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LIFE

映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

ワンオペ育児ママが家出!? 人気俳優ロマン・デュリスが 『パパは奮闘中!』で“子育てあるある”を熱演!

  • 折田千鶴子

2019.04.24

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父と子どもとの絆を描く感動作

ここ日本でも、ロマン君ことロマン・デュリスさんの人気って、かなり高いですよね!? 『青春シンドローム』(96)に始まるセドリック・クラピッシュとのコラボで人気を博し、近年も日本でも大ヒットしたフランス映画『タイピスト!』(12)や、『彼は秘密の女ともだち』(14)の名演も忘れ難いロマン君。

ロマン・デュリス
1974年5月28日、フランス・パリ生まれ。 セドリック・クラピッシュの『青春シンドローム』(94)でデビュー。クラピッシュとは、『猫が行方不明』(96)、『パリの確率』(99)、青春三部作の『スパニッシュ・アパートメント』(02)、『ロシアン・ドールズ』(05)、『ニューヨークの巴里夫』(13)などでコラボを続ける。その他の代表作に『ガッジョ・ディーロ』(97)、『真夜中のピアニスト』(05)、『タイピスト!』(12)、『ムード・インディゴ うたかたの日々』(13)、『彼は秘密の女ともだち』(14)、『ゲティ家の身代金』(17)など。
写真:細谷悠美

 

デビュー当時のセクシー&キュートな青年のイメージが、鮮度を保ったまま44歳になった今も、違和感なくハマっているからこそ、つい“君”づけで呼びたくなってしまうのです。“永遠の少年”を思わせるクシャっとした笑顔に、母性本能をくすぐられずにいられない。そんなロマン君が、とっても魅力的な新作と共に来日されました!! それが、『パパは奮闘中!』です。

 

ロマン君が演じるのは、オンライン倉庫で働くオリヴィエという男性です。部下からも慕われ、管理側の上司からも信頼されているらしく、だからこそ板挟みにあって悩みは尽きず、毎晩のように残業続き。そうなると当然、2人の幼い子供の世話や家事は、すべて妻のローラ任せ状態。そんなある日、突然ローラが家を出て行ってしまうのです。ベビーシッターを雇う余裕もなく、オリヴィエはいきなり子育てと仕事の両立に迫られることになってしまうのですが――。

 

オリヴィエの台詞はロマン君から出て来た言葉

――ベルギー出身の新鋭ギヨーム・セネズ監督が書かれた脚本には、台詞が書かれていなかったそうですね! そんな場合、俳優は何を拠り所として演じ始めるのですか?

「台詞は書かれていなかったけれど、シーンごとの描写はかなり精密に書かれていたんです。と言っても3、4行だけど(笑)。僕ら俳優は、どこに着地すればいいのか、ということは理解しているので、そこへ向かって演技をしていく、という感じでした」

 

『パパは奮闘中!』
監督・脚本:ギヨーム・セネズ 共同脚本:ラファエル・デプレシャン
出演:ロマン・デュリス、レティシア・ドッシュ、ロール・カラミー、バジル・グランバーガー、レナ・ジェラルド・ボス、ルーシー・ドゥベイ
原題:NosBatailles/ベルギー・フランス/2018年/99分/フランス語
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル 宣伝協力:テレザ 、ポイントセット
協賛:ベルギー王国フランス語共同体政府国際交流振興庁(WBI)
@2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma
4月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

――ということは、オリヴィエの台詞はロマンさんが作り出したもの、ロマンさんから出て来た言葉、ということになりますよね?

「そう、台詞も話し方も、僕から出たものです。でも、すごく自然と出て来た感じでした。というのも人間としてのオリヴィエを探ろうと、リサーチをたくさん重ねたから。労働者のドキュメンタリーやルポタージュを、たくさん見たり読んだりして、彼らがどういう人物なのかを理解しようと努めました。似たような工場にも行って、オリヴィエと同じ立場であるチーム主任を一日中観察しました。彼がどんな動きをするのか、どんな会話をするのかなど、観察して理解し、しみ込ませた感じです」

――監督と意見が食い違うことは?

「まず僕が演技をしながら色んな言葉を吐き出し、監督が“それは必要ない”等々の判断を入れながら変えていく、という感じでした。自分でも“あ、ズレたな”と思ったら、監督から調整をかけられることが多かった気がします」

――ロマンさんの長いキャリアの中でも、そんな撮り方って初めての経験だったのでは?

「25年にして、まだ初めてのものがあったなんて、素晴らしいですよね。すべての監督がこのメソッドで俳優から引き出せるわけはないので、セネズ監督ならではの資質ゆえに出来たことだと思いました。彼は本当に、自分が求めているものへガイドするのが上手いんですよ。その能力に非常に長けた監督だからこそ、本作を撮り得たのだと思います」

 

妻を責めないオリヴィエはスゴイよ!

――演じたオリヴィエには、男性として共感を覚えましたか!? 女性としては、一杯一杯になって家を出てしまう妻ローラの気持ちが、すごく分かるのですが。

「いやぁ、僕はオリヴィエという男は、すごいと思ったよ。だって彼は決して、出て行った妻に対して非難がましいことを口にしないんだから。もちろん彼は完ぺきに動揺して困惑しているけれど、普通ならこんな状況に陥ったら、“あんな女!”みたいに罵倒する夫も少なくないんじゃないかな。彼は一度も妻をけなすようなことを言わない。僕だったら、そんなこと出来ないんじゃないかなぁ(笑)」

――ローラの気持ち、言動に対しては?

