男と女、官能と極限の愛を描く『火口のふたり』 。W主演の柄本佑さん&瀧内公美さんに直撃!
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折田千鶴子
2019.08.21
脚本家として名高い荒井晴彦監督作
世界が終わるとき、どこで、誰と、何をしていたいか――。なんてこと、考えたことはありませんか? 映画やドラマや小説などを通して、きっと誰もが一度は考えたことがあるとは思いますが、映画『火口のふたり』を観終えた後、暫し、その問いがグルグルと頭を回らずにいられないと思います。……というよりも、映画の中の2人に羨望を覚えるというか、2人が眩しいというか。
以前も本コーナーに登場していただいた怪物級の演技派・柄本佑さんと、超美人かつ肝の据わった本格派女優・瀧内公美さんが、清々しいほどリアルな官能描写を織り交ぜて、男と女の真実、その究極の愛と業を炙り出してくれた映画『火口のふたり』。
LEE読者の大人の女性にとって、もう、大必見作です! ということで、W主演のおふたりに本作の見どころを直撃しました。
<STORY>
離婚し、仕事もうまくいかず、冴えない日々を送っていた賢治(柄本佑)は、元カノの直子(瀧内公美)の結婚式に出席するため、故郷の秋田に帰って来る。久々に再会した賢治に、直子は恋人同士だった頃の懐かしいアルバムを見せる。若さをぶつけ合うように激しく愛し合っていた頃の写真を眺めながら、直子は「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」と突然、誘いかける。体を重ねた2人は、直子の婚約者が帰ってくるまでの5日間だけと約束し、快楽に溺れていく――。
――何となく鬱屈とした現在の日本で、本能や欲望のままに飛び込める2人の姿が、なんかもう天晴れ!と気持ちが良くて、清々しいような感動さえ覚えました。
瀧内「“こういう社会だからこそ”というようなことはあまり考えず、この脚本がやろうとしている――本能のままに生きる、人間を映し出す、そしてエロス――をやっただけではあるのですが、演じてみて、“心と体が繋がっているって、いいなぁ”と思いました。自分がどう生きたいかが大切である、ということが伝わる映画じゃないかな、と」
柄本「僕も、単純にホン(脚本)を読んで、すごく面白いと思っただけで、すごいことやってやるぞ、という意識は全くなくて。現場ではスタッフ全員が“荒井晴彦組でやれる幸福感”みたいなものを感じているな、と思いました。1シーン撮り終わるごとに、また1歩、荒井監督の新作(の完成)に近づいたぞ、と共通して思いながらやっている感覚でした」
瀧内「20歳くらいの知人に、この映画を観に行ってもらったんです。そうしたら彼女が、高校時代に好きだった人に会いたくなった、と言っていて。そういうことを感じてくれるんだな、って思って嬉しかったです」
柄本「それ、嬉しい伝わり方ですね!」
原作:白石一文 × 監督:荒井晴彦
原作は、直木賞作家・白石一文さんの同名小説です。意外なことに、著作初の映画化だそう。荒井晴彦監督は、脚本家として数々の名作を生み出されて来られた方。『ヴァイブレータ』『共食い』『海を感じる時』『さよなら、歌舞伎町』『幼な子われらに生まれ』など、枚挙にいとまありません。監督としては、『身も心も』『この国の空』に続き、本作が3作目となります。
――白石一文さんの原作、そして荒井晴彦監督による脚本を読んだ感想を教えてください。
柄本「脚本を先に読み、その後で原作を読んだのですが、脚本と原作はさほど違いがなく、台詞も原作とほぼ同じなんです。それなのに、脚本では既に荒井さんの言葉になっている、ということに、すごく驚いて」
瀧内「原作には、キャラクターがその時に感じた気持ちなどが書かれているので、役を作っていくときの助けになりましたが、私も全く同じ印象です。脚本は、濡れ場のシーンに関しても、すごく事細かに書いてあるんです。そこも原作と同じですが、やっぱり一貫してエロスを描いてきた荒井さんのホン(脚本)になっている、それがすごいな、と感じました」
柄本「荒井さんの台詞って、ナチュラルよりフィクション寄りというか、少し硬いのですが、それを実際に喋ってみて、すごくチャーミングだと感じたんです。荒井さんが書かれる男性はみなチャーミングなのですが、ただチャーミングなだけではない。一周して、すごい大人な台詞だと一つ一つ思いました。特に語尾などが」
瀧内「しかも、原作とはまた違う楽しみ方が出来る作品になっていました」
ベッドシーンはまさにアクション
――それにしても出演者は2人のみ、というのもずっと出ずっぱりで大変でしたね!!
