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【書評『サード・キッチン』】今までの環境とまったく違う場所へ身を置いたとき、人は何を感じ、どうやって成長するのだろう?

2021.01.18

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Books

『サード・キッチン』
白尾 悠 ¥1800/河出書房新社

ダイバーシティとは何か? 他者と共存する希望を描いた小説

サード・キッチン

今までの環境とまったく違う場所へ身を置いたとき、人は何を感じ、どうやって成長するのだろう? 

今月の一冊は、青春小説でもあり、同時に自分自身に初めて深く向き合った少女の成長を描いた作品だ。主人公は19歳の尚美。日本の都立高校へ通っていた頃から英語が得意だった彼女は、教師や母親など理解ある大人たちに励まされて、アメリカの大学へ留学することに。ところがいざ入学すると、尚美の英語力は日常会話もおぼつかず、ネイティブスピーカーの同級生らとの差を感じて孤独感をつのらせるように……。周りとのコミュニケーションはあきらめて、勉強に集中しようと思っていた矢先、寮で隣の部屋に住んでいるアンドレアと言葉を交わす。そして彼女とともに足を運んだ学生食堂「サード・キッチン」で、尚美は学内では自らをマイノリティだと自認している学生たちと交流を持つようになっていく――。

物語の舞台は「合衆国内でも知力・財力に恵まれた者が集まり、リベラルな校風には定評がある」大学。そんな理想郷のような場所でも、人種や宗教、性的指向などさまざまな理由で、学生たちは分断されている。日本人の尚美も、サード・キッチンに出入りしてから一層、アジア系学生の中での立ち位置に戸惑う。少数派の疎外感を味わいつつ、自分も無意識に誰かを軽んじているのではないか。異なった生い立ちを持つ人が共存するにはどうしたらいい? 

彼女の悩みは、大人になった私たちも日常の中で感じることがあるかもしれない。そして物語の伏線となる、尚美を日本から経済支援してくれる女性・久子さんの心の揺れもまた、多様性のある生き方について、読み手にヒントを与えてくれる。さらに対人トラブルが起こるたびに、最初は引きこもりかけていた尚美が周囲とコミュニケーションをとる姿には、希望が!

国籍や育った背景が違っても、理解し合える人たちはいる。また作品の随所にちりばめられた各国の料理にも、文化的な意味合いが盛り込まれ、単なるおいしいを超えた、大きな学びを得ることができる。

『自由への手紙』
オードリー・タン ¥1400/講談社

自由への手紙
台湾の「コロナ対応」では、品薄のマスクを誰もが購入できるように販売店の在庫確認ができるアプリを迅速に導入したりと、話題のデジタル担当政務委員大臣のオードリー・タン氏。その氏が仕事やお金、ジェンダーや家族のあり方、不平等や競争など、時に私たちに生きづらさを感じさせる17の事柄から自由になれるヒントを日本の読者に向けて語った一冊。

『ゲナポッポ』
クリハラタカシ ¥1300/白泉社

ゲナポッポ
地球上のどこにでも現れて、好奇心旺盛なゲナポッポ。
この正体不明な生き物の姿を淡々と追いかけたミニストーリー集。ゲナポッポと人間とのやりとりは、時にシュールで、でもなんだか哲学的でもあり、妙に癒される……。独特のゆる~い世界観にハマってしまいそう。鮮やかな色使いと短いお話が詰まった構成は、読み聞かせ用の本としてもぴったり。



『究極ずぼらウマいレシピ』
牛尾理恵 ¥1300/朝日新聞出版

究極ずぼらウマいレシピ
フライパン、炊飯器、レンジといつもの調理器具や家電を手際よく使うことで栄養とボリューム満点のおかずが、なんと100通りも作れるレシピ本。
包丁&まな板いらずの下ごしらえの方法や、サラダチキンや缶詰を使ったメニューも充実。忙しい毎日の中でおいしいものを食べたいときに使えるテクが満載。料理の時短と効率を上げる頼もしい一冊となりそう!


取材・原文/石井絵里


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