世界的ベストセラー作家・アガサ・クリスティの作品。中でも、特に人気の『オリエント急行殺人事件』は、名探偵ポアロが難解な事件を鮮やかに解決する物語。ハリウッドで2度も映画化されました。きっと、読者の皆さんも観た人が多いはず。この名作が昨年、演劇界の奇才・河原雅彦さんによる演出で舞台化され、大好評を博しましたが、早くも今年12月に新キャストを迎えて再上演されることに! そこで、今回、主役のポアロを演じる椎名桔平さんにお話を伺ってきました。
名作を演じる難しさと楽しさ
キリっとした表情で舞台への意気込みを語ってくれた椎名さん。かと思えば、ステイホーム期間にチャレンジしたことについて身振り手振りを交え、楽しそうに語る様子から、気さくで明るい素顔が垣間見えました。そのギャップも魅力的でした。
──『レインマン』以来、2年ぶりの舞台作品です。たまたま今回も多くの人にストーリーが知られている名作ですが、どのようにポアロを演じようと考えていらっしゃいますか。
「結末をご存じの方が多い有名な作品をやる難しさは、確かに今回も感じています。それは当然、演出の河原(雅彦)さんも気を使っている部分で、ご覧になる方の多くが知っている結末まで、ずっと緊張感を保ち、飽きずに楽しんでいただける舞台をお届けしたいとおっしゃっていました。僕も同感です。たとえば、『レインマン』の時もそうでしたが、僕はわりと背が高いですし、観客の皆様が持っている役のイメージとちょっと違うかもしれない。だからこそ、僕という素材を使い、僕ならではの、何か新しいポアロをお見せできるといいですね。そして、時代に即した『オリエント急行殺人事件』を作りたい。今はそのためのルートを探している段階でしょうか。これまでもそうですが、ある時、ふっと『これかな?』と探していた道が見つかる時が“来る”んですよ。その時を待っています」
──椎名さんが考える名探偵ポアロの魅力とはなんでしょう?
「客観性を失わないところ。窮地に陥った時、彼の周りの人々は取り繕ううちにボロが出てしまうけれど、彼だけは、余裕がある。殺人事件のさなかにあっても、どこか推理を楽しみながら、客観性を失わずに事件と向き合っているように見えます。そこがいい。実は僕もあまり驚かない性格で……。それって感受性がないみたいで役者としてダメな部分かも、と思わないでもないけど(笑)、仕事柄、人が死んだり、殺されたりする場面を演じる機会があるから、慣れている、といったらいいのかな。驚いても、他人より驚き方が小さい気がします。その代わり、客観的に物事を見ているかもしれない。ここがポアロとの共通項だと信じて、役に向きあうつもりです。年齢を重ねたからこそ理解できる、今の僕にしかできないポアロを見つけて、アガサ・クリスティのファンの方にも楽しんでいただきたいです」
愛情ややさしさを今こそみんなで共有したい
──「驚かない性格」というのは昔からですか?
「年齢を重ねるにつれてそうなっていった感じです。若い時代、感情的になりそうになっても、役者は平常心で役に向かう必要がありますから、客観的に自分を見る、置くことを意識していました。たとえ、困った出来事があっても演技に引きずったらいけないですからね。そうこうするうちに経験値も増えて、今の自分がいる、と」
──生の舞台を務める際も平常心で演技に向かっていますか。
「驚かないけれど、緊張はするんですよ。舞台の初日の緊張といったら、もうすごいんだから! ドラマや映画が緊張しないというわけじゃないけど、やはり生の舞台の緊張感は特別で、だからこそ、そうした緊張感を思い出すためにも、舞台は折々にやらないといけません(笑)。数日やるとだんだん緊張より楽しさが勝ってきますが、それでも舞台に出る瞬間はすごく緊張します」
──この作品は善と悪をハッキリさせません。ひるがえって、最近の社会情勢も何が良くて、何が悪いのか、迷うことが多い気もします。そうしたなかで、この作品を演じるにあたり、椎名さんはどんなふうに感じていらっしゃいますか。
「名作ですから、あまりアバンギャルドな舞台ではなく、最大公約数のエンタテインメントを演出家、役者、スタッフが一丸となって知恵を集め、作り上げたい。少数派が求めるものを突っぱねる、ということじゃないんですよ。最大公約数だからこそ生まれる、とっておきの素敵なものを観客の皆様にお渡ししたいんです。それはつまり、中庸の大切さを考え直す、ということかもしれません。おっしゃる通り、コロナ禍がもたらした不安がある今は、特に幅広く、愛情ややさしさをみんなで共有すべき時期だと思うんですね。文化やエンタテインメントの力で勇気や夢を思い出してもらい、『あなたは一人じゃない』と伝えたい。『オリエント急行殺人事件』は、そうした勇気や夢を与えられる作品だと思っています」
料理はステイホーム期間に始め、見つけた楽しみ
──ところで、ステイホーム期間中、椎名さんは積極的にInstagramに投稿していらっしゃいました。料理したり、走ったり、素顔の椎名さんの生活が垣間見えて、親近感がわきました。
「単にヒマだったから自分のモチベーションをあげるため、という理由もあったけれど(笑)、見てくださる方がいるなら、Instagramで何か交流できるといいな、と。さっきも言った、今は愛情ややさしさを共有するべき時期、というのにもつながりますが、『お互いがんばろう!』と自分の声で伝えたかったんです。恥ずかしながら、そんなに上手でもない料理の写真をアップすると、『上達したね』なんてコメントをくださって、うれしかったですよ」
──確かに、椎名さんの手料理、短期間にどんどん上達している感じがしました!
