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LIFE

映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

「実は私○○好きなんです」な心を 絶妙なタッチでくすぐる、絶品映画を4つ大放出!

  • 折田千鶴子

2019.03.14

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語り出したら止まらない……魅惑の4作品

今回は、マニア心をくすぐると言ったら大げさですが、「実は私、〇〇好きなんだよね」と、語り始めたら熱くならずにいられない、そんな映画を4本、激しくおススメしたいと思います!

まずは、何度もウォ~と雄叫びを上げたくなるカンフーアクション映画の決定版『イップ・マン外伝 マスターZ』から。これはもう、CGを駆使したアクションとは真逆の、“魂が宿った肉体の究極技”に熱くならずにいられませんっ。

次なる2本は、実は硬派な社会派という骨がガッチリとありながら、片や命がけのサバイバルゲームの面白さに満ちた『ウトヤ島、7月22日』、片やオフビートコメディともいうべき面白さの『たちあがる女』。一見すると軽いお楽しみに満ちながら、その裏にしっかりと社会風刺や問題が流れているのが、何ともカッコよくて味わい深い作品です。

そしてラスト1本は、ちょっと難解に感じられつつも、それこそが身悶えする面白さにも繋がっているハンガリーの若い鬼才による『サンセット』

以上4本、お好きな方が観たらアドレナリンが逆流しそうになるハズですが、“これ系作品に触れたことがない”という方にこそ、是非おススメしたい。あなたの新たな世界の扉を開くチャンスかもしれません!!

 

実は“香港男気系&カンフーアクション”が大好物なんです。。アドレナリン爆発必至の『イップ・マン外伝 マスターZ』

『イップ・マン外伝 マスターZ』
監督:ユエン・ウーピン
出演:マックス・チャン、デイブ・バウティスタ、ミシェル・ヨー、トニー・ジャー
配給:ツイン 2018年/香港・中国/108分
オフィシャルサイト:http://www.ipman-masterz.com/
© 2018 Mandarin Motion Pictures Limited All Rights Reserved
3月9日(土)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

実は私、何を隠そう幼き頃からカンフー映画が大好きで、親に少林寺拳法を習いたいと駄々を捏ねて困らせた経験の持ち主でもあります。今でも香港男気系の作品は大好物! 何というか暑苦しかったり、笑いもコテコテだったり、練り込まれる恋愛もベタだったりもするのですが、その総てが心くすぐるというか、たまらないんです。

この『イップ・マン外伝 マスターZ』は、そんな香港アクション愛を心ゆくまで満たしてくれた傑作でした!! もちろんお好きな方はご存知でしょうが、ブルース・リーの実在の師匠である“イップ・マン”を描いた作品は、これまで数本作られてきました。

ドニー・イェン主演の『イップ・マン 序章』(08)、『イップ・マン 葉問』(10)、『イップ・マン 継承』(16)という三部作(既に4作目も完成したハズ)の他、アンソニー・ウォン主演の『イップ・マン 最終章』(13)や、 デニス・トー主演の『イップ・マン 誕生』(10)もありました。ウォン・カーファイ監督作の『グランド・マスター』(13)では、トニー・レオンが扮しました。それほどイップ・マンという方は、“詠春拳”の達人として尊敬を集めた伝説の武術家だったのです!

本作は“外伝”、つまりスピンオフ。ドニー・イェン主演の三部作の3作目『~継承』でイップ・マンに敗れ、武術界を去ったチョン・ティンチを主役とした物語です。つまりイップ・マンは全く本作に登場しないのですが(笑)、この背景を知ってみると、現在のチョンのしがない生活が、より切ないわけです!

舞台は1960年代、高度成長期に沸く香港。街の裏では犯罪組織が勢力争いを繰り広げていて……。そこに悲しいかな(物語的には嬉しいかな)、絡んでしまうのが、幼い息子を育てながら小さな食料品店を営んでいるチョンなのです。

ギャングに襲われそうになった女性2人を救ったことから目を付けられ、裏社会の闘いに身を投じる羽目になる……という、これまたありがちでベタな展開(笑)。しかも女性のうちの一人と淡い思いが通い合いそうになりつつ、チョンはポーカーフェイス! くぅ~っ。

案の定、次々現れる敵を、人知を超えた身のこなし(もちろんワイヤーですが)で颯爽と闘っては敵を倒していくのですが、“敗れて武術界を去った者”としては“詠春拳”を自ら封じているのです。しかし遂に最後の最後、封印を解いて“伝説の詠春拳”を爆発させる瞬間は、もう興奮の極致です!