「う~ん、複雑。そりゃ今の時代、家事や子育てというのはフィフティ・フィフティで分担するというのは、もはや義務に近いものでもあるよね。でも、彼女の言動をなかなか理解できる……とは言えないなぁ……男として理解できない、とかいうわけじゃなくて……」

――ご自身がパパでもあるロマンさんとしては、ちゃんと50%引き受けてる?

「(苦笑)……そう願うけれど……目標としてはそうなんだけど……どうかなぁ。ただ僕はごく普通にパパをやっているから、この映画を通して、父性とは、とか母性とは、とか考えることはなかったんだ。こんな状況にならなくてラッキー、くらい(笑)。僕に子供がいなかったら、もっと色々と考えたかもしれないけどね」

 

そこを突かれたら言い訳できないよ(笑)!

――印象的だったのが、妻ローマから届いたハガキを破ってしまうシーン、そして同僚の女性と浮気をして帰って来たときに妹に対して気まずそうにするシーンでした。

「わ~お、どっちも男として、全く反論できないシーンを選ぶんだね(苦笑)。オリヴィエのことを上手く擁護できない、彼のダメなところが現れてしまった代表的なシーンだよ! まずハガキのシーンだけど、あれは演じるのもすごくキツかった!」

「子供たちに嫌われたくないからと言って、ぬるく演じてしまうのもダメ。でも激してしまうのもダメ……。その加減が非常に難しかったんだ。実は最初、(ハガキを喜ぶ)子供を平手打ちすると脚本に書かれていたのですが、現場で変えました。ローラに対して非難がましい描写がないのに、ここで平手打ちしたら、観客は不信感や嫌悪感を抱くだろう、と。あくまで彼は悪人ではないので、そういう色付けは止めよう、ということになりました」

妹に「何していたの?」と聞かれて、しどろもどろのオリヴィエ。ズバリ、言い当てられます(笑)!

――そしてもう一つの、浮気のシーンは?

「仕事と子育てを両立させることにヘトヘトになっていたオリヴィエは、悲しみに打ちひしがれてもいたし、ちょっと慰めも欲しかったんだよ。あのシーンで難しかったのは、信ぴょう性を持たせることだった。妻が失踪して間もないのに、ああいうことをするには、あんまりにも早すぎると思われるんじゃないか、とね。でもオリヴィエはセックスをしたかったのではなくて、包み込むような母性とか、人間の温かさに包まれたかったと思うんだ。あのシーンは、温かみが欲しい、という気持ちで演じたんだ」

――もちろん、それが滲んでいましたが、妹に聞かれて気まずそうにする表情などが、やっぱり上手い、ロマンさんならではの憎めなさ、と思いました。

「おお~、そう(ニンマリ)!? ありがとう」

 



敢えて事情はミステリアスに

――父と子どもの絆を描いた筋としては、かの『クレイマー、クレイマー』が引き合いに出されていますが、ロマンさん自身は、何か意識されましたか。

「あの映画は、僕も大好きなんだ。メリル・ストリープが演じた母親が、戻りたいけれど戻れないという、あの微妙な母親の心理がすごく分かるというか、なんか好きなんだよね。ただ向こうは80年代のニューヨークが舞台で、時代背景も情況も違う。全く違う映画だな、と僕は思ったから、参考には全くしなかった。ただダスティン・ホフマンが、朝フレンチトーストを焼こうとして上手く焼けない印象的なシーンは、確かに本作における、オリヴィエがシリアルばかり出してしまうのに通じる気もするけどね(笑)」

――女性としてローラに共感する一方で、長男が胸に火傷を負っていること、幼い妹の髪が男の子みたいにベリベリショートであることなど、子育てに行き詰ったローラによる虐待か!?とドキドキしてしまうような、非常にセンシティブな情況も埋め込まれています。

「何かが起こったということは暗示しつつも、そこは完全にミステリアスな部分として残しているし、だからこそいいな、と僕も思ってます。僕が思うに、あれは多分虐待ではないのだけれど、ローラが思い悩んでいる時に、アクシデント的に何かが起きてしまったんじゃないかな、と。それを彼女自身が非常に悔いているからこそ、悪循環に陥っているという可能性を感じることができるんじゃないかな。確かにそんな予感があった、何かがあったのかもしれない、と感じ取れるとは思うけれど、そこはあまり問い詰めない方がいいと、作品としてそう判断している描写だと思います」

――そういう微妙な描写も含めて、本作は全世界的にも、男女を問わず共感できる、非常に今日的な作品でありますよね。

「人って、誰かが奮闘する姿に、やっぱり感情を揺り動かされるものだと思うんだ。それがヒューマンな物語であればあるほどね。まさに『パパは奮闘中!』は、愛のこもった物語をベースにした、オリヴィエの奮闘物語。闘うパパの姿に愛がある、それこそが本作の魅力だと思っています」

 

ラストがまたいいのです!

安易なハッピーエンディングにはならずにいて、それなのに、一つ長いトンネルを抜け出せるような心持になれるんです。登場人物も私たち観客も、希望の光を胸に灯して劇場を後にすることができるというか、次に進めるような、そんな後味を噛みしめられる作品なのです。ふう~っと息を吸い込んで笑顔になれる、明日を生き抜いていこうという明るさやポジティブさをくれる、そんな後味が素晴らしいのです!!

そしてロマン君、やっぱり魅力的でした! 10年くらい前にも一度インタビューさせていただいたことがあるのですが、年相応に落ち着きを増していながらも、お茶目さは変わらず、味が増していました。

まずは多くの方々に、いきなり子育てを任されたパパの奮闘を楽しんで欲しいです。ママに出て行かれて寂しさを噛みしめつつ、頑張って大人になろうとする長男(小学校高学年くらい)も、寂しさから反抗的になる幼い妹も、2人の子どもも健気でいたいけで、胸ムギュウになること間違いなしです!

 

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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