多岐にわたる活躍をしながら、正統派“映画女優”という印象を保ち続けている長澤まさみさん。近年ますますスクリーンで存在感を強めているが、またも“チャレンジングな役”とうならされたのが、主演映画『MOTHER マザー』。働こうともせず、親に縁を切られるも息子に執着し、社会の闇に落ちていく秋子を、長澤さんは容赦ないリアルさで演じ切った。
長澤まさみさん
「今年はなぜか母親役が続く“母親Year”なんです!」
「秋子は動物的な感覚で生きている人なんだろうな、と思いました。そんなふうにしか物事を見られないのは、少しかわいそうだなと。演じながらも秋子のことをわかり得ませんでしたが、監督に言われたことやその場で感じたことを大切にし、私と素直に対峙してくれる子役たちのお芝居に、自分のお芝居も引っ張ってもらった感じです」
阿部サダヲさん演じる内縁の夫との出会いや別れの中で、いつしか幼い周平も成長する――。次第に秋子から若さは抜けるが、倦んだような色気がまとわりつく。その変化、徐々に変貌する演技が素晴らしい!
「見た目的なことはメイクさんはじめ周りの方々にお任せした部分ではありますが、“そろそろこれを始めようか”など相談しながら作っていきました。日々“いい感じで汚くなってるね~”と褒められる、珍しい現場でした(笑)」
ある種、特殊な母親像ではあるが、秋子を演じるにあたって、観察したり参考にしたりした話などはあったのだろうか。
「ちょうど舞台を観に行ってお会いした斉藤由貴さんに“母親は初めから母親だったわけではなく、子どもが生まれた瞬間、初めて母親となり、手探りで母親というものになっていく”とお聞きして。お互いに成長していくのが親子という関係なのか、と。親子として互いにどう影響を与え合えるかが重要なんだ、と深く納得しました」
実際に起きた事件に着想を得て、大森立嗣監督が手がけた本作は、観る者の感情をざわざわと揺り動かす。その根底に描かれるテーマは、深い。
「自分もそうでしたが、母親の存在は子どもにとって計り知れないほど大きい。それを踏まえて観て初めて、この作品の本当の怖さを知ることになる。そういうことを感じてもらえたらうれしいです。人との関係性の正誤なんて人それぞれの考えによりますが、よくしていけることは必ずあるはず。私も、人ごとではない、こういう事件を見過ごしてはいけない、と強く感じました。そういう問題提起をしている作品だと思います」
本作もしかり、全力でアウトプットし続けている長澤さんは、肝心のインプットはどうしている?
「ずっと走り続けているわけではなく、要所要所でインプットできているんですよ。以前より時間の使い方もうまくなったし、大人になって友達も増え、心にも時間にも余裕ができて。お友達と会ったりする中で元気をもらってます」
お料理も大好きな長澤さんは、ひとり時間も充実しているよう。
「初めて好きになった芸能人の、ともさかりえさんのレシピが大好きで、リピートしてよく作ります。好きな料理家さんのレシピを参考に作ることも多い。先日も濱守球維さんのレシピで餃子を作りましたが、すごくおいしかったです」
Profile
ながさわ・まさみ●1987年6月3日、静岡県生まれ。近年の主な出演作に『マスカレード・ホテル』『キングダム』(ともに’19年)など。公開待機作に『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(7月23日公開予定)、『シン・ウルトラマン』(2021年公開予定)。
『MOTHER マザー』
その場しのぎで生きてきたシングルマザーの秋子(長澤まさみ)は、息子の周平(奥平大兼)に異常な執着を見せる。こんなゆがんだ母の愛情しか知らない周平は、必死で母の望みにこたえようとするのだが……。17歳の少年が祖父母を殺害した実際に起きた事件から着想、親子関係のあり方を問う衝撃作。監督は『日日是好日』の大森立嗣。全国公開中。
撮影/平郡政宏(カウンタック写真部) ヘア&メイク/小澤麻衣(mod’s hair) スタイリスト/木村真紀 取材・文/折田千鶴子
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