“ほっこり”から“興奮で全身沸騰!!”まで
なぜ、なぜ、なんで⁉ これじゃ映画ファンが迷いに迷って大変じゃないか~!! と思わず公開スケジュール表を睨んでしまうほど、7月の第3週目は傑作が集中しているんです。どれもコレも、おススメ作品ばかり。
敬愛するフランソワ・オゾン監督作『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』、又吉直樹さんの同名原作の異色の恋愛映画で、不覚にもラストで号泣した『劇場』、我らが“マブリー”ことマ・ドンソク主演の『悪人伝』(マブリー作品だけで特集を組みたいくらい!)、LEE本誌で山田孝之さんに取材させていただいた(Webでも読めます)『ステップ』、さらに本誌でご紹介したブラジル映画『ぶあいそうな手紙』など、見逃せない佳作・秀作・傑作がズラリ。
そんな中、偏愛気味に前のめりで厳選したのは、次の3作品です!
またもスウェーデンからハートウォーミングな作品が飛び出した『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』。そして思わず目を見開く驚愕事項が満載の『誰がハマーショルドを殺したか』。さらにユーモラスな社会派ヒューマン映画『パブリック 図書館の奇跡』。この3本、とにかく面白いのです!!
『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』
ほっこり、そして感動がジワジワ染みてくる『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』は、日本でも映画がヒットした『幸せなひとりぼっち』(何とトム・ハンクス主演でハリウッド・リメイクが進行中ですって!)と同じ原作者フレドリック・バックマンが紡ぎ出した物語と知ると、なるほど、と納得です。
主人公は、笑顔を忘れた63歳の専業主婦、ブリット=マリー。仕事で多忙な夫のために40年も食事をつくり続け、家中をピッカピカに磨き、なのに夫は当然のことと感謝もしていないんです。いえ、彼女自身、それが自分の任務とばかり黙々とこなしてきました。ところが夫が出張先で倒れて駆け付けた病院には、愛人が付き添っていたのです。
もう、この冒頭だけで、私などは烈火のごとく鼻息をブーブー荒くしてしまいましたが、当のブリット=マリーは、「あら、まぁ、そうでしたか」と表情を硬くしたまま荷物をまとめ、スーツケース一つで家を出ていくのです。……なんか尊敬!!
衝撃を受けないはずはないですし、40年も主婦だけをしてきてなら尚さら途方に暮れて当然の状況だと思いますが、彼女は淡々と「それなら生活を変えよう」と静かに家を後にするのです。乾ききった40年もの夫婦生活が、感情を押し殺すことに慣れ切らせてしまったともいえるでしょうが、嘆き恨むでもない、この潔さに、観ていて憧れと気持ちよさを抱かずにいられないのです。
そうして彼女がたどりついた田舎の村で、ようやく見つけた仕事というのが、潰れそうなユースセンターの管理人、兼、子供たちの弱小サッカーチームのコーチ。もちろんブリット=マリーは、サッカーなんてまともに観戦さえしたことがないのですが……。ちょっと面白くなってきたでしょう!?
ド真面目で家事全般プロフェッショナルなブリット=マリーvsやんちゃざかりの子供たち。対立かと思いきや、いろんな村の人々との出会いによって、凸凹な関係性がハマりはじめるユーモラスな展開は、もう病みつきになる面白さ! 相手が子供ですから笑顔を封印している場合ではなくなり、どんどん生き生きと輝き始めるのです。さらに、ほのかな恋の予感も。
果たして予想通り、夫が「お前しかいない」と迎えにくるのですが……。さぁ、ブリット=マリーの人生はこの後、どうなっていくのでしょう!? ここから先は、ぜひ劇場で堪能してください。女性の生き方、人生を考え、かみしめたくなる、爽快な人生讃歌ムービーです。
『誰がハマーショルドを殺したか』
え、ドキュメンタリー⁉ 嘘でしょ、絶対にフィクション映画でしょ!? だって面白すぎるんですけど……と思わず資料を読み返してしまったくらい、興奮必至です。もちろん1961年に起きた“国連事務総長ダグ・ハマーショルドの乗ったチャーター機墜落事故”という実際に起きた事件を題材にしているわけですが、どうにもフィクションとしか思えないくらい、クスっと笑ってしまうような演出(美人秘書と会話する<演技やカメラを意識したポーズ>とか)が施されていたり、そうかと思うと途中で“嘘でしょ!? ”とのけぞるような恐るべき事実がゴロリと転がり出てきたり。
さて、まずは“ハマーショルドとは一体誰⁉”と思われる方が多いでしょう。1953年、47歳で国連事務総長に選任された彼は“反植民地”を掲げてアフリカ解放のために尽力したそうです。しかも「独立国は自国の力で進化すべき。大国が口をはさむべきでない」という信念や理想の持ち主だったそうですから……当然、アフリカ諸国から搾取し続けて来た大国から疎まれますよねぇ。恐ろしいですが。
そうして61年、コンゴ動乱の停戦調停のためコンゴに向かった彼の乗ったチャーター機が、ローデシア(現ザンビア)上空で謎の事故を起こし、ハマーショルド以下15人全員が死亡。詳しい調査が行われないまま、原因不明の事故として処理されました。もちろん、当時から暗殺説はずっと囁かれていたにもかかわらず……。
さて映画は、事件を匂わす資料を発見したデンマーク人ジャーナリストで本作の監督マッツ・ブリュガ―が、ずっと独自の調査を続けて来た調査員ヨーラン・ビョークダール(国連職員だった父親から引き継いで調査を続行!!その信念もスゴイ!)と共に、謎の解明に乗り出していきます。費やされた時間は7年! 遂に2人が掴んだのは、暗殺事件にとどまらない秘密の組織の存在と「黒人絶滅計画」!!
