キラキラした音楽を届けてくれる、Awesome City Clubが初のフルアルバムをリリース!
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中沢明子
2018.12.19
はじめまして! 仕事している時間より、ライブや舞台や美術館に行ったり、本を読んだりしている時間のほうが長いのでは?と周囲から疑われている、ライターの中沢明子です。好きなものを勧めまくる病も発症しているため、いっそのこと、思う存分、個人的に勧めまくるコーナーを持っても良いよ、とLEE編集部からお許しをいただきましたので始めます、題して『ライター中沢明子のお気に入り★文化系通信』。
というわけで、第1回目はデビュー以来、私がずっと愛してやまない男女ツインボーカルのバンド、から始めたい!と思い、ニューアルバムの完成を首を長~くして待っていた次第です。ようやく(?)完成した作品が期待以上にすてきなアルバムだったので、喜び勇んで、メンバーに会いに行ってきました。撮影は全員揃って、インタビューはフロントマンのatagiさんとPORINさんにじっくりと。キラキラした音楽を届けてくれる新世代のバンド、Awesome City Club。もう知っている人も、まだ出会っていない人も、最新作『Catch The One』が毎日に輝きをもたらせてくれるはずです!
ポジティブな気持ちをアルバムに詰め込みました。
――満を持してのフルアルバムのリリース、とても楽しみにしていました。このタイミングでフルアルバムをリリースした理由は後ほどお訊ねしたいと思いますが、まずは今回のアルバムのタイトル曲『Catch The One』についての思いをお聞かせください。いつにもまして、メロディも歌詞も、とてもポジティブな印象を持ちました。
atagi:今回はポジティブな心境を表現したいと思っていました。特にタイトル曲の『Catch The One』はアルバムの背骨となる曲。まとっているメッセージの根幹は、収録曲すべてに共通するものがありますが、端的にわかりやすく表現したつもりです。ちゃんとポジティブなメッセージが伝わっているなら、良かったです。
――キャッチしたいOneが誰なのか、何なのか。受け手が自分自身の大事なものを当てはめて聴ける曲ですね。そして、今回のアルバムは2018年の年末にリリースですから、2019年はこのアルバムの収録曲をライブなどでも聴き手と共有し、育てていくのだろうと思います。どんなふうに育てていきたいですか?
atagi:最近は、大人の感情を噛みしめられるライブにしたいと思っています。”楽しい、盛り上がる”のひとつ先は何だろう?と考えていました。僕はそんな気持ちで今回、曲を書いていたので、楽しく聴いて盛り上がっていただきつつ、奥に込めたメッセージもシズル感となって、聴く人の心にしっかり届くといいですね。
――シズル感……、受け手のひとりとしては、今までも十分に感じていましたが、より五感に訴えられるといいな、ということですか。
atagi:メッセージが強い曲は、ライブでかたちにするのが意外に難しかったりするんですよね。みんなでワーッ!と手が挙がっている光景がゴールなのか、お客さんがぐっとくるのがゴールなのか。あるいは、僕たちにはわからない、予測できない光景がゴールなのか。そのあたりを自分たちが考慮できるようになったら、さらにいいな、と思っています。
PORIN:『愛とからさわぎ』などは、もうライブの景色が想像できるんです。きっと、その場の熱量がぐんと上がると思う。お客さんと一緒にその熱を楽しみたいな、と思っています。
幸せを濁らせてはいけないと思う。
――それでいうと、今回は「ワーッと盛り上がる」曲が多めに感じました。
atagi:ああ、なるほど。僕は気にしていなかったですが、最終的にポジティブに解釈できる曲というのが共通点のアルバムなので、気分が上がる感じに仕上がった曲が多いかもしれません。
――なかでも、3曲目の『君はグランデ』の“幸せを無駄遣いしよう”というフレーズが印象に残りました。幸せは自分自身でかたちづくるもので、幸せになって悪いはずはないですが、社会のひずみのなかで今、厳しい状況にある人たちを思えば、幸せをアピールするのは後ろめたい、と感じる人もいる。そんなナイーブな気持ちを持っている人の肩を押してくれるフレーズだと思いました。
atagi:大人の意見だ(笑)。でも、僕が言いたかったのは、まさにそういうことです。何かと叩かれがちの空気がある昨今、他人の目を気にして、「いやいや、私なんて」と謙虚にふるまうのが美徳とされがち。でも、過剰な気遣いは、せっかくの幸せを濁らせてしまう気がする。幸せは人それぞれですけど、自分の幸せを遠慮することはない、と思う。その気持ちが“幸せを無駄遣いしよう”という言葉と結びつきました。
――2曲目の『SUNNY GIRL』は恋の歌ですが、LEE読者で子供のいる人がサビの部分を聴いたら、自分の子供が自然と思い浮かんで、しみじみと“ありふれた日々”の幸せをかみしめるかもしれません。
atagi:あ~、なるほど~。それはすごくうれしい感想だなあ。
PORIN:そんなふうに聴いてもらえたら、うれしいね。
――夫を見直して、忘れかけていた恋心を思い出す、という可能性ももちろん、ありますが。
PORIN:それはぜひとも、見直してください(笑)。
最新MVはライブバージョンの『Catch The One』!