“香港アクションの最終兵器”というキャッチの、チョン・ティンチ役マックス・チャンさんは、日本の玉山鉄二さんを彷彿とさせる甘いマスク。痛快な展開、男同士の絆や裏切らない義侠心というか、命をかけて義を貫く展開も胸アツです!! ミシェル・ヨーさん、タイ映画『マッハ!!!』主演のトニー・ジャーさんなど、キャストも豪華。

監督を務めるのは、『イップ・マン』シリーズをはじめ、『マトリックス』3部作などでもアクション・武術指導を行ってきたユエン・ウーピンさん。ちなみに東京の公開館・新宿武蔵野館には、木人椿も飾られているそう。観た後、それでトレーニングしてみたくてウズウズしてしまうかも(笑)! 是非、熱き闘いを大きなスクリーンで体感してください。

 

 生き抜けるか――。息をするのも忘れて一気見必至の『ウトヤ島、7月22日』。知的なティーンたちを襲ったライフル男の目的は!?

 前知識を得ずに観ると、瞬きをするのさえ忘れてしまう。こんなサバイバル映画、過去最強では!? 内容を知ってからは“不謹慎だったかも”と思ってしまうほど、心臓バクバク、手に汗握って息をするのも忘れてしまう72分間! なんと本編97分のうち、事件発生から収束するまでの72分間がワンカットで描かれているのです。なるほど、それゆえのリアル感、何が起きているのか分からない焦燥感、カ~ッと熱くなったまま見つめ続けさせられる臨場感を生み出したのか、と思わず納得してしまいます。

事件とは、実際に2011年7月22日に発生したノルウェーのウトヤ島で起きた無差別銃乱射事件のことです。首都オスロの政府庁舎前で爆弾が爆発し、ウトヤ島で毎年恒例行事のノルウェー労働党青年部サマーキャンプに参加していた10代を中心とした若者たちの間で、両親の安否を気遣い暗い表情でザワザワする描写から映画が始まります。その直後、パンパンと銃声が聞こえ、何が起きているのか分からないまま若者たちが逃げ惑う、サバイバルが始まります。

監督:エリック・ポッペ
配給:東京テアトル 提供:カルチュア・パブリッシャーズ、東京テアトル
2018年/カラー/ビスタ/97分
公式HP:http://utoya-0722.com/
Copyright (c) 2018 Paradox
2019年3月8日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

主人公は、反抗期の妹とともにキャンプに参加していた議論好きの少女カヤ。“逃げろ!”という声とともに、仲間と一緒に森に逃げ込んだカヤでしたが、妹の姿がないのが気がかりで、一人、テントのある広場に戻っていくのですが――。

私たち日本人にとっては、少年少女が標的となった理由がサッパリ思い当たらないのですが、ノルウェーでは政党ごとに青年部があり、キャンプに参加して国の未来について語り合うのが恒例行事なんだそうです。国の未来について真剣に議論する“未来の政治家たち”を標的にするのは、党に対する威嚇であり、十分すぎる打撃を与えたそうです。

恐怖に震え上がりながら観終えた後、資料をむさぼり読んでその事実を知り、「なるほど、そういうことだったのか……」と何度も深く長い溜息をついてしまいました。

未来のある若者たち69人の命が奪われた、信じ難いテロ事件……。パニックに陥りながら、励まし合ったり、知恵を絞ったり、兄弟姉妹を命がけで探したり……。両親らに遺した電話やメッセージなど、思い返すとガッツンガッツン脳天が勝ち割られそうなほど衝撃を受けてしまいました。犯人は、32歳のノルウェー人のアンネシュ・ベーリング・ブレイビクという、男の単独犯だったそうです。極右思想の持ち主で、移民政策に不満を抱いてテロを計画したとか。

監督は『ヒトラーに屈しなかった国王』『おやすみなさいを言いたくて』のエリック・ポッペ。なんと感想やレビューをまとめ上げればいいのか、心が千々に乱れる作品ではありますが、一気見必至の後、考え込まずにいられない。事件を追体験して、その事実の重みを知る。それもまた一つ、映画の大きな役割なのだと思います。

 

一人で“地球を救う一歩”のため孤高の闘いをするヒロイン。 でも漂う“すっとぼけ感”がたまらない『たちあがる女』

雄大なアイスランドの自然を背景に、“環境を壊すな~!!”と立ち上がり、弓矢を背負い、地元のアルミニウム工場に繋がる送電線を射抜いては、必死で逃げぬく推定アラフォー女性の姿を活写した、実にユニークな作品です。

監督・脚本:ベネディクト・エルリングソン
出演:ハルドラ・ゲイルハルズドッティル、ヨハン・シグルズアルソン、ヨルンドゥル・ラグナルソン、マルガリータ・ヒルスカ
2018年 / アイスランド・フランス・ウクライナ合作 / アイスランド語 / 101分 /
©2018-Slot Machine-Gulldrengurinn-Solar Media Entertainment-Ukrainian State Film Agency-Köggull Filmworks-Vintage Pictures
3月9日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

そんな世間を震撼とさせている謎の環境活動家“山女”という隠れた顔を持つハットラは、普段は地元のセミプロ合唱団の講師をしています。そんなある日、長年の願いだった(というか、すでに申請していたことを忘れていた)養子を迎える申請が通ったという知らせが届きます。母親になる夢を実現するためにも、なんとハットラはアルミニウム工場に最終決戦を挑もうとするのです。