ここから映画は大きく別の方向に舵を切り、アフリカ大陸で行われてきた、世界中の大国が絡みついた恐るべき<大陰謀>の解明が試みられます。しかも、なんとAIDS発生にまつわる信じ難い証言……。本当の本当に事実なのだろうか!? どこかにフィクションが入り込んでいるのでは? 心は揺れ、揺れながらも震撼せずにいられません!
本作はサンダンス映画祭のドキュメンタリー部門で監督賞を受賞の他、数々の賞を受賞しました。ドキュメンタリー映画と構えずにハラハラと興奮しながらあっという間に観られるだけでなく、いつもは目にすることができない世界の暗黒な裏側をチラリと覗いたような、ヒヤッとする感覚を存分に味わうことができます。まさかまさかの事実に、思う存分、心を揺らし、衝撃を受けてください。
『パブリック 図書館の奇跡』
自由に誰もが本を借りられる公共の図書館を舞台にした、笑ってホロリとなるハートフルな社会派感動作です。舞台は、記録的な大寒波が到来したオハイオ州シンシナティの公共図書館。あまりの寒さに行き場を失ったホームレスたちが、一夜を過ごそうと図書館のワンフロアを占拠しようとするのですが……。
ホームレスが図書館を占拠すると聞いて、私たち日本人はどう思うでしょうか? けしからん、と思う? それとも命のためだから開放すべきと思う? そんな自分の価値観や倫理観や人間性も試される作品でもあります。
実直な図書館員スチュアートは、追い出さないでくれと懇願するホームレスと、それを阻止する図書館側との間に立たされてしまいます。彼は前日も図書館の近くでホームレスが凍えて命を落としたことを知っている上、図書館の常連でもあるホームレスたちと日々言葉を交わしているので、無下に断ることができません。そして遂に、彼らにシェルターとしてワンフロアを提供しようと、占拠協力を決めるのですが……。
機動隊を投入してホームレスを追い出そうと目論む、次期市長を目指す冷酷な検事を、クリスチャン・スレイターが憎々しいいい味で演じています。一方、立てこもり犯(勝手にスチュアートは立てこもりを扇動したと主犯にされていく(笑)のですが)との交渉を担当する警察官にアレック・ボールドウィンと、なかなかに豪華な面々が揃っているのも大きな見どころです。
そしてスチュアートを演じるのは、監督でもあるエミリオ・エステベス。約10年前に監督した、実父マーティン・シーンを主演に据えた父と息子のロードムービー『星の旅人たち』も記憶に新しいエスベテスですが、元は『アウトサイダー』『セント・エルモス・ファイアー』などの青春映画で一世を風靡し、 “ブラット・パック” と称された若手スターグループの中心人物でもあった人物です。そんな昔のことを知ると余計、今こんな慈愛に満ちた映画を撮るようになられたのだなぁ、と感慨ひとしおです。
さて立てこもりの顛末は――。このオチは“甘い!”と言われたら少々そうかもしれませんが、人の優しさや信頼や愛情をどこまでも信じたくさせてくれる、とっても優しい味に、これまた“ほっこり”。訴訟社会であるアメリカらしさも覗けたり、日本とは違う展開に、なるほどなぁと唸ったり、世界中で広がる人種差別問題とも重なるテーマが流れていたり、色んな意味で今、とても心に響く作品です。
東京をはじめ首都圏中心にコロナ感染者数が増加している昨今、なかなか外出に前向きになれない人もいらっしゃると思いますが、意外に劇場は快適! 実は私も使用席数を半分以下にしている試写室で、前の方の座高で字幕が見えない~なんてことが全くなく(笑)、すこぶる快適を味わっています。
むしろ密を避けて涼を取れる、そんな場所になっているので、この週末は是非ともこれらの映画で、心に潤いをたっぷり注いでいただけたら嬉しいです!
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。