アジアのジャズ人気を牽引するボーカリスト、韓国のMoonが新譜『Tenderly』をリリース!
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中沢明子
2019.07.30
WINTERPLAYのボーカリストからソロになって
韓国の人気ジャズ・ボーカリストとして、ワールドワイドに活動している、Moonさん。前作のファーストソロアルバム『Kiss Me』は香港のヒットチャートで、あのテイラー・スウィフトを抑えて1位を獲得したというから驚きです。というのは、日本もそうですが、特にアジアでジャズというジャンルでヒットチャートを駆け上がるのは、なかなか難しいこと。伸びやかで涼しげ、かつアンニュイな彼女の歌声がジャンルや国境を越えて、人々の心に届くからでしょう。
私は9年前にMoonさんにインタビューしています。その頃、彼女は『クァンド、クァンド、クァンド』のヒットで知られる、韓国NO1ジャジー・ポップ・ユニット「WINTERPLAY」のボーカルとして活躍しており、アルバム『サンシャイン』のプロモーションで来日した折でした。カラフルで軽やかな作品で、今でも大好きなアルバムです。インタビューもとても楽しかった思い出があります。
そんな彼女が先日、セカンドソロアルバム『Tenderly』を発表。誰もが知る曲から、少しマニアックな曲まで、絶妙なバランスの選曲としっとりとした歌声が光るカバーアルバムでした。そこで、プロモーションで来日すると聞き、9年ぶりにお会いしてきました。LEE世代でもあるMoonさん。クールビューティーですが、茶目っ気もあり、親しみやすい人柄が魅力的。8月16日に行われるライブで再来日する予定だそう。会場は、ロケーションが素敵なモーションブルー横浜。お近くの方は、ぜひ足を運んでみてくださいね!
Moon:わお、ネイル、とてもきれいですね!
――あはは、ありがとうございます。Moonさんのメタリックなグリーンのネイルも、とても素敵です。ネイルは大事ですよね(笑)。
Moon:ええ、大事だと思います(笑)。
――ネイルのおかげで、さっそく言葉と国境の壁を越えられて良かったです。私は9年前にもインタビューしましたが、当時はヘウォンさんという名前でいらっしゃいました。ソロデビューにあたって、Moonというアーティスト名にした理由をお聞かせください。
Moon:9年前……私もまだ若かった頃ですね(笑)。アーティスト名を変えた一番大きな理由は、誰にでも覚えていただきやすい名前が良いと思ったからです。もちろん、心機一転の気持ちを表す意味もありましたが、何よりも覚えてもらいやすく、発音もしやすい名前にしたかった。本名のムン・ヘウォンは海外の人々が発音しにくいですから。そして、ムンという発音がmoonと響きが似ているので、以前から月に親近感を持っていました。ですから、Moonという芸名はすんなりと決めました。
――WINTERPLAYは素晴らしいユニットだと思いますが、ソロになってユニットとの違いをどのように今、感じていますか。
Moon:そうですね、WINTERPLAYという素晴らしいユニットの一員として活動できたことを感謝しています。ソロになったのは、自然とそうした時期がきたからです。ミュージシャンにはそういう時期が誰しもあると私は思いますが、自分の名前で作品を作ってみたかった。その願いが叶えられたことにも感謝しています。もちろん、ソロ・アーティストは自分で作品作りを考えなければなりませんから、大変です。そこがやはり、ユニットとソロの大きな違いですね。
でも、私は幸運にもご縁がつながり、昨年出したファーストアルバム『Kiss Me』で伊藤ゴローさんにプロデュースしていただきました。ゴローさんは以前から、尊敬するミュージシャンでしたから、とてもありがたかった。おかげで良い作品ができましたし、多くの方に聴いていただけました。そして、2枚目となる今回もゴローさんがプロデュースを引き受けてくださいました。1枚目でダメなアーティストだと思われたら、きっと2回目はないでしょう? ゴローさんに少しは良いアーティストと評価してもらえたのかな、と自信になりました。ゴローさんは口に出して何もおっしゃってくださいませんが、私はそう思うことにしています(笑)。
Moon『What Can I Do』 (Short Music Video)
ロックの曲をモダンなコード進行のジャズに
――韓国のアーティストであるMoonさんが、以前から伊藤ゴローさんをきちんとご存知だったのはなぜですか。伊藤さんはギタリスト・作曲家として非常に有名で、原田知世さんのプロデュースなどでも広く知られていますが。
Moon:ゴローさんの「naomi & goro」(布施尚美さんとのボサノヴァ・デュオ)が大好きでした。とても洗練されたボサノヴァで、私がやりたい方向の音楽をすでに実現しているミュージシャンだと思っていました。
――おお、以前からnaomi & goroを聴いていたんですね。
Moon:そうなんです。だから、ゴローさんと作品作りをご一緒できて、本当にうれしかったです。
――今回の『Tenderly』は選曲がかなりユニークです。リード・トラックにザ・コアーズの『What Can I Do』を選んでいるのも面白いですが、アメリカのパンクロックバンド、グリーン・デイの『Wake Me Up When September Ends』には、もっと驚きました。あの曲があんなふうになるなんて! 皆さんに訊かれたと思いますけれど、なぜこの曲を?
