キリッと締まった端正な顔立ち、色香漂う切れ長の目が、昭和の正統派スターを彷彿とさせる高良健吾さん。そんなイメージが最大限に生かされたのが、『木枯し紋次郎』シリーズなどを手がけた中島貞夫監督が20年ぶりにメガホンをとった『多十郎殉愛記』だ。伝説の監督の現場で本格ちゃんばら映画に挑んだ高良さんは、「この現場に呼ばれただけで幸せ」と表情をゆるめる。
多十郎の殺陣が愛そのもの
大切な人を守るための一振り
「30代最初の主演作という、特別な思いもありました。時代劇って日本人だからこそできることなので、すべてが楽しかったです」
演じたのは、ワケあって脱藩し、用心棒をして暮らす多十郎。やさぐれた風情、着流しの着崩れ姿がとにかくセクシー! 甲斐甲斐しく世話を焼くおとよでなくとも、誰もが惹かれてしまうはず。
「でも、多十郎はそういうことを、諦めて生きていますから。この時代の武士の、男女の関係は今とまったく違いますが、何が“粋”かということで考えると、多十郎の姿はすごくカッコいいと思います」
反幕府勢力を取り締まる見廻組に目をつけられた多十郎は、長州から訪ねてきた弟とともに襲撃を受ける。重傷の弟をおとよに託した多十郎は、ふたりを逃すため、一人で死闘を繰り広げる。
「多十郎の殺陣こそが、愛そのもの。愛するふたりのために自分の命を使おう、殉じよう、と。だから人を斬りまくる殺陣ではなく、ふたりを逃すための時間稼ぎ、自分の道を開ける一振りなんです。大きな振りの後また腰を落とすことで刀の重さが感じられる、非常に細やかで渋い殺陣でした」
近年人気復活の兆しにある時代劇の多くは、スピード感と音響で煽るが、本作は真逆。リアルで泥臭く、だから生々しい情感を生む。ラスト30分の竹林シーンは圧巻!
「映像では割って(カットが変わる)いますが、1分半程度の長回しで撮影を重ねて。体力をつけて臨んだつもりでしたが、あれはけっこう、キツかったですね(笑)」
多十郎を“粋”と評した高良さんに、その真意をあらためて聞いてみよう。高良さんにとって“粋”とは、どんなことだろう?
「自分の命に対してすごくカッコつけていた武士は、外面も大切にしつつ、何が粋かを常に考え、何より精神性で勝負をしていた。それがカッコいい。今の僕が思う粋とは『短く豊かな人』。“そこまで言うな、そこまで聞くな”という、中島監督が現場で口にされる二言、三言の言葉に重みのあること。粋って人生経験の中からしか出てこないんだな、と思いました」
そんな“粋”に惹かれる高良さんは、本作で経験した京都暮らしがとても心地よかったと語る。
「一カ月半暮らした京都は、肌に合ってすごく楽しかったです。どこかプライドが高いイメージがありますが、それは歴史やその中にある暮らしに誇りを持たれているからだと思います。仕事に誇りを持たれている職人さんも、熱心に聞けば受け入れてくれるし、教えてくれる。その感じが僕は好きで」
さて、31歳となった高良さんは、あらためて30代をどんなふうに受け止め、過ごしていくのだろうか。
「僕は普段から大切だと思うことが多くなく、両手、いや片手でいけるくらい。その大事なものを大切にして、丁寧に突き詰めていこう、と思い直しているところです」
Profile
こうら・けんご●1987年11月12日、熊本県生まれ。’06年『ハリヨの夏』で映画デビュー。主な近年の映画出演作に『ふきげんな過去』『シン・ゴジラ』(ともに’16年)、『うつくいしいひと サバ?』『彼女の人生は間違いじゃない』『月と雷』(すべて’17年)、『万引き家族』(’18年)など。現在、『アンダー・ユア・ベッド』『葬式の名人』が公開待機中。
『多十郎殉愛記』
幕末の京都。腕の立つ長州藩士・清川多十郎(高良)は親が遺した借金から逃れるため脱藩し、今や志も失い、居酒屋で用心棒をして暮らしている。店を切り盛りするおとよ(多部未華子)の好意にも、多十郎は素知らぬ顔。だが多十郎の存在を知った京都見廻組が、多十郎を捕縛しようとする。(4月12日より全国ロードショー)
撮影/岸本 絢 ヘア&メイク/ 高桑里圭(竹下本舗) スタイリスト/ 渡辺慎也(Koa Hole) 取材・文/折田千鶴子 ジャケット¥65000・シャツ ¥28000・パンツ¥37000/ エトセンス オブ ホワイト ソース
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