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村上虹郎さんインタビュー「簡単に答えが与えられない作品だからこそ、映画館で感じてほしい」

2020.08.27

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デビューからたった6年とは思えないほど、すでに数々の映画で爪痕を残し、作家性の強い監督たちから難役を任される村上虹郎さん。スクリーンで放つ強烈な目力や個性からは、まるで予想外のクシャッと人懐っこい笑顔とトークで魅了する。そんな村上さんが『ソワレ』で演じたのは、役者を目指すも、なかなか芽が出ない翔太。しかもオレオレ詐欺の末端で日銭を稼いでいたりもする。

村上虹郎さん
「簡単に答えが与えられない作品だからこそ、映画館で感じてほしい」

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「翔太はしょうもないほど小さい人間ですが、本質はいい奴。きっと役者を目指すようになったのも、ちょっと有名になりたいな、というのが発端で(笑)。ダサい奴ですが、後々“人間みやカッコよさ”がポロッと出る瞬間のためにも、そのダサさとの振り幅が重要だと思いながら演じました」

“根はいい奴”を示すように、虐待する父親を衝動的に刺してしまった女性タカラの不幸を見かねた翔太は、咄嗟に彼女の手を取って逃避行の旅に出る。

「瞬間的に魔が差したというか、翔太は彼女の人生に責任を持とうとか、毛頭思っていなかったはず。逃げながらも“こいつと逃げる必要があったのか”と考えていたと思う。

いわゆる“普通の恋愛”ではない関係の中で、自分も疑問を抱きながら進んでいくのです」

タカラを救い出しはしたが、当然ながら警察の手が迫りくる。精神状態もだんだんギリギリになっていく状況下、不確定な関係の2人が不器用に互いを“必要とし合う”存在として自覚していく様子が、静かに心の琴線に触れる。

「2人が生きているのは、互いが対面し対峙している、とても狭い世界。目に見えるダイナミズムを描いた大作映画とは対極ですが、目に見えないもののダイナミズムを描くことに特化した作品だと思うんです。ポン・ジュノが『パラサイト』でアカデミー賞を受賞したとき、“最も個人的なことが最もクリエイティブなこと”と、かつてマーティン・スコセッシが語った言葉を引用しましたが、まさに本作にも通じることだな、と」

 

実は本作で映画初プロデュースを手がけたのは、俳優の豊原功補と小泉今日子。選んだテーマも監督も俳優陣からも、大いなる意欲が伝わってくる。ヒリッとした肌感覚は、映画を理解ではなく感じさせる刺激に満ちている。

「簡単に情報や答えが与えられるわけではなく、観客自らが探らなければならないから、観るのは疲れるかもしれない。セリフも本当に少ない本作のような作品こそ、映画館で観なければならない、観てほしいタイプの映画です」

そして自信を覗かせるかのように「究極の引き算は、掛け算になるということ」とニヤリ。その直後、「だって家だと、僕も海外ドラマばかり観ちゃいますもん」と破顔する。クルクル変わる表情やトークに、ギャップ萌え必至!

「外出自粛中、いつまでと期限を切られないと、自分ってこんなダメなんだってあらためて知りました。最初はあれを読もう、これを観ようと計画していたのに、結局ゲームと海外ドラマ三昧。後半は体を動かしたくて、哲学者でバンドマンの友人とソーシャルディスタンスをとりながら(笑)、キャッチボールしてました。昔、親父(村上淳さん)に買ってもらったローリングスのグローブを自分で買い直して。僕、野球少年だったんです」

PROFILE

むらかみ・にじろう●1997年3月17日、東京都生まれ。2014年に『2つ目の窓』で俳優/映画デビュー。主な代表作に『ディストラクション・ベイビーズ』(’16年)、『武曲 MUKOKU』(’17年)、『銃』(’18年)、『ある船頭の話』(’19年)など。『燃えよ剣』が公開待機中。

『ソワレ』

© 2020ソワレフィルムパートナーズ

役者を目指す翔太(村上虹郎)は、海辺の町の故郷にある高齢者施設で演劇を教えることになり、劇団員らと向かう。そこで働く女性タカラ(芋生悠)が父親から虐待を受ける現場を目撃した翔太は、衝動的に父親を刺した彼女を連れ、行く当てのない逃避行を始める。監督は『燦燦-さんさん-』の外山文治。8月28日よりテアトル新宿ほか全国公開。


撮影/平郡政宏(カウンタック写真部) ヘア&メイク/Hair Stylist TAKAI スタイリスト/望月 唯 取材・文/折田千鶴子 シャツ¥36000/コンテナストア(ランディ) ピアス/本人私物

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