるのか。サミアの“母性”と“自分の人生”、天秤が傾くのは!? 理不尽に押しつぶされそうな女たちの連帯、懸命に一歩を踏み出そうとする姿に、静かな感動と共感が満ちる。

・8月13日より全国公開予定
公式サイト

『サマーフィルムにのって』

『サマーフィルムにのって』

©2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

映画愛に満ち満ちたパワフルでみずみずしく感動的な青春映画

映画部の高校3年、時代劇オタクのハダシ(伊藤万理華)は、自身の脚本『武士の青春』の主役にピッタリな青年(金子大地)と出会う。急にヤル気を出し、キラキラ映画を撮る主流派を横目に、寄せ集めメンバーで撮影を始めるがーー。

友情、恋、時代劇愛、なんとSF要素まで加わり、劇中劇2つの奇跡のラストシーンになだれ込む。その展開がうまく、驚きと納得、そして感無量で落涙。最高に熱くてまぶしくて爽快!

・8月6日より新宿武蔵野館ほかにて公開予定
公式サイト

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


取材・原文/折田千鶴子


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