柄本「2人しか出ていないし、かなり会話するので、うわ、台詞多いな、と(笑)。しかも撮影期間はたった10日。とても10日間で喋りきる量じゃないぞ、とは思いました」
瀧内「ずっと喋り続けているので、夜、のどが痛くなるんですよ(笑)。でも撮影が始まる前の方が大変でした。台詞だけでなく、動作や仕草まで事細かに書いてある脚本だったので、それを全て覚えるというのが大変でした。濡れ場もすべて事細かに書かれていて」
柄本「それこそ、挿入のタイミングから愛撫の仕方から、全て。既に脚本の段階で、演出に入っている感じでした」
瀧内「一歩間違えると怪我になりそうなシーンもあるので、動きを頭に入れ、シュミレーションしながら台詞を覚えなければならなくて。現場では、“あれ、ここでどう動けばいいんだっけ?”と確認しながら進めていましたよね(笑)」
柄本「そうそう(笑)。(スタッフさんが)セッティングしている間に、2人でベッドシーンの動きを確認して。“こうなった後、どう動くんだっけ?”“こうです”みたいな(笑)。まさにアクションシーンでした。でも後で、あれは役者に対しての指示というより、元々脚本家の荒井さんが、書いてあること以外、余計なことをしないでくれよ、という監督に対するけん制だったのかもしれない、でも今回、ご自分が監督もされているよな、と(笑)。実は役者がもう少し、現場でフレキシブルに変えても良かったのかも、と気づきました」
男と女の違いが浮き出る大切なシーン
――賢治と直子が“恋人同士だった頃”のアルバムを見るシーンがありますが、あの写真がいい具合に存在感を映画の中でも放っています。
柄本「本編の撮影ひと月前に写真撮影をさせてもらったのは、時系列的にも、2人の関係性の上でもすごく良かったですね。でもお会いして2、3回目に、いきなり濡れ場カットの撮影で(笑)。そういうときも瀧内さんの居ずまい、佇まいが“なんでもどうぞ”と男前だったので、すごく助けられました」
瀧内「さすがに最初は緊張して手が震えてしまったんです。そうしたら柄本さんが“ハイ、こっちおいで”と両手を広げてギュっと抱きしめてくれて。そこから何の不安もなく、撮影に臨めたんです」
――監督に泣いちゃダメと言われても、瀧内さんがどうしても涙が止まらなかったシーンがあったそうですね。
瀧内「“賢ちゃんのことが好きだったから”という台詞のシーンですね。“お前、ああいうの(セックスの話)好きだっただろ”と言われて、返す台詞ですが、どんどん泣けてきちゃって。原作を読んだときから、とても印象的だったシーンで」
柄本「男って超バカだな、という場面でもあるんですよ。“え?好きでやっていたんじゃなかったの?”って(笑)。それこそ男性と女性の違いがハッキリ出たシーンですよね。僕も荒井さん同様、あのシーンでは泣かないと思っていたので、“うわ、泣くんだ!!”と」
瀧内「西馬音内盆踊りへ2人で小旅行し、どこかファンタジーのような旅行で(関係を)淡々と終わらせるのか、と思ったら泣けて来て。ちょっと違うような気がしてしまったというか、終わらせたくない、と思っちゃったんです。女って現実的だから、ちゃんと気持ちを伝えなければ、と思って」
柄本「男性側からすると、泣かずにサバサバしていると思っていたんです。でも、現実ではやっぱり泣くんだ、と。非常にエモーショナルなシーンになってますよね」
官能と青春のエネルギーがスパーク!
――離れられない2人の姿にドロッとした暗さはなく、むしろ無邪気でエネルギッシュで、本当に見応えのある作品になっていますよね!
瀧内「時間を掛けて準備をして撮ったということ、すべてスタッフのみなさんの熱量のおかげだな、と思います。絡みのシーンも多いですが、ただエロいだけではない。しっかり男と女というものを描いているからこそ、作品に重みがあり、心の奥に響く作品になったのだと思います」
柄本「とにかく誤魔化しがないですからね。賢治40代、直子30代中盤という原作より、だいぶ年齢設定を下げたのも、抜けの良さになったとも思います。それにより観る人の幅も広がったかな、と。上の世代の方から僕らの下の世代まで、大きな振れ幅になっている。この物語にして、確かに明るさのある作品になっていますよね」
思わず笑ってしまうようなシーンあり、切なく胸がキュ~ッと締まる瞬間もあり、無邪気にセックスに没頭した青春が懐かしくなる感慨もあり……。生の実感と、訪れる死の足音と。この世なのかあの世なのか、フと分からなくなるような詩情も流れ込んでいて……。
とにかく演技派2人が全身全霊で演じきった、まさに天晴れな素晴らしい映画を、ぜひ、劇場でご覧ください!
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。