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【書評】黒田小暑『まったく、青くない』大学生4人の熱量の高い青春に、大人が痛感させらることって? 他3編

2020.03.17

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大学生4人の熱量の高い青春に
あの頃を思い出してしまう
『まったく、青くない』黒田小暑 ¥1500/小学館

学生時代に感じていた憧れや不安。そしてモヤモヤとした感情。日々のタスクに追われる私たちにとっては、遠くなってしまった気持ちだけれども、たまには“あの頃”の繊細な気持ちに触れて感動したい! 本著は、読み手のそんな期待にこたえてくれる青春小説だ。作者の黒田さんは、1994年生まれの小説家。今作が本格的なデビュー作ということもあり、行間からあふれる、瑞々しさにも刺激をもらえる。

お話の舞台になっているのは、東京の端っこにある、小さな私立大学。ミュージシャン志望のギンマ、秀才のサミン、生真面目な性格のランジ、そしてギンマの追っかけを自称する女子・ハルの4人が登場する。サミン、ランジ、そしてハルは、それぞれがギンマの歌声に惹かれたのがきっかけで、ギンマも含めて、一軒家で共同生活を送り始める。聴く者の心を揺さぶる歌声を持ち、自主制作した一枚のCDが好評を得たギンマだが、新作が作れないことと、自分みたいな薄っぺらい人間がプロとして食べていけるのかという悩みを抱えていた。そして彼を支えるルームメイトたちも過去への思いと、将来への悩みを抱えながら、大学卒業までの残り少ない時間を過ごしていく――。

“仲よしの大学生4人がシェアハウスで生活”という設定は今どきっぽく、そこで繰り広げられる内容については、どうしても爽やかな青春を思い描いてしまう。けれども本著で描かれる大学生たちの日常生活は、おしゃれでもなく、どこかずる賢かったり、知らないうちに危険な世界に足を踏み入れていたり……。対人関係でも、あえて相手の地雷に踏み込んでしまう。とにかく不器用さだけがきわだつ4人。

彼らの熱量の高さに触れるにつれて、「あ~、青春ってこういう痛々しい時間の連続だったな」と痛感させられる人も多いはず! “日々をうまく回すこと”に慣れてしまった大人だからこそ、若者たちの葛藤に触れてみる価値がありそう。彼らの真っ直ぐさは、もしかしたら今、自分がモヤモヤしている何かを打破するヒントにもなるかも?

 

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取材・原文/石井絵里

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