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【書評】『きのうのオレンジ』/ある日突然「癌」と診断されたら?誰の人生にも起こり得る、想定外かつ理不尽な展開を描いた

2020.11.20

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カルチャーナビ「BOOKS」

ある日突然、「癌」と診断されたら?
絶望と希望を描く長編小説

『きのうのオレンジ』藤岡陽子 ¥1600/集英社

きのうのオレンジ

当たり前の毎日が突然失われてしまったとき、私たちはどうやって希望を見つけて生きるのか――? 今月の一冊は、そんなシリアスなことを考えさせられる長編作品。

主人公は33歳の笹本遼賀。都内でファミリーレストランの雇われ店長をしていた遼賀は、店を心地よく整え、従業員にも恵まれてと、忙しいながらも充実した日々を過ごしていた。ところがある日、遼賀は自分の体に異変を覚えて検査をしたところ、悪性の胃癌だと診断されてしまう。当然ながら遼賀の日常は、この日を境に大きく変わることに。そして院内で偶然出会ったのが、遼賀の高校時代の同級生で、今は病棟内で看護師をしている矢田泉だった。

泉との再会、さらに病気の事実を家族に告げるうちに、遼賀の心に動揺が広がっていく。なぜ自分がこの若さで癌にならなくてはいけなかったのか。一切の希望を失い、病への恐怖に打ちひしがれる遼賀の元に、弟の恭平から荷物が届く。それは自分たち兄弟が、高校時代に山の中で遭難した際に、遼賀が身につけていたオレンジ色の登山靴だった。恭平の励ましと、あのときの必死だった自分を思い出し、遼賀は癌になった現実を受け入れ、前に進む覚悟を決める――。

誰の人生にも起こり得る、想定外かつ理不尽な展開。遼賀の身に襲いかかった病は、理不尽のひと言で片づけることすら難しいもの。しかし、それでも淡々と生きていく姿は、読み手の心にしっかりと刻み込まれていく。また、遼賀の闘病を支える看護師の泉も、彼の存在をきっかけに、プライベートで抱えていた心の中のモヤモヤを整理し、さらには自分と仕事との向き合い方も考え直すように。そして遼賀との間に絆が生まれるうちに、彼から想像もしなかった弟の恭平への思いも聞かされる。

人はどんな状況に置かれても、変われるし、成長できるもの。遼賀が生きようとする姿を追ううちに、そんな気持ちが胸の中に広がっていく。物語を読み進めたラストには、登場する人物たちのひとりひとりにある種の希望を見いだせるヒューマン小説。

『サブリナとコリーナ』
【著】カリ・ファハルド=アンスタイン 【訳】小竹由美子 ¥2100/新潮社

黒髪に青い瞳を持つサブリナは、その美しさで男たちに求められるが、一方で彼女自身は身を持ち崩していく。表題作『サブリナとコリーナ』をはじめ、アメリカのヒスパニック系のコミュニティで暮らす人々の哀愁がまとめられた短編集。
多様な文化や、それゆえに抱える問題の一端に触れてみて。

『肉とすっぽん』
平松洋子 ¥1500/文藝春秋


なぜ私たちは肉を食べるのだろうか。肉を食べる意味の根源を探るため、著者は日本各地の動物とその肉に携わる人々を訪ね歩く。牛や羊からイノシシやシカ、すっぽんやクジラに至るまで、おいしい!の背景には必ず“人間”がいることを照らし出す。ヒトと動物を巡る関係性と、そこで育まれる文化から「命を食べて生きる」営みについて考えさせられる一冊。



『オタク女子が、4人で暮らしてみたら』
藤谷千明 ¥1300/幻冬舎

10年以上を共にしたパートナーとの同居を解消した著者。
経済的な不安、孤独死への恐怖に直面した彼女が思いついたのは「自分と同じオタク女子たちと暮らすこと」だった! 職業も推しも違うアラフォー女子4人の生活の記録は、実に楽しい! “生活は共有するが人生は共有しない”、絶妙な温度感は、これからの同居スタイルの新たなモデルとなるかも。


取材・原文/石井絵里


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