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森山直太朗さん「自分の世界を守るより、歌えることはなんでも歌いたい」

2018.09.15

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個人スタジオで取材に応じてくれた森山直太朗さん。2年ぶりの新譜『822』(パニーニ、と読みます!)は、ここで共同制作者の御徒町凧さんをはじめ、仲間たちとともに作った。ガラス戸に作品のタイトルと曲名がマーカーで記された室内で、リラックスした雰囲気の中、森山さんは語る。

自分の世界を守るより、歌えることはなんでも歌いたい

もりやま・なおたろう●1976年、東京都生まれ。2001年、"直太朗"名義でインディーズデビュー。’02年、ミニ・アルバム『乾いた唄は魚の餌にちょうどいい』でメジャーデビュー。’03年、『さくら(独唱)』がミリオンセラーとなる。’16年には15周年記念のオールタイムベスト『大傑作撰』をリリース。2018〜19『人間の森』コンサートツアーは10月26日(金)、埼玉・川口総合文化センターリリアメインホールを皮切りに全国をくまなく訪れる予定。

「曲が生まれた場所で話を聞いてもらい、記事を読んで聴いてくれた人に何かを感じてほしい。その一連の行程が魔法を生むと思う。だから、今日はぜひ、僕のスタジオに来てもらいたかったんです」

メジャーデビューして16年。その間に大ヒット曲『さくら(独唱)』や『夏の終わり』を世に送り出し、誰もが知るミュージシャンとなったが、今も全国の無料イベントで歌い、ラジオ局もたくさん訪れる。

「だって、僕なんてまだまだ。せっかく作った曲を一人でも多くの方に知っていただきたいですから」

ワーカホリックでもある。デビュー以来、休む間もなく活動してきた。趣味はサッカーとアウトドアというのは有名だが、ある日、当時マネージャーを務めていた実姉に、「(取材で)同じ話ばかりしておもしろくない」と指摘され、ショックを受けた。つまり、余裕と遊び心がなくなっている、という鋭い指摘。そこで、3年前に半年間の休業期間を設けた。

「言われたときは正直言って、ムッとしました(笑)。でも、自分は何がしたかったんだっけ?と問い直したら、仲間と楽しく音楽を作り、聴き手に届けることだったのに、ルーティンワークになりかけていた気がして。立ち止まって考える余裕がなかったんですね」

以前から興味があった山小屋を買い、ギターも持たず、室内を手入れし、草むしりして、日が暮れるまで、ぼんやりと過ごす日々。

「退屈や寂しさを久しぶりに感じました。呼吸の重心の深さも普段と異なっていた。それは圧倒的な感覚で、いかに自分が普段ノイジーな時間を過ごしているかを知りました。目を丸くして何かを見つめる感覚がすり減っていたことにも気づいた。退屈で寂しくて、早く休みが終わらないかな、と思いましたが、今は、もっと長く休めばよかった、と少し後悔(笑)」

今作には、休業直後の15周年イヤーを駆け抜けた後の折々に作った曲を集めて収録。母校・成城学園創立100周年記念の曲『花の名前』のように美しく壮大な曲から、『出世しちゃったみたいだね』といったちょっぴりシニカルな曲までバラエティに富んでいるのが興味深い。振り幅の大きな作品を作るのも森山さんの特徴だが、本作は特にその傾向が強い。

「歌えるもの、歌いたいものはなんでも歌いたい。日々感じるモヤモヤした“なんともいえない”感情を通り過ぎないでつかみとることも僕の仕事の一つ。大切な部分はそこで、自分のイメージに合わないから歌わないといったこだわりはないんです。自分が知っていることなんてたかが知れています。だから、自分の小さな世界観を守るより、なんでも歌っていきたいと思っています」

最近、結婚したことも話題だ。

「結婚したおかげで家族が増えた。僕は親戚が多いと誤解されますが、皆さんがご存じのメンバーでほぼ全部(笑)。実は少ないんです。だから、大事な親族が増えてうれしいし、無償の愛のようなものを感じられるようになった。それだけでも、妻に感謝ですね」

『822』

デビュー15周年を経て、新たな一歩を踏み出した森山直太朗が、折々の活動で創作した全11曲を収録。連続ドラマ『記憶』主題歌の『人間の森』、NHK Eテレ『みいつけた!』エンディングテーマ『みんなおんなじ』、日清「ぶっこみ飯」コラボレーション曲『罪の味』など、彩り豊かで、彼にしか作れない個性的な珠玉の作品が詰まった一作。初回限定盤はDVD付き。(EMI Records)


撮影/名和真紀子 ヘア&メイク/北島圭二 スタイリスト/上野真紀(UPWARD) 取材・文/中沢明子

シャツ¥19000・パンツ¥23000/スタジオ ファブワーク(エンハーモニック ターバン)

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