これまで以上に自分たちの言葉を届けたい。
――メジャーデビューから3年半。架空の街・Awesome City のサウンドトラックというテーマで、コンセプチュアルなミニアルバムをリリースされてきました。このタイミングでそのテーマから離れ、フルアルバムを発表した理由を教えていただけますか?
atagi:これまでは作品ごとにコンセプトを立て、時代に沿うアルバム作りを目的としてやってきました。なぜなら、最近、特に若い人の音楽の聴き方が変わってきているからです。ストリーミングで聴くのが普通になり、10曲というフルアルバムのサイズであまり聴かれなくなった。だから、聴きやすい7曲入りのミニアルバムを半年に1回、要所要所でシングルを発表、というペースを守ってきました。それが、キャリアを重ねているうちに、時代に沿って作るという価値観への決別、みたいな気持ちが生まれたのかな、と思っています。
――その気持ちがこのタイミングで生まれたのはなぜでしょう?
atagi:時代に即したり、外からの見え方や自分たちがあるべき場所がどんどん推移していった結果、たまたま今というタイミングになった、ということ。4枚発表してきた“Awesome City Tracks”というミニアルバムシリーズに終止符を打ち、次に進みたいと考えるようになりました。それで、昨年リリースしたベストアルバムで一区切りをつけ、より自分たちの等身大の言葉を増やしたい、僕たちと音楽をつなげる作業に取り組みたいというマインドになったら、書く曲も変わってきた、という感じ。そうすると、アルバムのコンセプトを伝えるための曲数も自然と変わってくるので、今回はフルアルバムというサイズがしっくりきた……というのが、僕の「なぜ、今、フルアルバムを出すのか」の答えでしょうか。
PORIN:リリースもライブもたくさんやってきた3年半の間に、バンドがどんどん“開けて”いくのを感じました。聴いてくれる人たちともっと一丸になりたい、もっとフィジカルな反応が欲しい、もっともっと自分たちの思いを届けたい。そうした気持ちが2018年の初め頃から、楽曲作りにも反映されてきました。今回はそんな“2018年のACC”を総括したアルバムになっていると思います。
――2017年夏に、かなりポップな仕上がりの『ASAYAKE』(ベスト盤に収録された新曲)がリリースされたさい、並々ならぬ決意のようなものを感じました。若く、新しい感性を持つバンドの代表格として疾走するなかで、『ASAYAKE』は変化と進化を鮮やかに示していた。バンドに変化があったとすれば、あの頃からでしたか?
PORIN:ああ、もしかしたら、そうかもしれません。
atagi:どうなんだろうね? 少なくとも、2018年に入ってから、バンドのセオリーをひとつ見つけたように感じました。昨年までは、自分たちのできる音楽ってどんなものだろう?と手を一生懸命伸ばしながら、作品にTracks、Tracks2、Tracks3、Tracks4と名付け、いわばカタログ的に見せていた。そこから抜け出して、バンドのアイデンティティをしっかり持てたのが2018年だったと思います。
みんなで楽しめるカルチャーイベントを主催します!
