“イクメン”という言葉もかなり定着してきましたが、日本で実際に育児休業を取得する男性はたった5.14%にすぎません(厚生労働省「平成29年度雇用均等基本調査」より参照)。小泉環境大臣が、2週間の育休を取得することが話題になりましたが、「男性ももっと育児休業を取ってほしい!」と思っている人は、多いのではないでしょうか。
イクメン先進国といえば、北欧のスウェーデンが有名です。2017年から日本全国を巡回している、スウェーデンのパパの育児の様子を写した写真展『スウェーデンのパパたち』のクロージングイベントがスウェーデン大使館で行われました。
スウェーデンは育休16ヵ月! 男女3ヵ月ずつ取得が義務
登壇したのは、駐日スウェーデン大使のペールエリック・ヘーグベリさん、一昨年9月から男性社員の育児休業完全取得制度を実施する積水ハウスの代表・仲井嘉宏さん、イケア・ジャパン代表ヘレン・フォン・ライスさん、ジャーナリストの治部れんげさん。積水ハウスとイケアで、実際に育休を取得した男性社員が登壇し、意見を交わしました。
ペールエリック・ヘーグベリさんの挨拶から、イベントはスタートしました。
「スウェーデンでは、1970年代初めに育休制度が設けられました。子育て・出産のサポートでは先進国かもしれませんが、課題もあり、育休を取得しているのは男性3割、女性7割という事実もあります。16ヵ月の育休を夫婦それぞれが最低3ヶ月ずつ取得するのが義務で、残りはシェアします。育児休業の取得は、子供たち、そして親の権利であり、父親が子育てに参加する権利があることを意味します」
左からペールエリック・ヘーグベリさん、仲井嘉宏さん、ヘレン・フォン・ライスさん、治部れんげさん
次に治部れんげさんがナビゲーターとなり、企業側からの育休、父親の育児参加をテーマに話します。
“正しいパートナー”選びが大切だと話すのは、イケアのヘレン・フォン・ライスさん。
「女性としてキャリアを考えるときに、仕事や子育てについての考えを共有できる“正しいパートナー”を選ぶことが最大の課題です。どのような会社を選ぶかも同じで価値観の共有です。イケアでは、ダイバーシティ、多様性、男女平等を掲げ、それが成功する条件だと考えます。5年後までに経営陣も男女半分ずつになることを目標に掲げています」。
男性の結婚観の変化。夫婦が対等な立場で、家事・育児を行う
続いて、積水ハウスの仲井さん。男性の育児休業制度を始めたきっかけについて話します。
「ストックホルムでスマートシティの見学をした時、公園で見たある風景がきっかけです。公園でベビーカーを押していたのが全て男性だったんです。帰ってすぐ、わが社でも育児休業制度ができないか社内で検討しました。当初3カ月の予定で、1500名の対象者が取得することをシミュレーションすると、今期の決算が危ないと。ということで、まずは1カ月から始め、分割取得できるようにしました。30代の男性社員の結婚観は、昔と大きく変わっています。夫婦が対等な立場で、家事や子育てをやることが暗黙の了解になっています」。経営トップが、こういった意識でいてくれるとは、心強いですよね。
パパ社員が育休を取得してみた! どうやって?
