【書評】カツセマサヒコさんの小説デビュー作『明け方の若者たち』は、自分が大人になったなぁとあらためて確認できる一冊
2020.09.01
希望と不安が混じったあの頃に戻れる
ほろ苦い青春小説
『明け方の若者たち』カツセマサヒコ ¥1400/幻冬舎
Twitterのフォロワー数14万人以上の人気Webライター・カツセマサヒコさん。主にネットを中心に活躍してきた彼の小説デビュー作は、かつて誰もが経験してきたような、未来へのときめきや希望、挫折といった繊細な感情を描く、ちょっとビターな青春小説だ。
物語は今から10年近く前の2012年から始まる。主人公の「僕」は、大手企業への就職内定を勝ち取った大学4年生。「僕」は就活の勝ち組だけが集まれる飲み会で「彼女」と出会う。自意識や自己顕示欲の強い同世代の出席者に気後れしていた「僕」は、「彼女」に導かれるようにして飲み会を抜け出す。そして、その夜から二人はデートを重ね、恋人同士として付き合うようになっていくことに。
「僕」よりも少し年上の「彼女」は、人懐っこさとミステリアスさを併せ持った女性。そんな「彼女」との関係に「僕」はのめり込んでいく。その後、会社で働き始めた「僕」は、入社する前に思い描いていた仕事と現実の仕事とのギャップに苦しむように。夢のような恋愛と、「自分はこのままでいいのか」という焦りを抱えたまま、「僕」の20代の日々は過ぎていく。そして次第に「彼女」からの連絡が途絶えがちになり――。
今の私たちが、夢見がちだったあの頃を振り返ると、時間に余裕はあった分、まだ定まらないいろんなことに対して、漠然とした不安を抱えていたもの。「彼女」との恋の行く末や会社内での出来事に心揺れる「僕」の姿に、キュンとなってしまう人も少なくないはず。
著者のカツセさんは1986年生まれの33歳。大学卒業後、印刷会社に就職し、編集プロダクション勤務を経て独立と、作中の「僕」やその他の登場人物とプロフィールが重なる部分もたくさん。20代という限られた日々をひたむきに生きる「僕」に寄り添いつつ、「でも、まだこの先、長いから」と、思わず声をかけてあげたくなるのが、この本をLEE世代が読むと抱く感想かも。自らの青春を思い出しつつ、自分も「大人になったなぁ」と、あらためて確認できる一冊となりそう。
モデルの香菜子さんによる、年を重ねたからこそ実感できる、日々の暮らしの楽しみ方が詰まったフォトエッセイ
『毎日、無理なく、機嫌よく。』香菜子 ¥1300/すばる舎
人付き合いや体調管理などの工夫や新しい趣味への挑戦など、人生をイキイキと鮮やかに彩るためのエッセンスが満載。うまくいかないことが重なったとしても、香菜子さんのように「よし!」を合言葉に一歩前に踏み出す気持ちが湧いてくる一冊。
細やかな日常が綴られているコミックエッセイ
『グレさんぽ~猫とかキモノとか京都とか~』グレゴリ青山 ¥1182/小学館
著者は京都の郊外で夫と二人暮らし。
自宅へやってきた猫を保護したり、ため込んでいた古着やハギレのリメイクにハマったり、ミステリー小説の舞台を訪ねて国内をプチ旅したりと、細やかな日常が綴られているコミックエッセイ。まだ遠
出を控えておきたい今だからこそ、著者の、日々への好奇心いっぱいな目線に“お散歩欲”が満たされること間違いなし。
ゴリラの生態を例に挙げて、ヒトの「つながり方」を考察
『スマホを捨てたい子どもたち』山極寿一 ¥860/ポプラ社
京大総長でゴリラ研究者としても知られる著者。若い世代がスマホを使い、SNSへのコミュニケーションに依存しがちな現代に警鐘を鳴らすとともに、ゴリラの生態を例に挙げて、ヒトの「つながり方」を考察する。
デジタルメディアと現実世界とのバランスのとり方、人付き合いの方法などについて、親子で話し合いをするときの話のタネがそこかしこに。
取材・原文/石井絵里
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