――音楽以外の動きも含めてACC、という一面についてもお聞かせください。バンドのグッズもおしゃれだし、ライブ会場のグッズ売り場も工夫を凝らした楽しい空間にされていますよね。デビュー直後はクラウドファンディングの企画もしていた。リスナーと一緒に成長し、歩んでいこうといった姿勢を感じます。バンド主催の対バン企画もバラエティに富んだゲストを招き、カルチャーイベントでは、バンドがおすすめしたいアーティストやクリエイターを音楽からアートまで、ジャンルを横断して紹介していました。
PORIN:私たちも、もう新人ではないので(笑)、音楽を披露していくうちに出会った、すてきな人々やものがたくさんある。それをみんなに紹介したいという思いが生まれたんです。音楽の周りには、デザイン、服、イラストレーションなど、いろんなカルチャーが関わっています。そうした周辺のカルチャーとともに“みんなが自由に遊べて自由に発信できる場所”としてのAwesome Cityを創りたい。 具体的には、2020年に自分たちが出会った場所でもある東京・渋谷で、複数の場所を会場に、Awesome City Club主催の大規模なカルチャーフェスを開催する予定です。というのも、東京オリンピックの関係で、例年よりも音楽フェスが減りそうなんですが、日本が生まれ変わろうとしている今、情熱を持って発信する人たちを集め、いろんな出会いがあって楽しくいられる居場所になれたらいい。2018年8月にキックオフイベントとして、第1回目の「Welcome Awesome City Vol.0」を行いました。
atagi:カルチャーフェスという発想は、PORINの提案から始まりました。これまでの活動でつながりができたお客さんに、音楽以外の楽しい提案もできたらうれしい。2020年に向けて盛り上げていきたいので、2019年もカルチャーイベントを規模をだんだん大きくしながら、いくつか行います。
PORIN:ミュージシャン発信のカルチャーイベントってないですよね。トークイベントあり、ポップアップショップあり、いろいろごちゃまぜにして楽しい空間にしたい。
atagi:足を運んでいただくのは能動的な行動ですが、来たら受動的にどんどんさまざまな情報を得られる場所。僕ら5人のメンバーは、持っているカルチャーのバックボーンが絶妙に違うので、それぞれが持っている畑から特産品をお届けします、みたいなイメージです(笑)。
PORIN:場所ごとに担当メンバーがいる、というのも面白いかなあ、なんて妄想中です。もちろん、お子さんも大歓迎! ぜひ、家族で遊びにきてください。
――ハッピーなお祭りになりそうで、楽しみですね。2018年はPORINさんが「yarden」という洋服ブランドのディレクションもスタートしましたね。
PORIN:2017年からアパレルに強いマネジメント会社に変わって「やってみない?」と提案されました。私も服が大好きだし、同世代の女の子がふだん着たいと思える服を手掛けてみたい、と思いました。ただ、私はユニセックスが好みなので、ユニセックスなアイテムが増えていくと思います。余裕ができたら、キッズアイテムも作ってみたいです。
――バンドのスケジュールもすごく忙しそうなのに、両立は大変じゃないですか。
PORIN:両立、私、できてる?
atagi:できているんじゃないですか(笑)。
PORIN:頭の使う部分が違うので、逆にリフレッシュして、いい感じに両立できているような気がしています。
海外でも活動するのは自然なこと
――ところで、皆さんは台湾や韓国など、海外でもライブを行っていますよね。海外進出については、どうお考えですか。
atagi:改めて考えるまでもなく、最初から当たり前にするもの、でしょうか。インディーズ時代から、先輩のバンドたちが東南アジアでツアーを組んでいるのを目の当たりにしてきました。メジャーデビューしているアーティストのほうが二の足を踏んでいるように見えたほど、僕らにとっては自然なスタンス。日本国内でも言えることですが、実際、訪れる回数が増えるほど、動員も増えていく。草の根活動としても、普通に海外でも活動していきます。
――海外進出を加速させていく場合、歌詞は日本語でいきますか。それとも英語に?