「料理は、なんだっけ、料理アプリの……あ、そうそう、クラシルだ。クラシルを見ながら作っています! 自炊をできるだけするようになり、改めて思いましたが、料理って作るだけじゃないんですよね。スーパーに行き、材料を選んで買うところから料理は始まる。それから作って、食べて、片付けるまでがクッキング。洗い物って好きじゃなかったけれど、一連の作業全部がクッキングと理解できたら、そんなに苦ではなくなりました。僕、みそ汁が大好きで、いろいろと凝って作ってみるのが楽しい。買い物もちょっと割高になるけれどオーガニック野菜にしてみようかな、なんて吟味したりね(笑)。もう少し料理が上手になったら、器にも凝りたいなあ。素敵な器に筑前煮やきんぴらごぼうのような家庭料理をいい感じに盛り付けたい! 器に凝りだしたら、旅の楽しみも増えそうですよね。お土産に器を買っちゃいそう」
──ステイホーム期間の椎名さん、すごく充実した時間を過ごしているようにお見受けしていました。
「料理は、本当に遅まきながらですが、コロナ禍で楽しめたことですね。それから、ジムにも行けなかったから、縄跳びを買い、ベランダで飛んで体を動かしていました。縄跳び、場所もとらないし、道具も気軽だし、とてもいいですよ、おすすめです。あとは、ネットフリックスで『愛の不時着』を観て、感動したなあ。コロナ禍の環境の変化は大きかったけれど、そうなったからには、どう楽しく過ごすか、に向かったほうがいいな、と思ったんです。こんな時こそ、前向きになれることをやってみなくちゃ、と。また仕事で忙しくなりましたが、料理や縄跳びはこれからも続けようと思っています」
公演情報
アガサ・クリスティ生誕130周年
舞台版『オリエント急行殺人事件』
■演出:河原雅彦
Agatha Christie MURDER ON THE ORIENT EXPRESS
Adapted for the stage by Ken Ludwig
■出演:
椎名桔平 /
松井玲奈 松尾諭 室龍太(関西ジャニーズJr.)
本仮屋ユイカ 粟根まこと 宍戸美和公
中村まこと マルシア 高橋惠子
■公演期間:2020年12月8日(火)~27日(日)
■会場:Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
■チケット料金(税込):
S席11,500円 A席8,500円
コクーンシート5,500円
※コクーンシートは一部演出で
出演者や映像が見えにくいお席となります。
■チケット一般発売:
2020年11月15日(日)10:00
■主催:
エイベックス・エンタテインメント/
サンライズプロモーション東京
■企画製作:
エイベックス・エンタテインメント
■お問合せ:
サンライズプロモーション東京
☎0570-00-3337(平日 12:00-15:00)
■公式サイト:
『オリエント急行事件』公式サイト
取材・文/中沢明子 撮影/菅原有希子
ヘアメイク/石田絵里子 スタイリスト/野村昌司
ジャケット/¥49000+税/ Education from Youngmachines /ラブレス青山 TEL03-3401-2301
シャツ/¥22000/CULLNI/Sian PR TEL 03-6662-5525
パンツ/¥27000+税/ATTACHMENT/Sian PR TEL 03-6662-5525
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中沢明子 Akiko Nakazawa
ライター・出版ディレクター
1969年、東京都生まれ。女性誌からビジネス誌まで幅広い媒体で執筆。LEE本誌では主にインタビュー記事を担当。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)『遠足型消費の時代』(朝日新聞出版)など。