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家事をめぐる悩みを抱えるすベての人におくりたい、優しさとエールに満ちた一冊を

2018.11.25

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「家事」をめぐる悩みを持つ
すべての人におくりたい物語

『対岸の家事』 朱野帰子 ¥1400/講談社

男性の家事・育児にかける時間が先進国中最低水準の日本では、たくさんの妻たちがワンオペ育児でいっぱいいっぱいの日々を送る。手がかかる乳幼児の世話をしていればなおのこと、果てしなく繰り返される家事という「仕事」の虚しさに、「なぜ私だけ……」とため息をついてしまうこともあるだろう。『対岸の家事』は、そんなやりきれない想いに晴れやかな光を投げかけてくれる小説だ。

主な登場人物は、27歳で2歳の娘がいる専業主婦の詩穂、ふたりの保育園児を持つ35歳のワーキングマザー・礼子、外資系で働く妻の代わりに2年間の育休を取ったエリート公務員の中谷だ。ある日、乳児向け親子教室に参加した詩穂は、参加者のひとりだった礼子の「専業主婦は絶滅危惧種」という言葉を耳にして、自分の生き方に不安を抱く。だが、熱を出した子どもを抱えて途方に暮れる礼子を助けたのは詩穂だった。やがて詩穂は、がらんとした昼間の公園で遊ぶ中谷親子と出会う。「娘を社会に有用な人間に育てる」と自信満々でプライドが高い中谷に詩穂は辟易するが、貴重な「パパ友」として、礼子も交えた付き合いが始まる。

3人の立場や性別は違っても、家事や育児をひとりで抱え、時には「もう無理」と追い詰められてしまう状況は変わらない。ある事情から専業主婦になることを選んだ詩穂でさえ、ワンオペに耐えかねて、理性を失いそうになったことがある。そんな経験を経て、詩穂は丁寧に賢く家事をやりくりし、ゆったりと娘に接する暮らしができるようになった。詩穂の存在は、めまぐるしい日常に疲れ果てている礼子や、厳しい競争社会の中で生きてきた中谷を、少しずつ変えていくことになる。

「家事という仕事がどんなに大変か、知らない人が多すぎて、みんな困っている」と心の中でつぶやく詩穂がある行動を起こすラストに、読者は大きくうなずくだろう。家事をめぐる悩みを抱えるすベての人におくりたい、優しさとエールに満ちた一冊だ。

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取材・原文/加藤裕子

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