atagi:僕らの場合は変えません。日本語ですね。だって、僕が「いいな」と思う台湾や韓国のバンドも自国の言葉で歌っていますから。細かい意味はわからずとも、異国の言葉がかえって“いい味”になって、好きになる。こうした感覚は、もしかすると今は、音楽好きの間で共有され始めた感覚かもしれませんが、それがもっと普通の感覚として共有される時代がやってくると思う。それと、よほど流ちょうじゃないと、日本語で伝えたいニュアンスを外国語で表すのは難しい。
PORIN:外タレが日本語で歌っていたら、ちょっと嫌だし(笑)。それと同じじゃないかなあ、と思います。
――そうしたナチュラルにボーダレスな感覚を持っているのが、若い世代ならでは、と感じます。海外で活動すれば、その国の人たちと仲良くなれますし、とてもいいことですよね。
PORIN:そうですね。この前、韓国でADOYというバンドと知り合い、規模感や感覚に共通するものを感じたんですが、一緒にアジアツアーをまわろうね!と約束してきました。遠征先のバンドと仲良くなって、国をまたいでいけたらいいなあ。
――韓国で一緒にカルチャーイベントを仕掛けるのも楽しそう。
PORIN:そうそう、向こうでもやりたい!
atagi:日本国内では3年後に日本武道館でライブができるような青写真を描きながら、進んでいきたいと思っています。要所でシングルをデジタルリリースして、元気に僕らが活動していることをリスナーと共有しつつ、成長していきたいですね。
ACCを聴けば、掃除がはかどる!?
――音楽が舞台やドラマなどのエンタテインメントと異なるのは、何かしながら聴いて楽しめる、という部分だと思います。なかなかライブには行けなくても、良い意味で気軽に楽しめるのが音楽。ACCの音楽も生活に彩りを加えてくれると思うので、ぜひまだACCと出会っていない方に出会ってほしいです。
atagi:僕は音楽を聴きながら掃除すると、すごくはかどるんで、たとえば掃除しながらでも、聴いてみてください。
PORIN:掃除がはかどる音楽(笑)。
atagi:真面目に話すと、たとえばストリーミングで聴いていただいたら、おすすめのアーティストがいろいろ出てきます。もちろん、僕たちの音楽を気に入っていただくのが一番うれしいけれど、そうでなくても、おすすめリストからお気に入りの曲にたくさん出会えるはず。もし、ストリーミングサービスを取り入れていないなら、聴くだけのNetflixみたいなものとして、取り入れてみてほしいですね。料金に十分見合う価値があると思いますよ。
――とてもいい締めの言葉をいただいたのに、最後にもうひとつ、おそらくファンが気になっているであろう件を質問させてください。atagiさん、最近メガネを外されましたが、フルアルバム発売のタイミングで思うところがあったんでしょうか。
atagi:ああ、それ、よく訊かれるんですが、たいした理由じゃなくて、ライブで汗をぬぐう時、いちいちメガネを外さなくちゃならなくて邪魔なんですよ。それが面倒で。僕がメガネをかけようとかけまいと誰も気にしないと思っていたのに、メガネかけたほうがいい、という声も結構あって。キャラ迷子になりそう(笑)。今は裸眼で過ごしています。視力は0.1ですが、慣れたので大丈夫です。
――そんな実用的な理由だったとは……。0.1の裸眼で過ごすのは、ちょっと心配ですが、明快な理由を聞けて良かったです(笑)。来年以降も、さらなるご活躍を期待しています。今日はありがとうございました。
atagi&PORIN:こちらこそ、ありがとうございました!
ブラックミュージックの要素を取り込みつつ、ちょっぴり甘酸っぱい感情を呼び覚ますAwesome City Clubの音楽。フレッシュな感性でムーブメントを起こそうとする行動力も大きな魅力です。キャリアを重ねて、ひと回りもふた回りも大きくなった彼らの今とこれからが本当に楽しみになった、インタビューでした。
★以前の作品で、特に私が愛している曲『Lullaby for TOKYO CITY』のMVはこちら。マウスやスマホを操作すると360度で映像が観られる画期的なMVです。
取材・文=中沢明子 取材協力=岡本尚之 撮影=齊藤晴香
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中沢明子 Akiko Nakazawa
ライター・出版ディレクター
1969年、東京都生まれ。女性誌からビジネス誌まで幅広い媒体で執筆。LEE本誌では主にインタビュー記事を担当。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)『遠足型消費の時代』(朝日新聞出版)など。