コアなドラマ好きからも「今、おもしろい脚本と言えば!」と名前が挙がる野木さん。自身の作品や執筆の際に意識していることを聞きました!
テレビドラマだから辛い中でも“温かさ”のあるものを
● 野木亜紀子さん
’74年生まれ。’10年にフジテレビのヤングシナリオ大賞を受賞し、デビュー。’18年に放送された『獣になれない私たち』で第37回向田邦子賞受賞。ドラマは見るのも大好きで、テレビ業界にいる利点は「いつでもドラマの話ができること」と言うほど。
「昨今のドラマ界を変えた」とも言われている脚本家の野木亜紀子さん。小説や漫画の原作もの、オリジナル脚本、どちらもメッセージ性がありながら、見終わってから温かい気持ちにさせてくれる作風が特徴です。
「辛い中でも、どこか“温かさ”を残しています。それはテレビドラマだから。私は映画の専門学校出身で、卒業後はドキュメンタリー制作会社で働いていました。映画やドキュメンタリーは最後が残酷だったりモヤモヤしてもいいけれど、ドラマは違う。シリアスな題材を扱う場合も、見終わったときの気分は意識しています」
その背景には野木さんの“いちドラマ好き”としての体験もありそう。
「社会人になって、あんなに好きだった映画館に足を運ぶ余裕もなくなっちゃって。たまの休日は録画していたテレビドラマを朝から晩まで見るのが唯一の幸せ、みたいな時代が続いたんです。当時は1日12時間ぐらい見ていました(笑)」
野木さんは「自分のドラマを見る目を信じている」とも!
「今は“辛い話”が難しい時代なのかなと感じます。少し前までは、ひどい話のドラマっていっぱいありましたけどね(笑)。去年放送された『獣になれない私たち』は、ブラック上司のもとで働く女性が主人公だったのですが、“彼女が、かわいそうすぎるのでは”という意見も聞きました。私は、私のような視聴者の方の見る目や感覚を信じているし、時代に照らし合わせて今こうしたドラマも必要なんじゃないかと思って『獣になれない私たち』を書きました。誰にとってもわかりやすく、共感しやすいものばかりだと、想像力が必要ない、平均的なドラマばかりになってしまう。じゃあどうすればいいのかというと、結局自分のおもしろいと思うものを書いていくしかないんです」
もうひとつ野木さんの脚本の魅力は、時に痛いほどのリアリティ。
「脚本家を目指しながら派遣社員として働いていた時期も長くて、その間の経験も大きいと思います。世の中には、まあ本当にいろいろな人がいるわけです(笑)。はじめに入った映像業界は、できない人は置いていかれるような空気で、それが当たり前でした。でも派遣でいたある会社は、『どんな人でもどこかに受け入れる場所がないと。それが会社であり社会なんだ』と本気で語る部長がいるところで。上司が『怒る』人から『まかせる』人に変わって、できない人が仕事ができる人になっていくのも見ました。そんな経験が脚本にも生かされていると思います」
そしてこれからも、こんな気持ちで物語を書いていきたいのだそう。
「ドラマは絵空事だし、絵空事を楽しむものだとも思うんです。ただその中に、何か本当のところを作りたいとは努力してます。セリフでも、感情でも、なんでもいいんですけれども、“どこかで目に見えないリアルをつかみ取ろう”という気持ちで新作も執筆中です」
では、野木さんが気になる脚本家は?
「最近では『腐女子、うっかりゲイに告コクる。』を書いた三浦直之さん。原作はあるのですが、テレビドラマの中では珍しくゲイ・レズビアンをしっかり扱った作品で、素晴らしかったです」
待ちきれない! 1月スタートの新作『コタキ兄弟と四苦八苦』
「偶然にも、今回の特集で取材されている『ドラマ24』の枠で書きました(笑)。古舘寛治さん、滝藤賢一さんのW主演で、監督は映画『リンダ リンダリンダ』などの山下敦弘さん。少し残念な兄弟と"苦"を味わうコメディで、ほぼ毎週ゲストも出るのでご期待ください」
本人セレクト・自薦コメント付き! LEE読者のための野木作品ガイド
未来を向いた新しい切り口の法医学ドラマ
『アンナチュラル』
「不自然な死の原因を解明する架空の研究機関が舞台。法医学ものは死者の言葉を聞くというスタンスのドラマが多いのですが、今を生きる人のための未来志向のドラマにしたくて、『法医学は未来のための仕事』というセリフが生まれました。エンタメ作品なので、医療ものが苦手な方もぜひ」。DVD、配信で視聴可能。
なかなか知り得ない世界を覗く楽しみも
『空飛ぶ広報室』
「テレビ局と航空自衛隊を扱ったお話で、有川浩さんの小説が原作です。普段は知ることのできない世界と、いろいろな人の働き方が覗けますし、甘酸っぱいラブも展開されます(笑)。今や個性派俳優として大活躍中のムロツヨシさんもご出演されてます」。DVD、配信で視聴可能。
主題は表現の自由。キャストにも注目!
『図書館戦争 BOOK OF MEMORIES』
「これも原作は有川浩さんの小説です。放送は数年前ですが、"表現の自由"というあらためて考えたいテーマを扱った話。作品に出演している岡田准一さんの凛々しさ、榮倉奈々さんの可愛らしさ、そして今をときめく田中圭さんの姿も楽しめます」。DVDで視聴可能。
"いい人"に疲れたら見て、感じてください
『獣になれない私たち』
「主人公はブラック上司のもとで働く女性ですが、"腹が立ったら怒ったっていい""疲れてるのに笑わなくたっていい"というメッセージも込めています。無理しないように。嫌だったら逃げて。ラクにいこうよ。というのを感じていただければ」。DVD、配信で視聴可能。
※今回の特集内の情報は、10月15日時点のものです。
撮影/名和真紀子 イラストレーション/鈴木あり 取材・文/石井絵里
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