黙々と緑の大草原を疾走し、政府を挙げて“山女”退治に乗り出す追っ手をかわしていく孤高の闘い――時に凍りかけた川に身を横たえたり!!――は、まるでハードボイルドな逃亡劇! 野原のど真ん中にある牧場に逃げ込んだハットラは、そこでクマ男のような牧場主に助けられ、命からがら逃げ抜きます。

ハットラと、“君が例の山女なのか!?”と驚きつつ匿ってくれる牧場主との、何となく好意を持ち合う関係も心くすぐります。また、その時々の心情を表すような音楽が、単に挿入されるだけでなく、なんとその場に演奏者たちが現れてハットラと顔を突き合わせながら、後ろでズンチャカ音楽が流れだす演出も、すっとぼけ感に拍車をかけて妙におかしみを生み出しています。

誰もがハットラの闘いに、“自分もそう思っても出来ない勇気”を見出して、憧れや好感を持たずにはいられないのです。だって、本当に今、地球はのっぴきならない状況に突き進んでいると私たち誰もが知っているのですから。つまり、非常にシリアスな世界の状況を映している映画であるわけなのです。

監督は『馬々と人間たち』で鮮烈なデビューを飾ったベネディクト・エルリングソン監督です。

なんとジョディ・フォスターが本作にほれ込み、監督・主演を兼ねてハリウッドリメイクすることが決まっています。そちらも楽しみですが、まずは本作で他の監督には出せない、女性の優しさと強さをまざまざ見せつけてくれる、ユーモラスな逸品の妙を味わってください。

 

難解!? いやいや未知なる世界に足を踏み入れて行く興奮でゾクゾクさせられる、たまらなく刺激的な“ヒューマン歴史ミステリー”『サンセット』

 かつてミニシアター・ブームが世間を席巻していた頃、なんだかよく分からないけれど妙に心惹かれる映画(主にヨーロッパ系)が多数公開され、“オッシャレ~”と高感度な人々が押し寄せました。あの、“答えに届きそうで届かないもどかしさ、でもスゴイもの観たような気がする高揚感と満腹感”が実は大好物だという方、少なくないのでは? でも近年そんな作品が激減し、ちょっと物足りないな……と思われている方に、激しくお勧めしたいのが、この『サンセット』です。実際、私自身にも分からないところがかなりあるのですが、たまらなくゾクゾクしながら目が逸らせない作品でした。

『サンセット』
3月15日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開
監督・脚本:ネメシュ・ラースロー『サウルの息子』
出演:ユリ・ヤカブ『サウルの息子』、ヴラド・イヴァノフ『エリザのために』
2018/ハンガリー、フランス/カラー/ハンガリー語、ドイツ語/142分
後援:ハンガリー大使館 原題:Napszallta  英題:SUNSET 
配給:ファインフィルムズ 
© Laokoon Filmgroup– Playtime Production 2018
http://www.finefilms.co.jp/sunset/

舞台は1913年のブダペスト。つまり第一次世界大戦直前のオーストリア=ハンガリー帝国が栄華を極めている、しかしどこか時代の陰りを予感させるような空気……ということを意識すると、さらに奥行きが感じられるかもしれません。ある高級帽子店に、イリスという若い女性が現れます。そこはオーストリア皇太子も訪れる、華やかで優雅な場所。実はイリスこそ、かつてこの帽子店を経営していたオーナー経営者の娘であることが、少しずつ分かってくるのです。現経営者から追い返されそうになりながら、自分には兄が居たことを知ったイリスは、失踪したという兄を捜すため居残るという、ミステリーの仕掛け人でもあるのです。そして帽子店の裏には、ある陰謀が見え隠れし――。

監督は『サウルの息子』(16)で、カンヌ国際映画祭グランプリ受賞というセンセーショナルなデビューを飾ったネメシュ・ラースロー。果たして監督自身が“ジャンヌ・ダルク”と喩えるイリスは、何を掴み、何を暴き、どんな決断をするのでしょうか。

怖いもの知らずな、予期せぬイリスの言動に、観る私たちも翻弄されながら、時に彼女自身に辟易したりムカついたりしつつ(笑)も、何かしら同志のような気持ちも芽生えてきます。どうにもならない(ならなかった)現実を受け止めつつも、私たち女性は力強く生きていく、という力がみなぎるような不思議な映画。簡単に答えが手に入って気分よくなれる映画よりも、確実に自分の中にくすぶるような“芽”を欲するあなた!!

ぜひ、この映画をご覧になって、たまらないもどかしさに身悶えしてください!! 必ずやあなたの知的好奇心を満たしてくれるハズです。

語り始めたら止まらない、興味が尽きせぬ4作品。ぜひ、お友達やご家族とご一緒に観に行って、大いに語り合ってください。

 

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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