五感が喜び震えるような、優しく心にしみ入る感動作
『日日是好日』
茶道がこんなにも奥深く、美しく、興味深いものとは!
経験者には“今さら何を?”と笑われるだろうが、本作はその茶道を通し、いろんなことに目を開かせ、気づかせてくれる。森下典子のロングセラー自伝エッセイを映画化したのは、意外にも『さよなら渓谷』や『まほろ駅前』シリーズなどの大森立嗣監督。これまでのハードボイルドなイメージから一転、お茶を通して成長していくヒロインの物語を、繊細、かつやわらかなタッチで描き出した。
まじめでちょっとおっちょこちょいの20歳の典子(黒木華)は、母にすすめられ、従姉妹の美智子(多部未華子)と一緒にお茶を習うことに。初日、タダ者でないと噂の武田先生(樹木希林)は、挨拶もそこそこに早速お稽古を開始。作法のサの字も知らぬ2人は、目を白黒。意味も理由もわからない所作に戸惑い、質問するも、「意味なんてわからなくていい!」と叱られてしまう。それでも典子はお茶と相性がいいのか、ずっとお稽古を続ける。大学卒業、就職の挫折、失恋……。いつしか24年の時が流れ、うれしいことも悲しいこともくぐり抜けてゆく中、典子のそばにはいつもお茶があった――。
箸が転がってもおかしい20歳から、人生の酸いも甘いも味わった44歳までの典子を、黒木華が絶妙なニュアンスをにじませて演じ切る。最初は茶室を歩くのさえぎこちない、小さな失敗の数々に思わず噴き出し、後半に向かうにつれて流れるような手さばきに見惚れ、嘆息が漏れる。初日に「お茶はまず“形”から。先に形を作り、後からそこに“心”が入る」という武田先生の言葉をはじめ、お稽古の合間のさりげない言葉が心地よく響き、胸にたまっていく。典子が感じる四季折々、お湯と水の音の違い、雨音、風の匂いなど、観る者の五感もともに刺激される。タイトルの“いろんな日があるけれど、毎日が無事でよき日”という境地に、スッと溶け入っていくような感覚を覚える。日々の些事が愛しく思える、それぞれの人の心にしみる意義深い一作になるだろう。(10月13日より全国ロードショー)
コミュ力ゼロの天才女子が超ユニークな青春ドラマ
『マイ・プレシャス・リスト』
唯一の話し相手で、父の友人のセラピストから“幸せになるためにすべき6項目のリスト”を渡されたキャリーは、実行しようと奮闘するが、頭がよすぎるゆえのズレた発想や発言がおかしくて、噴き出し必至。初めての友情や恋、仕事、父娘の関係など、エールを送らずにいられない!(10月20日より新宿ピカデリーほかにて公開)
取材・原文/折田千鶴子
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