本の虫、と自称していいか度合いがわかりませんが、出かけた先で古本屋を見つけると素通りできないくらいには本を愛していると思っています。ただし、読書量はマイペース。その時々で読みたいジャンルも変わるので、いまの気分とマッチするものはどれだろうと書店をひたすら回遊してみたり。ふと見かけた書評で取り上げられていたものを読んだり、装幀やタイトルが心に引っ掛かった一冊を手に取ったり……。自宅の本棚が重量オーバーなことには随分前から気付いていますが、なかなか想い出深い本たちを手放せずにいます。
読みたい時に読みたいものを、がポリシーな私の読書スタイルですが、2018年下半期にリリースされた書籍のなかから、おすすめの3冊をご紹介します。エッセイに小説。偶然にも主人公はすべて「女性」でした。
好きなものを好きなだけ食べるという
異色の食エッセイ
低糖質、野菜と茶色いものを中心に。身体のためにはそれも大切だけれど、今日はそうじゃないんだよなって言いたくなることはありませんか。私はよくあります(きっぱり)。エッセイ『わるい食べもの』は、小説家である著者が思いのままに食べる日常を綴った一冊。超のつく食いしん坊だけれど、決して美食家というわけではない。このエッセイの魅力は、そこにあります。連れが胃を壊すほどに食べ歩いてしまう旅。自宅に常備している板チョコ。幼少期のトラウマや、嫌いな食べ物。どのエピソードも強烈で、ニヤニヤが止まりません。
著者の千早茜さんは、幼少期をアフリカで過ごし、デビュー作『魚神(いおがみ)』が、小説すばる新人賞と泉鏡花文学賞をW受賞。文芸界のフロントを駆ける若手作家です。恐ろしいほどに食への執着をもちながらも、それをさらりと瑞々しく書き上げています。「わるい食べもの」を好きな時に好きなだけ食べたい。誰にも文句は言わせないぞ、という強い意思がページのこちら側にまでビシバシ伝わってきます。もっと食事を楽しもう、偏食万歳! と思わせてくれるピュアな一冊です。
女であることの楽しみと哀しみ。
映画化も決定した、韓国の大ヒット小説
#metoo が駆け巡った2018年、実は文学界でもフェミニズム関連の本が大きく展開された1年でした。その中でも私が夢中で読んだのが、チョ・ナムジュさんの『82年生まれキム・ジヨン』。韓国の平均的な30代女性の一生を追っていきながら、悩む学生時代や、辟易する会社員時代、絶望を感じる結婚・出産といったシーンを切り取り、ひとつの物語にしたもの。本国では2016年に発売した途端に話題になり、100万部を突破するベストセラーに。日本だけでなく世界16カ国での翻訳も決まっていて、すさまじい勢いなんです。
韓国は「女性が働きにくい国」というデータで、1位という結果を残しています (残念なことに日本は2位)。徴兵制度のため、女性に比べて男性は苦労している。だから社会全体が男性を守らないといけないという暗黙の空気が漂っていて、女性は我慢を強いられるばかり。賃金にも大きな格差があるといいます。ちなみにキム・ジヨンとは、82年生まれに実際に一番多かった名前だそう。多くの韓国人女性が共感した一冊ですが、私たち日本人女性、そして世界中の女性が共感できるはずです。
今年こそは挑戦したいという人へ
一風変わった恋愛小説ならこちら
映画監督でもあるミランダ・ジュライの初の長編小説は、NPO団体に長く勤める43歳の独身女性、シェリルが主人公。彼女の理想の暮らしは、なるべく穏やかに波風を立てずにいること。でも、その方法がちょっと可笑しい。部屋を汚したくないので、物は動かさないで自分が動くシステム。フライパンのまま食事をして、本棚の前で立って読書する。かといって、引きこもっているわけではない。同僚との関係は良好だし、片想いの相手へのアピールも忘れない。ちょっと変わっているかもしれませんが、地に足のついた大人の女性です。
誰にも邪魔されない、超〜快適な暮らしを満喫している<おひとりさま>シェリルですが、思わぬ展開に翻弄されます。それは、天井から落ちてきたタライのごとく、上司の娘が転がりこんできたこと。彼女は美人で、巨乳で、おバカで、足が臭い……。水と油のような関係の彼女と同じ屋根の下で暮らしはじめた途端、シェリルの人生がギアチェンジしていきます。物語の最初と最後でぐっと印象が変わり、思わぬ展開に驚くかもしれません。
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峰典子 Noriko Mine
ライター/コピーライター
1984年、神奈川県生まれ。映画や音楽レビュー、企業のブランディングなどを手がける。子どもとの休日は、書店か映画館のインドアコースが定番。フードユニットrakkoとしての活動も。夫、5歳の息子との3人家族。