次に、実際に育休を取得した男性社員が話します。積水ハウス、イケア・ジャパンそれぞれでマネージメントに携わっている2人が育休取得時のエピソードを語ります。
まずは、積水ハウスの大村孝史さん。「育児休業を取得した時、課のメンバーは女性3名で全員が育休経験者でした。取得前に2カ月間の準備期間を設け、まずは業務の洗い出しを行い、業務のスリム化を行い、上司と他部署に分担しました。誰もがスムーズに育休が取得できるように、業務のフォロー体制を作ることが、今後のために必要だと判断しました」。
次にイケアの澤田裕介さん。「イケア仙台のストアマネジャーとして、200名の従業員を抱え、お店の運営全般を行っています。育休を2回取得し、第一子の時に1カ月、第二子の時に2カ月取得しました。会社のカルチャーとして育休に理解があったため、チームのメンバーもすぐに理解してくれました。仕事は、事前に誰に何をお願いするか明確にし、代理を立てずに、ワークシェアリングを行いました」。
左から澤田裕介さん、大村孝史さん、治部れんげさん
育休中は「毎日があっという間」「仕事より大変」というパパの声
育休を取得した感想、当時の思い出をこう振り返ります。
大村さん 「毎日がとにかくあっという間でした。朝に長女を幼稚園に送り、その後に息子と遊んだり図書館に行ったりして過ごしました。冬時期だったので病院に行ったり予防接種をしたりしましたが、大荷物と子供2人を連れての病院は、とても大変でした。一番幸せだったことは、2人の子をお風呂に入れた後、娘の髪を乾かしながら、“今日楽しかったことベスト3”について話したことです。大変だったことは、公園に遊びに行った時に帰りたがらず、ものすごく泣いてしまって周りから『誘拐しているんじゃないか?』と思われたことです(笑)」
澤田さん「妻も育休中だったので、2人目の育休取得時は上の子のお世話をメインでやっていました。習い事に連れて行ったり、スイミングでプールに一緒に入ったり。今でも覚えているのは、プールで周りがお母さんばかりで、『この人何をやっているんだろう?』という目で見られたことです(笑)。1日が早かったですね。仕事に戻ったときも、正直言うと『仕事の方が楽かも』と思う瞬間もありました(笑)。何気ない日常、時間を子供と過ごせたのは良かったです。親子の絆も深まったと思います」
育休取得によって、仕事面でのメリットも
育休を取得したことで、仕事面でも新たな気づきがあったと言います。
大村さん「僕が仕事復帰した1週間後に、娘と息子、妻が胃腸炎になり、身動き取れなくなりました。その経験のおかげで、社員の子供の体調が悪くなった時にも、自分自身の経験を踏まえて『すぐに帰ってあげてください』と言えるようになりました」
澤田さん「いろいろなお客様、特にお母さん世代の気持ちがわかるようになりました。ママ世代はイケアのコア・ターゲットでもあるので、どんなお店づくりをするか、どんなイベントを企画したら喜ばれるかなどについても生かされていると思います。また多様な従業員がいる中で、従業員に対しても死角がなくなったと思います」
育児で感じることは、パパもママと同じ
最後の締めくくりとして、治部さんがまとめます。
「私は男性の育児参加を15年ほど取材しています。以前は、制度も風土も整っておらず、意識を強くし、戦いながら取得していたように感じました。2人の育児経験の話はママの感想と同じで、とても自然だなと感じました。育児をすることで感じることは、男性も女性も同じなんですよね。育休が自然に取得できるように、会社の制度や風土、文化、まわりの応援、本社からのサポートを進めていくことが大事だと改めて思います」
男性が育休を取得しやすい、企業の制度や風土づくりが大切
育休を取得した2人が声を揃えて言うのは、「企業の制度があったからこそできた」ということでした。企業側は制度を整えながら、育休を取得しやすい風土や文化を作っていくことが大事だと改めて感じました。また、育休を取得することでビジネス面にも多くのメリットがあり、プライベートでも夫婦間での育児や家事への理解や共有にも役立ちます。スウェーデン、そしてイケアや積水ハウスにならい、企業はもちろん社会全体として、さらに男性社員の育児休業取得が進むことを期待したいと思います。
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武田由紀子 Yukiko Takeda
編集者・ライター
1978年、富山県生まれ。出版社や編集プロダクション勤務、WEBメディア運営を経てフリーに。子育て雑誌やブランドカタログの編集・ライティングほか、映画関連のインタビューやコラム執筆などを担当。夫、10歳娘&7歳息子の4人暮らし。