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【書評】エリザベス・アセヴェド『詩人になりたいわたしX』全米図書賞を始め数多くの文学賞を受賞した、話題の海外小説。他3編

2021.04.26

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『詩人になりたいわたしX』
【著】エリザベス・アセヴェド 【訳】田中亜希子 ¥1760/小学館

母の期待と自意識に悩む少女の姿がリアルな、話題の海外小説

詩人になりたいわたしX 【著】エリザベス・アセヴェド 【訳】田中亜希子¥1760 小学館

「娘」だった頃の気持ちを思い出しつつ、「母親」である今の自分のあり方についても考えさせてもらえる――。

今月の一冊は、全米図書賞を始め、数多くの文学賞を受賞した話題の小説だ。

舞台はニューヨークのハーレム。主人公のシオマラは、ドミニカ共和国出身の両親を持つ、15歳の女の子だ。年齢にしては発育のよい体を持つがゆえに、男性からは性的な目で見られ、同世代の女子からは「なんだか気に食わない」と思われてしまう。他者の視線に戸惑うシオマラは、口数は少なく、そして時には攻撃的な態度をとることで自分を守り続けている。しかし彼女の一番の“敵”は、信心深い母親だった。

「女の子はこうあるべき」と、彼女の言動を縛りつけ、口出しは異性関係にも及ぶように。言いつけに従いながらも「お母さんは私よりも神様のほうが好きなのではないか?」と、孤独を募らせていくシオマラ。数少ない味方は、双子の兄・ツインと、幼なじみで親友のカリダーだけ。しかし高校の先生から詩のパフォーミングアートに誘われたのをきっかけに、彼女は視野を広げていく。さらに同級生のアマーンとの初恋も経験し……。「母親に押しつけられた価値観」と「新しい世界に踏み出したい自分」との間で、シオマラは揺れる――。

親の期待にこたえたい気持ちと、己の考えを大切にしたい気持ちは、思春期のみならず、すべての「子ども」が感じるものかもしれない。そしてLEE世代ならば、主人公が恐れる、母親の心情にも思いを馳せたい。聖書の言葉だけを信じて生きてきた母親と、自分の中にある感情を言葉にする娘がぶつかり合うシーンの描写は、まさに詩の“バトル”。

異なる価値観が衝突した先に、シオマラがたどり着いた世界には、思わず涙が――。もともと本著はヤングアダルト(YA)というジャンルで、10代後半の若者向けに書かれたお話。しかし単なる少女の成長譚に終わらず、ジェンダー、人種問題、などさまざまな社会問題をベースに書かれている。夫婦や親子で読み、感想を伝え合うのもいいかも!

『オーストリア滞在記』
中谷美紀 ¥825/幻冬舎

『オーストリア滞在記』中谷美紀 ¥825/幻冬舎
ドイツ人のヴィオラ奏者と結婚した女優の中谷美紀さん。
1年の約半分を過ごすオーストリアでの日々の記録。料理や掃除にガーデニングなど、異国の田舎暮らしに奮闘しながら言語も学ぶなど、そのパワフルさには驚くばかり。夫の元パートナーと、その娘との交流では“パッチワークファミリー”という家族のあり方への考察も。行間から人柄が伝わります。

『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』
【編】都築響一 ¥3630/クラーケンラボ

『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』【編】都築響一 ¥3630 クラーケンラボ
編集者・都築響一氏のメルマガで連載された「100人、100通りの記憶に残る店」を集めたエッセイ。

小説家やライター、芸人らが今でも忘れられない店や味の記憶を紡ぐ。幼い頃の体験談もあれば、大人になったある時期に足繁く通った店、海外での一期一会も。“では自分にとって、もう行けず、かつ忘れられない店は?”と、イメージが膨らむのもおもしろい!



『いつか あなたを わすれても』
【文】桜木紫乃 【絵】オザワミカ ¥1870/集英社

『いつか あなたを わすれても』【文】桜木紫乃 【絵】オザワミカ ¥1870/集英社
小説『ホテルローヤル』の著者である桜木紫乃さんの文章にオザワミカさんがイラストを添えた絵本。

認知症になり始めた祖母。その症状を真摯に受け止め、今までの思い出を大切に数える母。そして二人の人生から自らの行く末を想う娘。避けられない大切な人との別れだからこそ今という時間が愛おしくなる、桜木さんの『家族じまい』のもう一つの物語。


取材・原文/石井絵里


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