Moon:皆さん、特にこの曲に驚かれたようですが、私はふだん、ロックも聴くんですよ(笑)。好きな曲でどうしても歌いたい曲のひとつでした。今回、1枚目の流れを汲みながら、さらに私自身が歌いたいものを厳選し、モダンなコード進行に変えて挑戦しました。実はグリーン・デイに関しては、5年前にアコースティックギターとのデュオで歌った経験があり、意外に良かったんです。
――グリーン・デイを聴き、いつかぜひ、ザ・クラッシュの『London Calling』を歌っていただきたいと思いました。素敵な化学反応がある予感がしたもので。
Moon:『London Calling』ですか? 面白いかもしれませんね。今後、検討してみます(笑)。
――また、ミニー・リパートンの『Lovin’ you』やノラ・ジョーンズの『Those Sweet Words』などの大ヒット曲と、『Tenderly』や『’S Wonderful』といったジャズのスタンダードナンバーとして知られる名曲が絶妙なバランスで収録されていたのも興味深いです。
Moon:先ほども申し上げた通り、好きで歌ってみたい曲を選んだら、自然にこのラインナップになったのですが、モダンなコードのジャズでアレンジしていますから、統一感はあると思います。
――ジャズは日本で「難しい」と思われがちな音楽ジャンルです。さまざまな場所でよく聴かれているのに、なんとなく難しそう、と。韓国ではどうでしょうか。
Moon:韓国でも同じですね。実際、ジャズは難しいとも思います。
――とはいえ、聴く側はただ、楽しく気軽に聴けばいいですよね。
Moon:おっしゃる通りです。よりたやすく、わかりやすく、身近に感じていただいて、ジャズを楽しく聴いていただきたいと思っています。
――気負いなくジャズに触れるきっかけとして、たとえば『Lovin’ you』といった誰もが知る曲が入っているのは重要ですね。
Moon:まさにそうですね。そして、曲にいろいろな変化をつけられるジャズという音楽の魅力に気づいていただけたらいいな、と思っています。さらに、私の曲が気軽にジャズに出会うきっかけになれたら、こんなにうれしいことはありません。
音楽は世界共通。音楽を愛する心は同じです。
――昨今、日韓の政治情勢は決して順調とはいえません。でも、こうして私たちは音楽を通してつながっています。K POPスターたちは日本でも大人気ですし、HYUKOH(ヒョゴ)やADOY(アドイ)といったロックバンドも日本のミュージシャンとつながっていますし、リスナーもたくさんいます。
Moon:好きな音楽、好きなものを、一人でも多くの人と共有することを大事にしたいと思います。私も日本のミュージシャンたちと仕事ができたことを喜んでいます。少なくとも、音楽は世界共通の芸術で、政治とは別のもの。音楽を愛する者同士、しっかりとつながりたいですよね。日本の気候や料理も大好きですし、日本で受けるインタビューも、いつも楽しいです。
――最後に、同世代のLEE読者に何かメッセージをいただけますか。
Moon:まず、健康の大切さ、ですね。私自身が最近、身に沁みて感じているからです。お互い、自分の身体を大事にしましょう! それから、人生は短いです。私も、いつの間にか30代になっていました。できるだけ楽しみを見つけましょう。私の場合は、ジャズも人生の楽しみですが、暮らしの中にも、ささやかな楽しみを見出しながら生きたいと思っています。最近、韓国で流行っている言葉で「ささいなことだけど、確実な何か」というものがあります。きれいなネイルもそのひとつですね(笑)。ささやかな楽しみは人生に必要です。そして、皆さんの楽しみの中に私の音楽を加えていただけたら、本当にうれしいです。
取材・文/中沢明子 撮影/齊藤晴香
■Moon 『Tenderly』リリース記念ライブ
2019年8月16日(金)
モーションブルー横浜
開場 16:30 / 開演 18:00
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中沢明子 Akiko Nakazawa
ライター・出版ディレクター
1969年、東京都生まれ。女性誌からビジネス誌まで幅広い媒体で執筆。LEE本誌では主にインタビュー記事を担当。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)『遠足型消費の時代』(朝日新聞出版)など。